がん哲学外来カフェで活動するがん哲ナース

待つ

本ページはプロモーションが含まれています。

がんになって悩むことは
恥ずかしいことではない

がんには、その種類やステージにいっさい関係なく、必ず何がしかの悩みがつきものです。

しかし、がんになって悩むことは決して悪いことでも、恥ずかしいことでもありません。

日本人の2人に1人が生涯に一度はがんを経験するといわれるこの時代にあっては、
がんの発症がわかったことをむしろ好機と捉え、大いに悩み、じっくり考えていただきたい。

その悩んだり、考えたりすることは、むしろこの先のあなたの人生をより豊かなものにすることにつながるはずだから――。

2008年1月、日本で初めての「がん哲学外来」を開設した順天堂大学医学部教授(現在は同大学名誉教授)の樋野興夫(ひの・おきお)医師は、その年の暮れに開かれた講演会で、会場に集まったがん患者やその家族らに、静かなトーンでそんなふうに語りかけていました。

運よく取材でその場に居合せた私は、がん患者とその家族らに「薬の処方箋」ではなく「ことばの処方箋」を届けたいと語る樋野医師の言葉に、いたく感動させられたことを10年余り経った今もはっきり記憶しています。

「がん哲学外来」は
がん患者らとの「語り合いの場」

樋野医師は、臨床の場で実際にがん患者を診ることはない病理学者です。

多忙な医療現場では、患者やその家族らのがんにまつわるさまざまな悩みにまで十分時間をかけて向き合っていられないのが現状です。

そんななか、病理医としてがん細胞に関する研究を介してがん患者と向き合ってきた樋野医師は、精神的な苦痛や悩みがせっかくの治療を妨げてしまっているケースが少なくないことに気づいた、といいます。

この、医療現場と患者との間にある何とも歯がゆい「すき間」を少しでも埋めることができるお手伝いができたら……。

そんな思いが募り、手探り状態で始めたのが、がん患者や家族らとの「語り合いの場」としての「がん哲学外来」だと、聞いています。

医師と患者という関係ではなく、対等の立場に立って、患者自身の命のことだけでなく、その周りにいる人たちの命についても一緒に考えたい――。

こうした考えに立つ樋野医師の活動は、多くのがん患者はもちろんのこと、がん患者にかかわるさまざまな立場の人たちの共感を集めました。

「がん哲学外来」が開設された翌年の2009年には「特定非営利活動法人(NPO法人)がん哲学外来」に、その後2013年には一般社団法人へと発展し、今や全国的な活動を展開するまでになっています。

メディカルカフェの有志による
「がん哲学外来ナース部会」

「がん哲学外来」を発展させた「がん哲学外来メディカルカフェ」も誕生しています。

がん患者や家族同士が身近な場所で集い、お茶を飲みながら、立場を超えて悩みについて語り合える場所として、北海道から九州まで、全国約200か所近い場所で開かれています。

この「メディカルカフェ」でスタッフとして活動しているのは、半分ががん患者とのこと。

そのなかには、自分ががんになって初めてがんという病気で悩むということがどういうことなのかがわかり、カフェを訪れるようになったという看護職の方が少なからずいるようです。

そんな看護職の有志が集まり、2012年には「がん哲学外来ナース部会」を立ち上げています。

そこでは、「ひとつのがん哲学外来カフェにひとりのがん哲ナースを」をモットーに、がん哲学に関する研修会やシンポジウムなどのイベントを開催しています。

今やこのナース部会には、自分ががんを病んでいるかどうかに関係なく、がん患者や家族らと語り合うなかで、がんという病気そのものや生きるということへの意識が変わり、この活動に自主的に参加するようになったという看護職の方も数多くいると聞きます。

ナース部会に次いで、2015年には、在宅ケアに関心のある人が集まり、「がん哲学外来在宅部会」の活動もスタートしています。

オンライン診療システムによる
「がん哲学外来リモケアサービス」

そして2019年4月、「がん哲学外来」は、在宅で緩和ケアを受けているがん患者やその家族に向けたオンライン診療システム「リモケア」サービスの提供を始めています。

リモケアとは「リモートケア(remote care)」、つまりテレビ電話を介して在宅のがん患者らとがん哲学外来にかかわる医師や看護師らが語り合う遠隔ケアの略称です。

折しも、新型コロナウイルスの感染拡大により、外出もままならない日々を強いられ、在宅がん患者やその家族らは非常に心細く、従来以上に不安な日々を送っています。

彼らはがん治療などにより免疫力が低下していて、新型コロナウイルスに感染しやすく、また感染すると重症化するリスクが高いことがわかっているからです。

先に、看護師さんの「やさしさ」と「おせっかい」をテーマにした記事で紹介した大先輩の女性編集者は、コロナリスクに半ば怯えながら在宅療養を続けているがん患者の1人です。

看護師の「やさしさ」は「単なるおせっかい」ではなく、プロとしての知識や技術に裏づけられたものであってほしい。そんな声が耳に入ってきた。「高齢者だから」「がん治療中の患者だから」とマニュアル通りの対応をされたとおかんむりの女性患者の声だ。

その彼女からつい先日、がん哲学外来のリモケアサービスを利用してみようと思うがどうだろうかといった内容の、相談メールが届きました。

「がん患者は感染リスクが高いと聞いているので、少しでも体調が思わしくないと、コロナに感染したのではないかと不安になったり、再発を考えたり……。そんな不安を、家に居ながらにしてじっくり聞いてもらえたらと思うのだけれど、どう思う?」

がん哲学外来のコーディネーター認定制度も

そこでがん哲学外来の公式Webサイトで調べてみました。

わかったのは、現時点では、がん哲学外来のリモケアサービスを在宅患者が利用するには、リモケアサービスに登録している医師を介して登録するなどの手続きが必要ということ。

彼女にはその旨話し、まずは担当訪問看護師やかかりつけ医に相談してみるように伝え、がん哲学外来のリモケアサービスが利用可能となれば、その旨詳細を教えてくれるようお願いしたところです。

なお、がん哲学外来メディカルカフェの活動に関心のある方は、手引きが用意されていますので一度目を通してみてはいかがでしょうか*¹。

この手引きには、「各地のがん哲学外来マップ」「各地のがん哲学外来メディカルカフェの連絡先」「がん哲学外来市民学会認定コーディネーターの認定基準」なども収載されています。

がん哲学外来のコーディネーターに関心のある方は、樋野医師らによる『がん哲学外来コーディネーター』(医学評論社)が参考になります。

参考資料*¹:がん哲学外来メディカル・カフェの手引き