「徐放性製剤」を粉砕して投与していませんか

薬を砕く

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徐放剤を粉砕投与し
患者に悪影響が出現

日本医療機能評価機構は2023年3月に公表した「医療安全情報」において、徐放性製剤(略称「徐放剤」)の取り扱いについて再度注意喚起を行っています。

同機構は、すでに2020年1月に公表した「医療安全情報」のなかで、「徐放性製剤を粉砕して投与したことにより患者に悪影響が出てしまった」というヒヤリ・ハット事例を報告し、医療従事者に注意を促していました。

ご承知のように徐放性製剤とは、特殊な加工を施して、薬剤の有効成分が少しずつ長時間にわたり放出し続けるように、放出速度や放出時間、部位を調整した製剤です。

服用した薬剤が消化管内で砕かれたり、溶けたりする速度を低下させることにより、薬剤の成分が少しずつ放出し続けるように調整してあるのです。これにより血中濃度が急激に上昇するのを避けて副作用を回避、あるいは発生頻度を下げることができます。

さらに、一回の服用で薬剤の効果が持続する時間を延ばして服用回数を減らすことにより、アドヒアランスの改善効果、つまり患者が納得して医師の指示に従い治療に取り組む効果も期待できるとしています。

つまり患者が飲み忘れたり、不規則に服用する、あるいは服薬を中断することなく主体的に薬物治療に取り組むことにより、治療効果が上がるというわけです。

*日本医療機能評価機構では、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故に至る前に防いだものの、「ヒヤリとした、ハッとした」事例)の報告を受け、その内容や背景を詳細に分析し、同様の事故等の発生予防、再発予防に向けた提言を定期的に行っている。
また、報告のあったヒヤリ・ハット事例のなかから、医療安全対策上特に広く共有すべき事例を毎月ピックアップし、その分析結果を「医療安全情報」として公表することにより、医療現場に特段の注意喚起を行っている。

経管栄養中の患者に
徐放剤を粉砕して投与

日本医療評価機構によれば、「徐放性製剤を粉砕して投与したことにより、体内に有効成分が急速に吸収され、患者に影響があった」事例としては、2014年1月1日から2019年11月30日の間に、以下の4件が報告されているそうです。

  • ニフェジピンCR錠(商品名:アダラートCR他)
    粉砕投与により血圧低下の事例が2例
  • ケアロードLA錠(一般名:ベラプロストナトリウム)
    粉砕投与により血圧低下事例が1例
  • オキシコンチン錠(オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠)
    粉砕投与により意識レベルの低下&呼吸状態の悪化事例が1例

徐放剤の薬剤名によく使われる略語

上記の薬剤名にある「CR」はcontrolled release(放出をコントロールする)、「LA」はlong acting(長く効く)の略で、いずれも「徐放性」を意味しています。

この他にも、薬剤名に「(long;長引かせる)」「(retard;遅らせる)」「SR(sustained release;放出を持続させる)」「TR(time release;持続放出)の略字があれば、徐放性の薬剤として取り扱う必要があります。

略字のついていない徐放性製剤も多い

ただ、オキシコンチン錠やテオドール錠(気管支喘息・慢性気管支炎治療薬)、フランドル錠(狭心症・虚血性心疾患治療薬)などのように、略字の付いていない徐放性製剤も数多くありますから注意が必要で、安全のためには、個々の薬剤の添付文書*を確認する習慣をつけたいものです。

なお、上記の4事例は、いずれも経管栄養、つまり経鼻栄養チューブや腸瘻カテーテルから薬剤を投与した事例として報告されています。

*医療用医薬品の添付文書は、2021年8月から、これまで医薬品に同封されていた紙の添付文書は原則中止となり、電子的な方法で確認することになっています。その検索はこちら*²

ヒヤリ・ハット事例から

上記4事例のうち次の2事例が、2020年1月15日発行の「医療安全情報No.158」で、具体的に取り上げられ、「ヒヤリ・ハット」に至る経緯が紹介されています。

事例1 研修医は、患者が経鼻栄養チューブを挿入していることを知らず、ニフェジピンCR錠20㎎を処方した。
看護師は薬剤部より届いたニフェジピンCR錠を粉砕して経鼻栄養チューブから投与。1時間後、血圧が80㎜Hg台に低下した。
病棟薬剤師が患者の急激な血圧低下の原因を調べたところ、「徐放性製剤を粉砕して投与していた」ことに気づいた。

事例2 患者は肺高血圧症に対し、ケアロードLA錠を内服していた。
入院後、患者は気管挿管され、経鼻栄養チューブが挿入された。
看護師は、ケアロードLA錠を粉砕して経鼻栄養チューブから連日投与していたが、毎回、投与後に血圧が低下したため、ケアロードLA錠の添付文書を確認したところ、「徐放性製剤であり、粉砕して投与したことにより急激な血圧低下をきたした」ことに気づいた。

(引用元:医療安全情報No.158「徐放製剤の粉砕投与」

ヒヤリ・ハット事例発生後の取組み

上記事例が発生した2つの医療機関では、それぞれ事例発生後、以下2点を中心とした取組みを実施していることが報告されています。

  • 徐放性製剤は、有効成分の放出が調節された製剤であり、粉砕・分割・噛み砕いて使用してはいけないことを理解する
  • 患者に入院前から処方されていた錠剤を病棟で初めて粉砕・分割する際は、粉砕・分割してもよいかどうかを薬剤師に問い合わせるか、自ら添付文書で確認する

徐放剤以外にもある
与薬時に注意すべき薬剤

徐放性製剤以外にも、与薬時に特別注意したい薬剤があります。

たとえば「トローチ剤」は、口腔内で作用することを目的とした薬剤です。そのため服用する際は、噛み砕いたりそのまま呑み込んだりせず、できるだけ長く口腔内の唾液で徐々に溶かしながら、有効成分を極力長時間口腔内にとどめおくように指導する必要があります。

また、ニトロールなどの「舌下錠」は、口腔粘膜から薬剤の有効成分を急速に吸収させて治療効果を上げることを目的とした錠剤です。したがって、その名のとおり、錠剤を舌下に置き、溶けるまでそのままにし、唾液が出てもできるだけ飲み込まないようにします。

必ず水またはぬるま湯と一緒に

錠剤やカプセルを唾液だけで服用すると、ときに食道に薬がへばりつき、その部分だけ高濃度になって粘膜潰瘍を形成するリスクがあります。そのため、十分な水またはぬるま湯でしっかり飲み込むように伝えること、などは改めて言及するまでもないでしょう。

なお、薬には「飲み合わせ・食べ合わせリスク」という問題もあります。このリスクについては、杉山正康著『新版 薬の相互作用としくみ』(日経BP社)に詳しく書かれています。

特にその付録E「飲食物・嗜好品(21品目)と薬の相互作用」のなかには、「牛乳・乳製品と同時摂取を避けるべき薬剤」の一覧表もあり、参考にしていただけたらと思い、紹介させていただきました。

参考資料*¹:医療安全情報 No.65 2023年3月 「徐放性製剤の取り扱い時の注意について」

参考資料*²:医療用医薬品 添付文書等情報検索

引用・参考資料*³:医療安全情報 No.158「徐放製剤の粉砕投与」