看護師の「傾聴する力」をどう高めていくか

コミュニケーション

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「受動的傾聴」ではなく
「積極的傾聴」を

看護職の皆さんを取材させていただいていると、看護を語るうえでのキーワードとでもいいましょうか、よく口にされる言葉の一つに「傾聴」があります。

その取材を振り返ってみると、看護師さんが語る傾聴は、どちらかと言えば、Passive Listening(受動的傾聴)のイメージが強かったように思います。

つまり、話し手である患者や家族が話すことにじっくり耳を傾けて、うなづき、時に「そうですね」とか「わかります」などと相槌を打ちながら、ただ黙って聞いているという、あくまでも受け身に徹するコミュニケーションです。

このような傾聴の手法については、リエゾン精神看護専門看護師の平井元子さんが、著書*¹のなかでこんなふうに指摘しておられます。

相手が話すことをただ聞いているだけで、相手が言いたがっていること、伝えようとしていることを積極的に理解しようとする姿勢が弱いように感じられる、と――。

この考えのもと、平井さんご自身は、Passiveではなく、Active Listening、つまり「積極的傾聴」と呼ばれる聞き方を心がけておられるという話を、先に紹介していますが、読んでいただけましたでしょうか。

看護においては「傾聴する」ことの大切さが強調される。ただこの「傾聴」は、相手が話すことをただじっと聴いていればいいというものではない。聴いて理解したことを相手に伝えることの繰り返しにより、双方が納得して合意できることが大切だという話を。

傾聴力は看護師にも
臨床医にも必須のスキル

積極的傾聴については、看護師さんはよくご存知でしょう。アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャーズ(Carl Ransom Rogers)氏が提唱したカウンセリングスキルです。

「積極的」という言葉が示すように、相手の話を聞くときに、聞いた話を自分がどのように聞きとり、理解したかということを相手に伝え、確認をとりながら話を進めていくという、まさにテニスのラリーのようなコミュニケーションです。

相手が話す内容を誤解して受け取らないように、常に心配りをしつつ、相手への理解を深めていこうとしているわけで、そこには、話し相手に積極的かつ真摯に向き合っていこうという、聞く側の強い意思がうかがえます。

平井さんは、患者理解を深めるコツは、この積極的傾聴にこそあるということを、先の著書のなかで、多くのページを使い、事例を通して説明しておられます(p.120-134)。

最近になり私は、この積極的傾聴の手法が、看護師さんだけでなく臨床医にとっても、さらには他の医療スタッフにも、患者との関係を発展させて治療やケアの効果を高めるかかわりをしていくうえで、重要不可欠なコミュニケーションスキルであることを、一冊の本を通して、改めて実感させられました。

その本とは、京都医療センターで、糖尿病の患者教育と糖尿病チームのスタッフ教育に取り組んでおられる村田敬(たかし)医師が上梓された『『通じる力』医師のためのコミュニケーションスキル入門』*²です。

傾聴力が特に問われる
セルフケアに向けた患者教育

この本の存在を教えてくれたのは、取材以来かかりつけになっているN歯科医です。

歯科医療の現場では、この先高齢者がさらに増えることを受け、「80歳になっても20本以上自分の歯を保つ」ことを目標に、「オーラルケアの習慣化」に力を入れています。「ただ、そのセルフケア指導がなかなか実を結ばず、歯周病などを悪化させて飛び込んでくる患者が後を絶たないのが現実」と、N歯科医。

自分が日々行っているセルフケアの指導方法に何か足りないものがあるのではないか……。そんなふうに悩むなかで、たとえば糖尿病の専門医たちも自分たちと同じように、セルフケアの確立に向けて患者教育に力を入れているが、彼らがやっていることに何かヒントがあるのではないか、と考えるようになったそうです。そして出合ったのが、この本だったというわけです。

一方的な知識伝達になっていないだろうか

患者教育とかセルフケア指導というと、領域の別なく、医療者サイドから患者に向けた一方的な知識伝達型の手法をとることが多いとのこと。そこでは「どのような情報を伝えるか」にエネルギーを注ぐことになりがちですが、「そこが間違っていた」と――。

