「大人のぬり絵」を看護師のストレス対策に

ぬり絵でストレス解消

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高齢者に限定しない
「大人のぬり絵」を看護師も

「大人のぬり絵」が静かなブームになっていることをご存知でしょうか。私は、大先輩の女性編集者から、「ちょっと今、はまっている。ストレス解消にいいわよ」などと聞いてはいたものの、興味がもてないままでいました。

ところがある夜、見るともなしに流れていたテレビ番組で、一人の女性が、「妹が日本から送ってくれたぬり絵をして気持ちを落ち着かせている」と話すのを聞いて、ちょっと驚くとともに、詳しいことを知りたくなってきました。

というのは、その女性が、遠い北ヨーロッパの国、エストニアで、国立歌劇場の主席フルート奏者として活躍している方だったからです。「えっ、エストニアで、こんな若い方が日本のぬり絵?」と、驚きました。

というのは、「大人のぬり絵」は、脳の老化やもの忘れの多さを意識した高齢者が、その予防のために行うものだと思い込んでいたからです。まだ30歳代だというという彼女が、それも異国の地でぬり絵をやっていることが意外なことに思えたのです。

ぬり絵本の著者は
自律神経研究の第一人者

そこで、先輩からすすめられて購入はしたものの、本棚に並べただけになっていた一冊の本、『自律神経を整えるぬり絵』*¹を取り出して、詳しく見てみることにしました。

本を手にして、またまた驚きです。なんと、イラストレーターと組んでこの本を書かれたのは、順天堂大学大学院の小林弘幸教授だったのです。うろ覚えですが、一時期テレビの健康番組などに次々と出演して注目されていた、あの「頑固な便秘を解消する名医」として人気の高い医師です。

調べてみると小林教授は、医学界では自律神経研究の第一人者として高名な方です。自律神経は内臓や血管の機能をコントロールしている神経ですが、その交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、さまざまな症状が現れることはよくご存じでしょう。

とりわけ大腸は、そのバランスの崩れによる影響を最も敏感に受けやすく、ストレスにより便秘になったり下痢になったりするわけです。テレビに登場したときの小林教授は、この自律神経のバランスという観点から、頑固な便秘に悩む患者をいとも簡単に救ってみせてくれたのです。

ぬり絵の和風モチーフが
日本人の気持ちを鎮める

話を本論に戻しましょう。少し大きめの書店に行くと、何種類かの「大人のためのぬり絵」と銘打った本が並べられています。それらをパラパラとめくって見比べてみるとわかるのですが、小林教授によるぬり絵本は、他のぬり絵本にないたくさんの工夫が施されています。

もっとも特徴的な点は、絵柄に、私たちの国に伝統的な和柄、つまり和風パターンのイラストを使っている点です。そういえば、先の東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムが使っている市松模様も典型的な和柄といっていいでしょう。和柄は私たち日本人に「懐かしい気持ち」を呼び起こしてくれます。

交感神経と副交感神経のバランスを整える

この「懐かしい気持ち」が交感神経と副交感神経のバランスを整えて、ストレスからくるイライラを鎮めたり、不安な気持ちを和らげたりしてくれるそうです。

また、和風パターンのモチーフを規則的に繰り返し塗っていくようになっているのも工夫されている点です。自ずと手の動きは規則正しいリズムを刻むことになり、そのコンスタントなリズムが自律神経の中枢である視床下部に働きかけて、交感神経と副交感神経のバランスを整えてくれるというわけです。

なお、小林教授の大人のぬり絵本は第二弾として、『自律神経を整えるぬり絵 日本の二十四節気をぬる』*₂が、さらに第三弾として『自律神経を整えるぬり絵 心やすらぐ動物たちを塗るが刊行されています。

ぬり絵で自律神経を整えるコツは
「焦らずにゆっくり塗ること」

実際にぬり絵をしてみるとわかるのですが、とにかく無心になることができます。ひたすら没頭して塗り続けていると、気になっていた嫌なことを忘れてしまいます。イライラも徐々に鎮まっていき、なんとも穏やかな気分になってくるのです。

自律神経のバランスが整った状態になってくれば、こころとからだの調和がとれるようになり、潜在能力も含めた自分が「持てる力」のすべてを出し切れるようになる、と小林医師は説いています。

自律神経のバランスを整えるポイントは、「ゆっくり」だそうです。とにもかくにも「ゆっくり」ということを強く意識すること。その要領で、1日15分程度を目安に、無理なく塗っていくことが自律神経を上手にコントロールする秘訣。ぜひ試してみてください。

自律神経を調えるには
呼吸法によるリラックス法も

自律神経のバランスを整えてリラックスする手段としては、呼吸法を用いる方法もあります。深く大きく息を吸い込み、その息を吐くときに十分な時間をかけるという腹式呼吸をイメージされたらわかりやすいと思います。

デルタ株によりコロナ感染が全国規模で急拡大し、不安や緊張の日々が続いている。自ずと呼吸は浅く速い胸式になりがちだ。不安や緊張を鎮めるには、横隔膜をゆっくり上下に動かす腹式呼吸に意識して切り替えるといい。その理想的な方法として坐禅の呼吸法を例に紹介する。

専門家らが開設した
「こころの情報サイト」の活用を

なお、2023年7月3日には、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が、「こころの健康づくり」に役立ててもらいたいと、「こころの情報サイト」を開設しています。

こころの病気の予防に重要なストレスとの付き合い方やこころの病気を早期に気づき対処するために知っておきたいこころの病気のサインなどについて、こころの健康と病気、さらにはその治療について研究を続ける専門家らがわかりやすく解説しています。詳しくはこちらをご覧ください。

専門家らによる「こころの情報サイト」が開設された。こころの病気の予防に必要な「ストレスをためないコツ」や早期に気づくための「こころの病気の特徴的なサイン」、病気になった場合に受けられる生活支援などを詳しく解説している。こころの不調に気づいたら活用を。

参考資料*¹:小林弘幸著自律神経を整えるぬり絵』(アスコム)

参考資料*²:小林弘幸著自律神経を整えるぬり絵 日本の二十四節気をぬる』(アスコム)

参考資料*³:小林弘幸著『自律神経を整えるぬり絵 心やすらぐ動物たちをぬる』(アスコム)