本ページはプロモーションが含まれています。
アロマの香りが
夫を亡くした妻のグリーフケアに
40年余り連れ添った夫を数か月前に亡くされた仕事上の大先輩から、看護師さんによるご遺族へのグリーフ(悲嘆)ケアについて、とてもいい話を聞くことができました。
その先輩にとってご主人の逝去は、かねてから重い心疾患を患っていたとはいえ、あまりに急なことだったようです。出先で倒れたという連絡を受け、取るものもとりあえず病院に駆けつけたものの、「すでに夫は帰らぬ人となっていた」とのこと……。
突然の厳しい現実を受け止めきれなかった先輩は、嗚咽をこらえて駆け込んだ病棟のトイレで、声をあげてひと泣きしたそうです。少し気持ちが静まってきたところで、ふと気づいたのは、「辺りに漂うとても優しい香りだった……」。
さりげなく置かれていたアロマ・リードディフューザー
改めて辺りを見まわし、洗面台にアロマ用のリードディフューザーがさりげなく置かれているのを見つけたそうです。「おそらく病棟の看護師さんの配慮でしょう。家族には病院のトイレが時に、感情を発散する場になることを知っているからこそできることで、深い思いやりを感じました」
さらにこう続きました。「主人はきっと気持ちの優しい看護師さんたちに看とってもらって、安らかな気持ちで逝くことができただろうと、安堵したものです」
なお、遺族ケアについては、日本で初めてのガイドラインが2022年6月に刊行され、「遺族に対して慎みたい言葉」などが示されています。詳しくはこちらを。
日々のケアに活かそうと
アロマを学ぶ
「リードディフューザー」とは、置いておくだけで、スティック(枝木)の毛細管現象によりボトル内のアロマオイルを吸い上げ、部屋中に香りを漂わせてくれるアロマディフューザー、つまりアロマの香りを拡散させるツールです。
ろうそくタイプなどのアロマのように火を使う必要がないため安全です。そのうえ電源も不要ですから、コンセントの有無に関係なくあらゆる場所で使えるとして、アロマ愛好家の間では人気が高いと聞いています。
アロマの癒しを疼痛緩和やリラクセーションに
このところの静かなアロマブームのなかにあって、紹介した先輩のように、医療現場において「アロマに癒された」という話をちょくちょく耳にするようになりました。
さまざまな看護場面でアロマが使われていますが、多いのは緩和ケアの現場でしょうか。がんによる苦痛の緩和やリラクセーションなど、日々の看護に役立てたいと、臨床アロマについて学ぶ看護師さんも増えていると聞きます。
かつてアロマセラピーの看護への活用をテーマに取材したことがあります。その取材を受けていただいた看護師さんは、通信講座でアロマセラピーについて学んだことが、日々のケアにとても役立っていると話してくれました。
彼女には夢がありました。アロマについてさらに深く学び、代替療法としてアロマセラピーを患者に提供することだと、目を輝かせながら語ってくれたのです。
アロマオイルに関する専門知識を
アロマセラピーでは、芳香性の植物から抽出された「アロマオイル」と呼ばれる精油が使われます。この精油には200種類以上があり、個々の香りにそれぞれの薬理作用が期待できるのですが、なかには殺菌作用が強すぎて、人によっては粘膜を刺激されるとか、アレルギー反応を引き起こすものもあるようです。
そのため看護ケアの一つとしてアロマセラピーを安全かつ効果的に行うためには、精油(アロマオイル)に関する専門的知識が不可欠となります。
この点については、医療分野でのアロマセラピー普及と確立を目指して活動している「日本アロマセラピー学会」などのセミナー*¹を受講してみてはいかがでしょうか。
アロマの香りによるリラックス効果と
タッチング効果をもっと看護に
看護ケアとしてのアロマセラピーでは、香りによるリラックス効果に加え、天然のエッセンシャルオイルをブレンドしたアロマオイルを用いたマッサージを通して患者の肌に触れる、いわゆるタッチング効果も積極的に取り入れられるようになっています。
そこには、看護がナイチンゲールの時代から大切にしている「その人の持てる力」に働きかけて自然治癒力を高めようとする看護師さんの思いがうかがえます。
アロマを患者とのコミュニケーションツールに
実際、抗がん剤や放射線による治療が続いてつらかった時期に、担当の看護師さんから、「アロマトリートメントをしましょう」と、毎日のように腕や足のマッサージを受けたという50代後半の男性から、こんな話を聞いたことがあります。
「アロマの香りにも癒されたが、マッサージを受けながら看護師さんにつらい胸の内を聞いてもらっているうちに、自然と気持ちが落ち着き、それまで怒りをぶつけてきた妻と、これからについて穏やかに話し合うことができるようになった」
看護師さんによるアロマセラピーには、患者とのコミュニケーションを深める効果も期待できるということでしょう。
また、乳がんの術後に起きた上腕の浮腫が、看護師さんによるアロママッサージで「ずいぶん軽くなって助かった」という話を聞いたこともあります。
あるいは、アロマセラピーとしての、就寝前の手浴や足浴が楽しみで、「あれをしてもらうようになって夜中に目が覚めることがなくなった」という高齢者の話もありました。
高齢者を中心に患者ケアにアロマセラピーを取り入れるメリットと効果、実施上の留意点などにいては、緩和ケア病棟などでの看護経験をベースにプロのナースセラピストとして活動している所澤いづみさんによる『高齢者へのアロマセラピー―日々の看護・介護ケアに取り入れる (Holistic Care)』*²が参考になります。
看護ケアとしてのアロマの活用に
科学的エビデンスによる深みを
このように、看護ケアの一つとして取り入れられているアロマセラピーに対する患者・家族の反応は、概ね良好と言っていいようです。ただ、この動きを進めていくには、実践の科学としての看護という観点から考えると、いくつか課題もあるのではないでしょうか。
たとえばアロマオイルの選択は何を基準に決めるのか、アロマセラピーによるリラックス効果は何を指標に評価するのか……等々、その辺の研究がさらにスピード感をもって進められることを期待します。
つい先日、某大学病院の看護師長さんから、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の面談室にアロマリードリフューザーを置いてみたところ、その香りが気持ちを落ち着かせてくれたのか、参加者の口が軽くなったように思う、とのメールが届きました。
アドバンス・ケア・プランニング、いわゆる人生会議では、家族の参加のもとに、患者本人を中心にこれからの医療やケア、とりわけ「もしものとき」のことを話し合います。
人生の終わりを見据えての話だけに、やはりその場の空気は緊張に満ちたものになり、口ごもり、話が止まりがちですが、アロマの香りが緊張を癒してくれた、とのこと。そんな活用法もあるのだと、感心させられましたのでご報告まで。
アロママッサージでオキシトシン効果
なお、アロママッサージによるタッチング効果と「癒しホルモン」として知られるオキシトシンの関係について、こちらの記事で書いています。読んでみてください。
参考資料*¹:「日本アロマセラピー学会」のセミナー
参考資料*²:所澤いづみ著『高齢者へのアロマセラピー―日々の看護・介護ケアに取り入れる (Holistic Care)』(日本看護協会出版会)