がん化学療法による皮膚障害とスキンケア




スキンケア

抗がん剤や分子標的薬による
皮膚障害の悪化を防ぐスキンケア

がん化学療法では、抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤などが使われます。
使用する薬剤によっては、皮膚の乾燥やかゆみ、ひび割れ、爪や皮膚の黒ずみ、指先や爪の硬化、あるいは「ざ瘡様皮疹(ざそうようひしん)」と呼ばれるニキビのようなブツブツした発疹ができるなど、さまざまな皮膚障害が出ることがあります。

これらの皮膚障害が出ること自体、本人にとってはうっとうしい気分にさせるものです。
加えてこれが重症化してくると、痛みやかゆみなどの症状に悩まされるだけでなく、外見上の変化、つまり見た目の悪さを気にし、人に会うことを避けて外出を控えるなど、日常生活にさまざまなかたちで支障をきたすようになります。

また、皮膚が乾燥した状態が長引くと、皮膚バリア機能が低下して感染を引き起こす可能性もあります。皮膚症状の重症化がさらに進めば、抗がん剤など使用している薬剤の減量や化学療法そのものの中止を余儀なくされる事態ともなりかねません。

このような事態を未然に防ぎ、がん化学療法をスムーズに進めていくうえで欠かせないのが、患者自身によるスキンケアです。看護師さんには、化学療法を行うことが決まった段階から、スキンケアの大切さを患者に伝え、使用する薬剤から予測される皮膚障害に見合ったセルフケアの方法を指導することが期待されます。

皮膚障害を起こしやすい
殺細胞性抗がん剤と分子標的薬

がん化学療法で使用される薬剤のなかで皮膚障害を起こしやすいことがわかっているのは、「殺細胞性抗がん剤」のフッ化ピリミジン製剤とタキサン系の抗がん剤、および「分子標的薬」のEGFR*阻害薬とマルチキナーゼ阻害薬です。
*EGFR(epidermal growth factor receptor):がん細胞増殖因子の一つ「上皮性成長因子受容体」

殺細胞性抗がん剤は、従来最もよく使われてきた抗がん剤で、がん細胞が分裂して増えていく過程を阻害して、がん細胞の増殖を阻止する薬です。
これががん細胞だけに作用してくれれば問題ないのですが、1つだけ欠点があって、細胞分裂がとりわけ活発な正常細胞にも作用して皮膚障害のような副作用を引き起こしてしまうのです。

一方の分子標的薬は、がん細胞の増殖に関与している特定の分子に集中的に作用し、増殖を阻止する薬です。その特定分子を持たない正常細胞には作用しにくく、副作用は比較的少ないのですが、間質性肺炎などの重篤な副作用に加え、皮膚障害にも注意が必要だとされています。

なお、皮膚障害を起こしやすいこれらの薬剤については、静岡県立がんセンターが患者向けに作成した小冊子『抗がん剤治療と皮膚障害』(コチラ)のP.18-23に、「一般名」「商品名」「皮膚の症状」「対象となるがんの種類」別に一覧表としてまとめられています。

スキンケアを励行して
皮膚機能を極力健康に保つ

がん化学療法による治療が決まった患者には、おそらく医師から治療スケジュールとともに、副作用の1つとして皮膚障害のリスクがあることも伝えられるでしょう。
その際に、皮膚障害を最小限に抑えて皮膚の機能を極力健康な状態に保つには、毎日のスキンケアが欠かせないことに加え、「まだ治療前ですが、早速今日から意識してスキンケアに取り組みましょう」などと一言伝えておきたいものです。

このスキンケアでは、ご承知のように「洗浄」「保湿」「保護」の3点が基本となります。
その際の患者への伝え方のポイントは、こんな感じになるでしょうか。
⑴ 皮膚が汚れたら洗って汚れをしっかり取り、皮膚を常に清潔に保つ
⑵ 薬により皮膚が乾燥しやすくなるので、しっかり保湿をする
⑶ 薬により皮膚のバリア機能が弱っているため、皮膚を保護して刺激を極力避ける

皮膚のバリア機能が低下しがちであることを伝える

ところで、看護師さんに最も身近な皮膚障害は、手洗いによる手荒れではないでしょうか。
そもそもこの手荒れは、「水や洗剤など、外的な刺激の繰り返しによる皮脂の減少」「乾燥状態の放置などによる皮膚のバリア機能の低下」「アトピー素因など体質的に皮膚バリア機能が弱い」などの要因が重なって起こると考えられています。

重要なのは皮膚のバリア機能、つまり外部からの有害物質や刺激から皮膚を守るとともに、皮膚から水分などが失われないようにする働きです。
がん化学療法を受けている患者は、使用されている薬剤によってこのバリア機能が低下した状態にあると考えることができます。

そのため治療中は、常日頃習慣的に行っているスキンケアをいつも以上に意識して、十分時間をかけてていねいに行うこと、洗顔料やボディソープ、シャンプー、化粧品などを別のものに替える必要はないものの、アルコールを多く含む化粧水の類は皮膚の乾燥を促してしまうために避けた方がいいこと、などを伝えておけば基本的には十分でしょう。

分子標的薬のEGFR阻害薬に
最も多くみられる「ざ瘡様皮疹」

一方、分子標的薬はがん化学療法に使用される薬剤としては比較的新参者ですが、そのなかのEGFR阻害薬を使う場合は、少々厄介です。
「乾皮症(かんぴしょう)」と呼ばれる皮膚の強い乾燥や、爪の横の皮膚が爪を巻き込むように盛り上がり出血や強い掻痒感を引き起こす「爪囲炎(そういえん)」などの症状が出るのですが、最も頻度の高い皮膚障害は「ざ瘡様皮疹」です。

ひどいニキビのような発疹、それも多くの場合少し紅色がかった発疹が、EGFR阻害薬を使い始めて1週間経ったころから、顔だけでなく胸や背中を中心に、場合によっては頭皮といわず耳の中、全身いたるところに現れて、患者を苦しめます。

日本皮膚科学会が治療の手引きを公開

この場合も症状緩和や治療の基本は、洗浄、保湿、保護を3原則とするスキンケアです。
加えて、症状の現れ方や重症度によっては、保湿後にステロイド外用薬が使われます。
この場合は、洗浄する際に外用薬がとれにくく、汚れが残ったところに重ねて外用薬を上塗りすることになりがちです。そうならないように、適度な力で洗い、完全に汚れを取る方法を指導することが大切になってきます。

なお、日本皮膚科学会は2017年3月、学会ホームページ上で「EGFR阻害薬に関する皮膚障害の治療手引き」(コチラ)を公開し、EGFR阻害薬による皮膚障害の重症度を臨床場面での使用に沿うかたちで明示するとともに、皮膚科紹介のタイミングや使用薬剤などについても紹介しています。参考にしてみてはいかがでしょうか。

なお、皮膚障害ではありませんが、抗がん剤による「しびれ」などの末梢神経障害に悩まされる患者も多いようです。この予防策については、こちらで京都大学研究チームの取り組みを紹介していますので、読んでみてください。

乳がんなどの化学療法に使用される抗がん剤には、手足の感覚鈍麻やしびれなどの末梢神経障害を副作用として起こすものがある。この予防に、手足を冷却して末梢への血流を減少させる方法が有効であることが研究により実証されている。その方法を紹介してみた。