ある情報をいきなり伝えるのではなく、伝える前に、これから伝えようとしていることについて、すでにどの程度の知識を持ち合わせ、どのように理解しているのか、どう受け止めているかといったことを相手(患者)に逐一語ってもらい、その理解の程度や状況に合わせて伝えることが大事だと気づかされた、と。

「いわゆる対話型教育ということになるのですが、そのベースになるのが傾聴、それもActive Listeningをベースにしたコミュニケーションなのだと……。考えてみればそんな当たり前のことを十分やっていなかったということですよね」

傾聴力はさまざまな場面での
意思決定支援にも欠かせない

N歯科医の話に興味を持った私は、さっそくこの本を手に入れました。届いた本の目次をざっと見通したところ、第3章「伝える」の冒頭に、「伝えるのは、聞く以上に難しい」とあるのを見て、N歯科医はこのことを日々痛感しているのだろうな、と思ったものです。

さらにN歯科医が話してくれたことに関連して言えば、ポイントは本書の第5章「教える」にありましたそこは、「知識伝達型教育の限界」と「対話型教育の重要性」などに加え、「アドヒアランスとコンプライアンス*の違い」について解説するとともに、「チームアプローチを活用する」ことの重要性についても触れています。

*医療現場における「アドヒアランス(adherence)」は、「患者自らが治療方針を納得し、自ら主体的に治療・ケアを受けること」を言う。一方の「コンプライアンス(compliance)」には、「従順」「服従」といった意味があり、「患者が医師らの指示通りに治療やケアを受けること」を言う。

アドヒアランスとコンプライアンス

ちなみに「アドヒアランス」と「コンプライアンス」では、患者の「治療・ケアを受ける」という行為自体は同じです。ただ、そこに患者本人の意思が反映されているかどうかという点において、大きな違いが生じます。

従来主流だった知識伝達型教育に代表されるコンプライアンス型の医療・ケアでは、患者‐医療スタッフ関係が医療スタッフから患者に向かう一方向性の関係ですから、そこには患者の意思は、おおむね反映されていません。

これに対し、最近その重要性が叫ばれているアドヒアランス型の医療・ケアでは、本書が第4章で取り上げている患者の「自己決定権」が尊重され、患者‐医療スタッフ関係は、まず患者の思いに寄り添い、支持するというかたちで相互理解を図ろうとするものです。

自己決定権を尊重するうえでは、患者の意思決定支援、とりわけ合意形成というかかわりが重要になってくるわけですが、その際にも第1章にある「傾聴」、それもActive Listeningをベースにしたコミュニケーションスキルが、必須となります。

傾聴する力は訓練して身に着けることができる

「傾聴する力」に代表されるコミュニケーションスキルについて、本書の著者である村田医師はご自身の経験から、「生来の資質でなくて学べること、訓練できることを確信した」と書いておられます(序章より)。

この確信のもとに、医療現場で遭遇する場面を想定して、具体的なロールプレイを演じながらそのスキルを身に着けていけるように書かれているのが、本書の特徴です。

研修医を読者に想定して書かれてはいますが、臨床における患者との関係のみならず、医師をはじめとする医療チームのメンバーとのコミュニケーションを円滑化させるためにも、看護師さんに是非活用していただきたい一冊です。

臨床宗教師が語る「傾聴のコツ」

なお、傾聴に関してはプロである臨床宗教師として、またスピリチュアルケア師とスピリチュアルケアの教育にも参加しておられる僧侶が語る「傾聴のコツ」も、是非参考に!!

「カフェ・デ・モンク」と呼ばれる移動喫茶室で宗教者らが悩める人びとの苦悩に耳を傾ける活動が広がっている。この活動の生みの親である臨床宗教師の金田僧侶は、傾聴のコツを「ただ聴くことではなく、相手の物語を共有しようとすること」と説いている。

参考資料*¹:平井元子『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり (SERIES.看護のエスプリ)

参考資料*²:村田敬『『通じる力』医師のためのコミュニケーションスキル入門』(金芳堂)