「帯状疱疹ワクチン」で職業感染を防ぐ

疲労・ストレス

過度の疲れやストレスを背景に
若者世代にも帯状疱疹が

過度の疲労やストレスが続き、免疫力が落ちているときに発症しやすい病気の一つに「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」があります。コロナの感染拡大は落ち着いたものの、長期にわたり患者対応に追われてきた看護職の皆さんには疲れやストレスがたまっているであろうことを考えると、帯状疱疹のことが気にかかります。

帯状疱疹については、50代以上や基礎疾患があって免疫力が低下している人に発症しやすいというイメージがあります。

ところが、コロナ禍の影響により働き方や経済状況が大きく変わりストレスや疲れがたまりがちな状況に置かれてきたことを背景に、20代、30代の若い世代が帯状疱疹で外来を訪れるケースも増えていると聞きます。

それだけに、特に医療現場で働く皆さんには、職業感染のリスクもあることから、帯状疱疹のワクチン接種による予防や治療について知っておいていただきたいと思い、そのポイントをざっとまとめてみました。

帯状疱疹の原因は
体内に潜む水疱瘡ウイルス

帯状疱疹の原因は、多くの人が幼少時に経験している「水疱瘡(みずぼうそう)」のウイルスです。水疱瘡にかかると、症状はいったんは治まるのですが、ウイルス自体はそのまま体内(神経節)に潜伏ししたままです。

その、いわば冬眠状態にあるウイルスが、何らかのきっかけで目を覚まし、活動を再開することによって発症するのが帯状疱疹。そのきっかけとなりやすいのが、過労やストレス、あるいは加齢などにより免疫力が低下した状態と考えられています。

コロナ禍で医療崩壊も懸念された状況は、そこで働いていた医療関係者にとって、まさにそのリスクの真っただ中にあったと言っていいでしょう。

体の片側に帯状発疹が出たら
速やかに皮膚科受診を

帯状疱疹は発症すると、体の右側か左側のどちらか一方にチクチク、ピリピリした痛みと水疱(水ぶくれ)を伴う赤い発疹が帯状に現れるのが特徴です。

この痛みについては、ズキズキとかなり痛くなると理解している方が多いようですが、これには個人差があり、全く痛みが出ない人もいるようです。同様に、水疱の現れ方にも個人差があり、たくさん出る人もいれば、痛みを伴う赤い発疹だけの人もいると聞きます。

発疹は体のいたるところに現れますが、特に胸から脇腹に現れやすく、顔や目の周りに出ることもあります。

首から上の帯状疱疹に起きやすい「帯状疱疹後神経痛」

帯状疱疹でやっかいなのは、皮膚症状だけで終わらないところです。神経にも炎症を起こし、「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれる神経痛が、あとあとまで残って患者を苦しめることになるのだそうです。

特に首から上にできる帯状疱疹は、三叉神経を侵して角膜炎を引き起こし、視力低下を招いたり、難聴や耳鳴り、眩暈(めまい)などの症状を引き起こすことも珍しくありません。

帯状疱疹には、原因ウイルスを抑える抗ウイルス薬があります。体の片側に痛みを伴う発疹が帯状に出ていることに気づいたら、速やかに皮膚科を受診して抗ウイルス薬と痛みに対する鎮痛薬による治療を受けておけば、帯状疱疹後神経痛などの深刻な事態を避けることができることをお忘れなく。

なお、帯状疱疹の予防について相談できる勤務先以外の、あるいはお住まいの最寄りの医療機関はこちら*¹で検索できます。

帯状疱疹ワクチンで
職業感染の予防を

ところで帯状疱疹は、VPD(Vaccine Preventable Diseases)、つまり「ワクチンで予防可能な疾患」の一つです。

VDPの数は驚くほど多いのですが、そのなかでも医療機関における院内感染対策として重要なものをピックアップし、医療関係者に対するワクチン接種について大まかな指針を示した「医療関係者のためのワクチンガイドライン」があります。

このガイドラインが取り上げているのは、「B型肝炎ワクチン」「麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘ワクチン」「インフルエンザワクチン」などですが、2020年6月には「帯状疱疹ワクチン」が追加されています。

帯状疱疹ワクチンの接種対象は50歳以上の医療関係者

ガイドラインの「帯状疱疹ワクチン」の項*²には、「医療関係者は他者への感染伝播を防ぐためにも発症予防のワクチン接種が推奨される」とあります。

帯状疱疹ワクチンの接種対象は50歳以上の医療関係者*で、「生ワクチン(ウイルスを弱毒化させた「乾燥弱毒生水痘ワクチン」)」と「不活化ワクチン(ウイルスの毒性を失わせた「乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン」)」のいずれかを接種することになります。

*50歳以上の医療関係者で、次の患者等との接触が想定される場合はワクチン接種の対象となる。「白血病、悪性腫瘍患者」「臓器移植患者」「副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬による治療中の患者」「HIV陽性者、AIDS患者」「放射線治療中の患者」「原発性免疫不全症の患者」「妊婦」「新生児」

生ワクチンは皮下注射で、接種回数は1回で済みます。発症予防効果は69.8%で、効果の持続性は5年程度とされています。

不活化ワクチンは筋肉注射で、2カ月以上の間隔を置いて2回接種します(2回目は1回目接種から6カ月後までに接種)。発症予防効果は96.6%で、効果の持続性は9年以上とされています。

接種対象の「医療関係者」とは、医療機関の受診患者および入院患者と接触する可能性のある人すべてを指し、そこには医療スタッフはもとより、事務スタッフ、清掃スタッフ、病院実習の学生やボランティア、医療機関に出入りする業者等も含まれます。

ただし、ワクチン接種は強制されるものではありません。また、持病などの治療で化学療法やステロイド剤など免疫を抑制する治療をしている方、またガンマグロブリン製剤を使用している方はワクチン接種は禁忌です。

接種する場合の費用負担、接種後に有害事象(副反応など)が起きた場合の対応は、各医療機関に一任されているようですから、上司などに一度確認してみたらどうでしょう。

お住まいの自治体によっては、帯状疱疹ワクチンの任意接種にかかる費用の一部を助成する制度がありますから、自己負担の場合は、役所に尋ねてみてはいかがでしょうか。

なお、帯状疱疹をはじめとする院内感染対策としてのワクチン接種については、こちらで詳しく書いていますので、是非一度目を通してみてください。

職業柄病気を抱える人に接触する可能性があれば、職業感染リスクを常に念頭に置く必要がある。標準予防策も重要だが、ワクチンによる予防接種により自らが感染源になることを防ぐことも重要だ。このワクチン接種の指針となるガイドラインのポイントをまとめた。
製薬会社の「グラクソ・スミスクライン」は、帯状疱疹という病名の認知度は高い一方で、「誰もが帯状疱疹を発症するリスクがあること」や「予防にワクチンがあること」に対する認知度が低いことから、帯状疱疹に関する世界初の「帯状疱疹啓発週間(2月28日から3月6日)」を立ち上げ、啓発活動に取り組む方針を打ち出している。

参考資料*¹:帯状疱疹の予防について相談できる病医院

参考資料*²:日本環境感染学会「医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版