失語症者のコミュニケーション支援者誕生へ




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失語症のある人の
意思疎通支援者養成始まる

我が国の脳卒中発症患者は近年減少傾向にあるようです。
減少してきているとはいえ、脳卒中の後遺症などで失語症になった人は、国内におよぞ50万人いると推定されています。

そのなかの一人を取材させていただいたことがあります。

この取材からすでに5年ほど経つのですが、そのとき彼が、言葉を一つひとつ探しながら懸命に伝えてくれた怒りのような訴えが、今もって頭から離れません。

「行政的な手続きをしようと役所に行くと、聴覚に障害のある人には手話通訳がいるし、視覚に障害のある人には代読する人がいる。それなのに、僕らのような失語症の者を支援してくれる人は、そこに誰一人いないんだ!!」

厚生労働省が、失語症のある人の意思疎通を助ける支援者の養成・派遣の制度化に着手したとの報に接したときは、このときの彼の厳しい怒りの表情が頭をよぎり、
「やっと彼の願いがかないそうだ」と、ひとまずホッと安堵したものです。

誤解されやすく
社会から孤立しがちな失語症者

失語症は、脳梗塞や脳出血、あるいは交通事故などで障害を受けた脳の部位により、「言いたいことが言えない」「言葉がうまく出てこない」といったブローカ失語のこともあれば、「聞き間違いが多く、人の話が理解できない」「意味不明の言葉が出てくる」などのウェルニッケ失語のこともあり、症状の現れ方は一様ではありません。

しかし、症状に関係なく彼らに共通しているのは、記憶力や判断力などは健康だったときと何も変わっていないことです。

にもかかわらず、会話ができない、つまり言葉を介して意思疎通をはかる言語的コミュニケーションに支障をきたしているのです。

そのため、失語症について理解できていない人からは、「認知症になってしまったのではないか」とか、「学習障害でもあるのかしら」などと誤解されることも少なくありません。

こうした誤解や偏見の目で見られることを嫌い、失語症の方が外出や他者との交流を避けて社会的に孤立し、引きこもりになることも珍しくないのが実情です。

そんな彼らが社会へ出ていくうえで、新たに誕生する「失語症者向け意思疎通支援者」のこれからの活動には、当事者はいうまでもなく、その家族や周りの友人などからも大きな期待が寄せられています。

失語症者向け意思疎通支援者には
40時間以上の養成講習が必要

新制度で誕生する「失語症者向け意思疎通支援者」は、厚生労働省が定めたカリキュラムに沿って、40時間以上の養成講習を受ける必要があります。

受講料は無料ですが、テキスト代(都道府県により異なるが、2000円前後)と交通費は実費で受講者負担となるようです。

この養成講習は都道府県単位で研修事業として行われるのですが、例えば東京都における講習内容はおおむね以下のようになっています。

【養成目標】
失語症者の日常生活や支援のあり方を理解し、1対1のコミュニケーションを行うための技術を身に付ける。さらに、日常生活上の外出に同行し意思疎通を支援するための最低限必要な知識及び技術を習得する。
【到達目標】
失語症者との1対1の会話を行えるようになり、買い物・役所での手続き等の日常生活上の外出場面において意思疎通の支援を行えるようになる。
【講習内容】
おおむね次の内容について講習を行います。併せて実習も行います。
◆必修基礎コース
・失語症とは何か
・意思疎通支援者の役割、心構え及び倫理
・コミュニケーション支援
・外出同行支援
・身体介助
・その他、失語症者の意思疎通支援に必要な事項
◆応用コース
・失語症と合併しやすい障害について
・福祉制度概論
・コミュニケーション方法の選択法
・コミュニケーション支援技法
・コミュニケーション支援実習
・その他、失語症者の意思疎通支援に必要な事項

(引用元:東京都福祉保健局*¹)

失語症者の外出や会議にも同行して
コミュニケーションを支援する

厚生労働省は「失語症者向け意思疎通支援者」の養成を、平成30年度(2018年4月~2019年3月)から始めることを都道府県に要請していました。

ところが、この年度内に養成講習会を開催したのは東京、神奈川、大阪、福岡などの11都府県のみにとどまっています。

また、講習会を受講した支援者の派遣は原則として市区町村の必須事業となっていて、今年度(2019年4月)からの派遣開始が期待されていました。

しかし現状は、報酬の問題などもあり、ほとんどの市区町村で必要な準備ができていないようです(ちなみに、同じ意思疎通の支援者である手話通訳者の場合、これだけで生計を立てるのは難しく、半ばボランティアとなるようです)。

なお、養成講習受講後、失語症の方から要請を受けて派遣された際に想定される支援内容としては、東京都の委託を受け支援者養成講習会を行う東京都言語聴覚士会の募集パンフレット*₂に、以下の6点が挙げられています。

⑴ 外出に同行し、他者とのコミュニケーションを支援
⑵ 交通機関の利用支援(路線図や案内表示の理解、窓口でのやりとりなど)
⑶ 会議での支援(会議の主旨の理解や会議におけるやり取りなど)
⑷ 同病者とのコミュニケーション支援
⑸ 銀行・役所など公共機関を利用する際は同行して、窓口などでのやりとりを支援
⑹ 買い物や娯楽施設などの利用支援

看護職は支援者と連携して
失語症者の社会参加を促す

看護の現場にあっては、失語症、つまり脳卒中などにより言語機能に障害を受け言語的コミュニケーションに支障をきたしている患者の多くは、発症後の間もないうちから言語聴覚士(通称「ST」)による言語訓練を受けています。

この訓練を通じて、個々の患者ごとに有効なコミュニケーション方法はおおむね把握できるでしょうから、これを活用するとともに、非言語的コミュニケーション手段等も駆使することにより、失語症患者とのコミュニケーションは比較的スムーズにできるようになっているのではないでしょうか。

しかし、今や看護の現場は地域に広がっています。
地域で暮らす失語症者の活動に見合うかたちでコミュニケーション支援を行っていくためにも、地域で活動する失語症者向け意思疎通支援者との連携が欠かせなくなってくることは、まず間違いないでしょう。

支援者のバックグラウンドを知ったうえで、その有効かつ積極的な活用を当事者や家族にすすめることは、失語症者その人の社会参加を促し、QOLを高めていくうえで欠かせないかかわりになってくるのではないでしょうか。

看護師のあなたがノウハウを身に着けるのも

あるいは看護師であるあなた自身が意思疎通支援者講習を受けてみるのも、失語症患者とのかかわりをより一層深めることにつながるようにも思うのですが、いかがでしょう。

その際の、養成講習に関する情報は、「失語症者向け意思疎通支援者養成講習会」にあなたが居住する都道府県名を併記してネット検索してみてください。
(㊟2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、講習会の開催が大幅に変更されています。上記WEBサイトをチェックしてみてください)。

なお、言語機能の障害によるコミュニケーション障害や高次脳機能障害患者のコミュニケーション特性については、慢性疾患看護専門看護師である下村晃子さんの著書『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える 』(仲村書林)の中(p.120-138)で、自らの高次脳機能障害によるコミュニケーション障害と向き合う医師の体験談とともに詳しく紹介されています。
関心のある方は是非読んでみてください。

参考資料*¹:東京都福祉保健局
参考資料*²:東京都言語聴覚士会募集パンフレット