看護における「傾聴」は聴くだけで終わらせない

看護としての傾聴

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患者とのコミュニケーションと
「傾聴する」ということ

看護職の方が職務中、患者や利用者などから暴言・暴力を受けた話を見聞きすることがあります。いわゆる「カスハラ」や「ペイハラ」ですが、そのとき看護師さんがとった対応で多いのは、「相手の言い分をただ傾聴していた」というものです。

この「傾聴」は、看護職の方がよく口にされる言葉です。ただ、長年看護の現場を取材してきた経験から、この言葉の使われ方、つまり意味するところが、最近はずいぶん変わっているように感じていますので、そのあたりのことを書いてみたいと思います。

「傾聴という言葉は使いたくない」
と語る精神看護専門看護師

もうかなり前になりますが、精神看護専門看護師のHさんを、勤務先に取材したときのことです彼女の専門であるリエゾン精神看護*の観点から患者とのコミュニケーションについて聞いていくなかで、「傾聴するということですね」と問いかけたことがあります。

これに彼女は敏感に反応し、「私は傾聴という言葉は使いたくありません」と、断言されたのです。続いてその理由を話してくれたのですが、当時の私は勉強不足だったこともあり、正確には理解できないままになっていました。

ところが、最近になりその明解な答えを、彼女の著書のなかに見つけ、「ああ、そういうことだったのか」と、了解することができました。

*リエゾン精神看護とは、精神看護の知識と技術を用いて、身体疾患患者が抱える精神的な問題や同僚スタッフのメンタル面での課題に「連携(リエゾン)」しながら対応していく看護領域のこと。

傾聴ではただ聴くのではなく
“言いたがっている”ことを知る

その著書のなかでHさんは、日々の臨床において「傾聴」という言葉をできるだ使わないようにしている理由を、こんなふうに説明されています。

一般的にみて「傾聴」という言葉には、「徹底して相手の話をただ聴いている」イメージが強く、聞き手側、つまり看護師サイドの、相手の話を理解しようとする姿勢が弱いように感じられる――と。

相手、つまり患者側からすれば、こころにうっ積していることを話すだけで気が晴れる場合も少なからずあるでしょう。だからカウンセリングなどにおいては、「傾聴する」ことがことのほか重視されるのだと思います。

しかし看護では、患者に話してもらうだけでいいケースはむしろ少ないはずです。患者が訴えている真意を正確に理解し、それにきちんと応えていかないかぎり、患者の満足は得られないことが多いのではないでしょうか。

自分の理解が正しいかどうかを
傾聴により相手に確認する

そこで彼女は、患者が話してくれたことを、自分がどのように感じ、理解したかを、「言葉にして患者に伝える」ことを意識して心がけていると言います。

自分が伝えたことに患者の納得が得られないときは、また話してもらい、よく聴いて、さらに理解したことを伝え……と、まさに「積極的傾聴」と呼ばれるやりとりを繰り返していくことにより話を深めていくというわけです。

コミュニケーションを通して患者理解を深めていくコツは、どうもこの積極的傾聴にありそうです。そしてこの傾聴する姿勢こそが、看護が大事にしている「その人らしさの尊重」ということにつながっていくのではないでしょうか。

看護コミュニケーションでは
「同意」ではなく「合意」が大事

彼女が指摘していることの非常にわかりやすい例として、「インフォームド・コンセント」という言葉の解釈をあげることができるのではないでしょうか。

この言葉が日本で使われるようになった頃の医療現場では、「説明と同意」という訳がもっぱら使われていました。しかし最近はどうでしょう。

「説明」して相手の「同意」を得るまでの間に、患者側と医療者側との「共感」なくしてはインフォームド・コンセントとは言えない、という考え方が主流になっています。そして、一方的に「同意」を得るのではなく、患者側と医療者側の双方が「合意」に至る、つまり「わかり合える」ことが必要なのだ、と……。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、いわゆる「人生会議」における患者との対話で重要とされる「シェアード・ディシジョンメイキング(共有意思決定)」に通じるものがあるのではないでしょうか。

患者が納得できないと
暴言・暴力に進展

この「合意」に至るまでには、彼女が指摘する「ただ聴くだけ」ではなく「傾聴して、言いたがっていることを理解する」プロセスが必須ですが、相手が言わんとしていることを理解しようとするやりとりを怠り、患者側が納得できない状態が続くと、患者側の不平・不満は蓄積していきます。

そして、苦情が多くなり、暴言・暴力につながることもあるように思います。さらにその先に、看護師さんが患者側からの暴力や暴言で心身ともに疲れ果ててしまうようなことがあるとしたら……。

そんなことにならないように、患者・家族との積極的傾聴を通してコミュニケーションを深め、わかり合える関係を築き上げる努力を続けていかれることを願っています。

ネット・ラーニングで
コミュニケーションを深める体験を

なお、斬新な取り組みにより最近注目されているメッセンジャーナース認定看護師の方々は、医療の受け手である患者・利用者と医療者との対話のありようをことのほか重要視されています。

単なる会話で終わらすことなく双方向のコミュニケーションにより、本音で語り合える関係の構築に取り組んでおられるわけですが、そのための体験講座では、「看護ネット・ラーニング講座」としてインターネットを駆使したマンツーマン研修「信頼を育てるコミュニケーション&カウンセリングマインド」も行われています。

メッセンジャーナースの認定を受ける受けないにかかわらず、患者や職場の同僚たちとコミュニケーションをより深めたい方は、是非一度体験されてみてはいかがでしょうか。

参考資料*¹:平井元子『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり (SERIES.看護のエスプリ)』(仲村書林)