保釈中の元看護師が
訪問介護先での窃盗で逮捕の報
保釈中の元看護師(57歳)が訪問介護で担当していた高齢女性のキャッシュカードを使い、女性の銀行口座から現金を引き出していたとして逮捕された――。
少し前のことですが、このニュースを聞いてなんともイヤな気分になった方は少なくなかったでしょう。まずこの報については、「訪問介護」を「訪問看護」と誤報した全国紙があったことが問題を大きくしています。「えっ、訪問看護師さんが?!」と、より深刻な問題として受け止められ、訪問看護師という職業イメージを大きく損なわせています。
一例をあげると、在宅療養中の父親が訪問看護を受けている知人からは、「前科者なのに看護師免許がそのままで、再度訪問看護師としてまた同じような犯罪を起こすなんて。安心して訪問看護を頼めなくなってしまった」との声が届いています。
「いや、元看護師とあるし、被害に遭われたのは訪問看護ではなく訪問介護を受けていた女性ということだから、事件を起こした時点では看護師の有資格者ではないと思うけど……」などとあいまいな返事をしたのですが……。
では、看護職が罪を犯した場合、その免許はどうなるのでしょうか。特に訪問先で、あるいは在宅に移行する患者の退院支援の場などで、患者や家族から同様の疑問を投げかけられる看護職の方も少なくないと思い、調べてみました。
免許取消し等の行政処分は
保助看法の第14条で規定
報道によれば、逮捕された元看護師の女性は、4年前に当時の勤務先であった特別養護老人ホームにおいて、今回と同じ手口の事件を起こして逮捕、起訴され、実刑が確定しています。今回の事件は、その刑が確定し収監される前の保釈中のことのようです。
看護師や保健師、助産師の免許取消しや業務停止といった行政処分については、「保健師助産師看護師法」(通称、保助看法)第2章の第9条と第14条第1項(2014年6月25日最終改正)において次のように規定されています。
- 罰金以上の刑に処せられた者
- 保健師、助産師、看護師の業務に関し犯罪または不正行為があった者
- 心身の障害により保健師、助産師、看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定める者
- 麻薬、大麻もしくはあへんの中毒者
- 保健師、助産師、看護師としての品位を損するような行為のあった者
またその際に課せられる処分内容は、厚生労働大臣からの命令書による「行政処分」として、以下の3通りが規定されています。
⑴ 戒告(過失、失態などを強く戒める)
⑵ 3年以内の業務停止
⑶ 免許取消し
直近では19名に行政処分
うち6名が免許取消しに
看護職が何らかの犯罪や失態などを起こした場合の行政処分は、上記の規定に従い、厚生労働省の医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会の答申を踏まえ、最終的には厚生労働大臣の判断にゆだねられることになります。
直近の行政処分としては、今年(2023年)11月28日に厚生労働省が、計19名の行政処分と8名の行政指導(厳重注意)が決定したことを報告しています*¹。
行政処分の内訳は、最も重い免許取消し処分が6名、業務停止処分3年が1名、2年が1名、3か月が8名、2か月が3名でした。
免許取り消しになった6名の処分理由は、窃盗、有印私文書偽造、覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、医療品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反、強制わいせつ、過失運転致死、道路交通法違反などです。
行政処分を受けた19名の処分理由を見てみると、保健師助産師看護師法違反によるものはなかったものの、たとえば医療事故などが起きても、関与した看護職個人ではなく医師や病院全体に責任が問われることが多いと推察されます。ただし、医療機器や向精神薬などの取り扱いに関するものは発生しています。
今や看護職が活躍する場は病院内から地域へとどんどん広がっています。そこでは看護職個人が責任を負うべき場面が増えていることを肝に銘じておく必要はありそうです。
看護職に対する社会的信用と
看護職としての倫理性
さて、冒頭の窃盗罪で逮捕された元看護師の話に戻ります。厚生労働省の医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会が2016年12月14日にまとめた「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」のなかに、詐欺・窃盗に関してこんな一文があります。
(8)詐欺・窃盗
信頼関係を基にその業務を行う看護師等が詐欺・窃盗を行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対する社会的信用を失墜させるものである。
特に、患者の信頼を裏切り、患者の金員を盗むなど看護師等の立場を利用して行った事犯(業務関連の事犯)については、看護師等としての倫理性が欠落していると判断され、重い処分を検討するべきである。(引用元:「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」)
このなかの、「看護師等に対する社会的信用を失墜させるものである」、「看護師等としての倫理性が欠落している」とする部分には、大いに納得させられます。
とりわけ訪問先で窃盗事件を起こすなど、この先在宅療養者が大幅に増え、訪問看護ニーズがさらに高まることが予測されるときだけに、もってのほかというべきでしょう。
再教育において力を入れてほしいこと
仮に行政処分により「免許取消し」になったとしても、何らかの罪を犯せば、「元看護師」として社会に報じられるのが現実です。
このことを考えると、保助看法の第15条で規定されている「行政処分を受けた保健師、助産師、看護師が処分後に業務に復帰する際に義務づけられている再教育」においては、「看護職としての倫理の保持」に格別力を注いでいただきたいと思います。
また、今回のように、「訪問介護」の現場で起きていたことを「訪問看護」と誤報され、訪問看護に対する社会の信頼を失墜させるようなことが起きたときは、しかるべき団体やそれなりの立場の人が即座に声をあげ、訂正していくことも、社会的には必要なのではないかと思ったりもするのですが、いかがでしょうか。
なお、行政処分を受けるほどではないにしてもヒヤリハット的なことで責任を問われるような事態への備えとして、こんな記事も書いています。是非一度目を通してみてください。
参考資料*¹:厚生労働省「2023年11月27日医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会会議事要旨