食事誘発性熱産生と
エネルギー消費量
「食べている量は変わらないのに最近太りやすくなった」と感じたとき、私たちはまず食事の量を減らすことや運動をしてエネルギー消費量を増やすことを考えます。
このうち、仕事や家事などで体を活発に動かしたり、ウォーキングやエクササイズなどをして運動量を増やせば、確かに代謝を高めることができます。
代謝が高まればエネルギー消費量は増加しますから、肥満予防効果は期待できるでしょう。
しかし、食事の量を減らすのはどうでしょうか。
減食すれば筋肉量も減ってしまいますから、1日に消費されるエネルギー量の大半を占める基礎代謝量*を下げることになり、むしろ太りやすくなりがちです。
そこで、食事の量を減らすのではなく、食べ方や食事内容を工夫して、食事をすることによって消費されるエネルギー量、いわゆる「食事誘発性熱産生」を増やして代謝を高めてはどうだろうか、といった話を書いてみたいと思います。
*基礎代謝量とは、寝ていても、心臓の拍動や呼吸、体温維持、内臓の活動といった生命維持のために最低限必要なエネルギー量のこと。個人差はあるが、1日のエネルギー消費総量のおよそ60%を占めるとされている。
基礎代謝量の低下は、「消費エネルギー < 摂取エネルギー」の状態に陥りやすく、太りやすくなる。
食後に体が温かくなるのは
食事誘発性熱産生のため
食事をとると、体内に取り込んだ栄養素を消化・吸収するために、胃腸などの消化器官が活動してエネルギーを消費します。
食事誘発性熱産生とは、このエネルギー消費量のことです。
食事をすると、程度の差はあっても体が温かくなりますが、これは、この食事誘発性熱産生によるものです。
消化器官が消化吸収活動を行うためにエネルギーを燃やして体熱となり、体温を上げるためですが、そのぶん代謝が上がり、消費エネルギーが増えているわけです。
食事誘発性熱産生を増やすには
たんぱく質を
食事誘発性熱産生で消費されるエネルギー量は、食事内容(栄養素)、食べる時間、食べ方によって変わってくることがわかっています。
まず食事内容、つまり栄養素によるエネルギー消費量の違いですが、「たんぱく質」のみを摂取した場合が最も多く、摂取したエネルギー量の、なんと約30%が食事誘発性熱産生によって消費されるのだそうです。
具体的に言えば、100Kcalのたんぱく質をとると、食べるだけで安静にしていても30kcalが消費されることになります。
これに対して「糖質」のみの場合は約6%、「脂質」のみでは約4%ですが、私たちが通常食事として摂取しているのは、これらの栄養素をすべて含んだものです。
そのため、一般的な食事をして、食事誘発性熱産生によって消費されるエネルギー量は、摂取したエネルギー量の約10%程度と考えられています。
代謝を高める朝食を抜くことは
ダイエットの敵
また、食事をする時間ですが、同じ献立で、摂取カロリーも同じものをとった場合でも、食事誘発性熱産生が最も高まる、つまりエネルギー消費量が一番多いのは「朝食」を摂取した後で、その後は昼から夜に向かうにつれて減少していくことが確認されています。
朝食は、起き抜けのこころと体にスイッチを入れて活性化させるために重要であることは改めて言うまでもないでしょう。
加えて、食事誘発性熱産生により代謝をアップさせ、太りにくい体にするためにも朝食は欠かせない、つまり朝食を抜くことは、むしろダイエットの敵だということです。
やはり食事は、1日3食を規則正しくきちんと食べることです。
よく噛んでゆっくり食べて太りにくい体に
食事誘発性熱産生には、食べ方も大きく関係してきます。
たとえば、忙しいからと仕事をしながらとか、友人たちとおしゃべりをしながらの「ながら食い」で、よく噛まずに飲み込んだり、ドリンクとかムース状のものなど、流動食のような柔らかいものだけを食べるのはおすすめできません。
むしろ歯ごたえのよいものをよく噛んで、ゆっくり味わいながら食べたほうが、胃腸の消化吸収活動が活発になりますから、そのぶん食事誘発性熱産生が増えて、エネルギー消費量が増え、太りにくい体づくりにつながるというわけです。
食事誘発性熱産生を高め
代謝を高める食事のポイント
以上から、食事誘発性熱産生、つまり食事をするだけで安静にしていても消費されるエネルギー量を高めて代謝アップを図る食事のポイントをまとめると次のようになります。
- 朝食を抜かず、1日3食を規則正しくとる
- たんぱく質を多めにとる
- 「ながら食い」はやめ、よく噛んで、ゆっくり食べる
- 体が温まるスープなどの汁ものをとる
- 栄養バランスのよい食事を心がける
このうち「5」については、とかく食事誘発性熱産生とは無関係のように思いがちですが、実は大いに関係があるのです。
ご承知のように、それぞれの栄養素が体内でスムーズに消化吸収されてエネルギーとして効率的に利用されるには、その働きを助けるビタミンやミネラル類が不可欠だからです。
「栄養バランスのよい食事」と言われても、栄養学でも学んでいないかぎり、そう簡単にできることではありません。
しかし、「まごたち食」という食事のしかたを覚えていれば、比較的簡単に栄養バランスのよい食事をとることができます。
詳しくはこちらを読んでみてください。
魚の油が食事誘発性熱産生を増やす
なお、国立健康・栄養研究所の研究チームは、マウスを使った実験で、魚油(ぎょゆ)、つまり魚から採取して得られる脂肪油が、食事誘発性熱産生を亢進させることを確認し、「肥満予防効果を発揮していると考えられる」と報告しています*¹。
この実験で使用されたのは、血液サラサラ効果で知られるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む魚油です。
これらn-3系脂肪酸が、マグロや青魚に豊富に含まれることはご存じのとおりです。