放射線職業被ばくの防御策は万全ですか

放射線リスク

本ページはプロモーションが含まれています。

放射線職業被ばくのことを
認識していますか

看護師として東京近郊の総合病院に勤務するKさんから、先日、「気になっていることがある」と、心細げな声で電話がかかってきました。

「感染症の職業感染防護については研修も受けてそれなりに理解できているのに、放射線の被ばく防護に関しては、大学でも就職した病院でもきちんと教わっていないことに気づき、心配になってきた」と言うのです。

エックス線や核医学の検査を受ける患者を搬送するなどで、黄色の放射線マークが貼られた「放射線管理区域」に立ち入ることが、思っていた以上に多く、放射線の被ばくということが改めて気になってきたのだそうです。

この話を聞き、そういえば職業上の放射線防護についは、私自身も詳しく調べたことがなかったことに気がつきました。そこで今回は、K看護師同様の不安を抱える看護師さんに、放射線の職業被ばく防護について最低限の知識を提供できたらと思い、まとめてみました。

厚生労働省が全国8373の医療機関を対象に放射線被ばく管理体制について初めて調査した結果では、以下のように、放射線管理区域内に立ち入る医療従事者の被ばく量の評価や測定が徹底されていない実態が明らかになっています。
「33.3%の医療機関が必要な個数の線量計を配布していない」
「21.0%が線量計装着の必要性を周知させていない」
「15.2%が被ばく線量の管理をしていない」

放射線被ばく量の
測定が必要な管理区域

まずはK看護師の、「あの仰々しい表示のある放射線管理区域にはどのような規定があるのか」といったごく基本的な疑問を解くことから――。

医療における放射線の安全利用に関しては、「放射線障害防止法」の略称で語られることの多い「放射性同位元素等の規制に関する法律」(2017年11月に「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」から法律名を改正)があります。

また医療法でも、日常の診療に使用する放射線の適正利用と放射線を用いた検査や治療を安全に提供するための規定を定めています。

そこでは、放射線の「一定の線量、濃度または密度を超える恐れのある場所を管理区域とする」とし、医療機関では以下のような場所が「管理区域」に該当するとしています。

  1. 放射線治療室及び関連施設
  2. 診療用放射線照射装置(γナイフ、コバルト60遠隔照射装置等)使用室
  3. 診療用高エネルギー放射線発生装置(リニアック等)使用室
  4. 放射性同位元素装備診療機器(骨塩定量分析装置、Cs137血液照射装置等)使用室
  5. 診療用放射線同位元素(I123、Sr89、Ga67等)使用室
  6. 貯蔵施設
  7. 廃棄施設

放射線管理区域内では
被ばく線量計を装着

さらに医療法は、上記の管理区域内に立ち入る人を「放射線診療従事者」と定義。具体的には、放射線診療に従事、または放射性医薬品を取り扱う医師、歯科医師、診療放射線技師、看護師、准看護師、歯科衛生士、臨床検査技師、薬剤師等が該当します。

この、放射線診療従事者に該当する看護師らは、一時的に立ち入る場合も含め(例外あり)、全員が胸部または腹部に被ばく量を測定する個人線量計を装着して、外部被ばくによる線量を測定し、被ばくを線量限度*以下としなければならない、と規定されています。

*被ばくの線量限度については、年間20ミリシーベルトを超えると医療機関に対し国の行政指導が行われ、5年間で100ミリシーベルト(1年間では50ミリシーベルト)を超えた場合は、行政指導よりもさらに厳しい法令違反となる。

ここで言う「外部被ばく」とは、エックス線撮影時のように放射線源が身体の外部にあり、体外から被ばくする場合を言います。これに対し、呼吸や飲食により体内に入り込んだ放射線源から被ばくする場合は「内部被ばく」と呼び、同じ線量を被爆した場合でも放射線の影響は内部被ばくの場合がより深刻です。

被ばく線量計は基本1個
不均等被爆なら2個装着

外部被ばくに対する個人線量計、いわゆる個人モニタとしては、「ポケット線量計」や「フィルムバッジ」がよく使われているようです。

その装着部位ですが、身体に受ける外部放射線の被ばく線量が均一であれば、男性、または妊娠する可能性がない女性は「胸部」に、それ以外の女性は「腹部」に装着します。

一方、身体に受ける被ばくが均等でない「不均等被ばく」の場合は、線量計を2個用意し、1個は胸部か腹部に、残りの1個は体幹部あるいは末端部で放射線に最も多くさらされるリスクのある部位に装着します。

鉛の防護エプロン装着時も襟元に線量計を

看護師さんは放射線防護策として、鉛の防護エプロン(プロテクター)を利用することが多いと思います。その際、頭部や頸部などの体幹部に不均等被ばくのおそれがあるなら、防護エプロンに覆われていない襟元に、もう1個の線量計を装着することが奨励されています。

また、NICUなどでポータブルエックス線撮影の際に赤ちゃんを手で支えるためにその手への被ばくが懸念される場合は、手首に残りの線量計を測定しておけばより安心です。

放射線被ばくにより発症リスクのある疾病としては、皮膚潰瘍などの皮膚障害、白内障、白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がん、多発性骨髄腫などがあげられる。業務で被ばくし、上記のような病気にかかったことが労働基準監督署で認められると、療養補償給付、休業補償給付などが受けられる。
詳しくは、厚生労働省のリーフレット「放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ」*¹を参照されたい。

放射線の影響がわかる本

なお、放射線の人体への影響や放射線防護の考え方などを放射線影響協会がまとめた「放射線の影響がわかる本」は、2020年10月に改訂され、日本放射線看護学会のWebサイトからダウンロードできるようになっています*²。

医療機関で放射線を扱う場合、法令で義務づけられている線量計の装着状況を産業医科大学の研究グループが、2020年、医療従事者1348人を対象に抜き打ちで調査したところ、医師で61%、看護師で23%、全体で34%が線量計を装着していなかったことが明らかにされている。
IVR(画像下治療)やPET(陽電子放出断層撮影)、術中CT撮影など、放射線を扱う医療機器が普及し、医療スタッフが被ばくする機会が増えているだけに、放射線被ばくに対する意識改革が求められている。

放射線看護専門看護師が誕生。日本看護協会は2022年2月、専門看護師の専門看護分野に新たに「放射線看護」分野を設け、同年12月には全国で3名の放射線看護専門看護師が誕生している。

参考資料*¹:厚生労働省「放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ」

参考資料*²:放射線影響協会「放射線の影響がわかる本」(2020改訂版)