「かかりつけ看護師」制度はなぜないのか

訪問看護グッズ

「かかりつけ看護師」の誕生を
期待する医師や患者の声は多い

最近、在宅で訪問看護を受けながら療養生活を送っている方や、家族を在宅で介護している方などから、以下のような質問を受けることがよくあります。

「かかりつけ医もかかかりつけ薬剤師もいるのに、看護師さんにはなぜかかりつけの制度がないのかしら。いま私がお世話になっている訪問看護師さんは私たちにとって最も身近な存在だから、是非かかりつけにしてもらえたらと思うんですけど……」

「行きつけの美容院もあれば、コンビニだってスーパーだっていつも同じところへ行くのは、やっぱり顔見知りで、自分のことをよく知ってくれている気心の知れた店員さんがいて安心だから行くわけです。だから看護師さんも、ホームナースになってくれたら、相談しやすいしだろうし、なにより安心できて心強いですよね」

ご指摘を受けるまでもなく、私も「なぜなの?」と疑問に感じている一人です。かかりつけ医として訪問診療を続けている開業医も、こんな意見を口にします。

「訪問看護師さんはなぜかかりつけ制にしないのかなあ。仕事ぶりを見ていると、在宅の患者さんやご家族の毎日の生活のことはもちろん、性格や家族関係などで、僕が見逃しているようなこともきちんと把握していて感心させられることが多く、ホームナースとして立派に機能していると思いますけどね」

「かかりつけ看護師」は
継続してかかわる点に特徴を

ホームドクターと呼ばれることも多い「かかりつけ医」については、体調が思わしくなかったり、気になる症状があったときに気軽に相談でき、必要があれば専門医や専門の医療機関を紹介してもらえる頼りになる医師、という理解が多いように思います。

確かに、患者にとってかかりつけ医をもつメリットは、健康に関することであれば領域の別なく、時を選ばず、なんでも気軽に相談できる点にあると言っていいでしょう。

しかし、それだけではありません。むしろ患者のメリットとして大きいのは、かかりつけ医は自宅や職場の近くにいて、自分の健康状態を継続して見てもらっていますから、何か異変があれば、自分にとって最適と思われる対処法を迅速に考え、対処してもらえることです。

かかりつけ医が決まっていないと、からだの不調を突然自覚したときなどに、「病院に行くべきかどうか」「どこを受診したらいいのか」などと迷うことになりがちです。

迷っているうちに病気がさらに悪化してしまうことにもなりかねません。あるいは、意を決して選択した病院を受診してみたものの「うちでは対応できないから」と、別の病院に行くように言われてしまうようなこともあるでしょう。

こうしたことを看護に当てはめて考えてみると、かかりつけ看護師に求められるのは、少なくとも特定の領域における高い専門性ではないように思われます。

一人の患者、あるいは一つの家族に継続してかかわり、その人の療養生活に関することであれば領域の別なく、いかなることにも満遍なく迅速に対処することができるという点に、特徴をおくべきだろうと思いますが、いかがでしょう。

「かかりつけ看護師」は
その人の看取りまで支える

かかりつけ医については、全国の内科医16,000余名から成る日本臨床内科医会が、「かかりつけ医」が多く参加する団体の責任として、広く一般に向け、以下のような「かかりつけ医宣言」を表明しています。

日本臨床内科医会会員は、幅広い医学的視野・知識を有し、実地臨床医として最新の医療を提供するだけでなく、
1. 生活習慣病などの適切な管理、感染症の予防、軽度認知症状やがんの早期発見、体力を維持するための生活指導などを通じて、健康寿命の延伸に努めます
2. 高齢者特有の病態を理解し、患者さんの生きがいを考慮して診療にあたり、人生の最終段階までを支えます
3. 常に患者さんに寄り添い、地域で安心して生活できるよう努めます

(引用元:日本臨床内科医会 かかりつけ医宣言*¹)

このなかにある「人生の最終段階までを支えます」というのは、「その人の看取りまで支える」ことと解釈することができます。

これは、仮にその人が在宅での死を希望するなら、その希望を受け入れて、オンコール体制で支えるということですから、これができる看護職は、訪問看護師ということになるのではないでしょうか。

「かかりつけ看護師研修制度」により
信頼に足るかかりつけ看護師を

人生100年と言われる時代にあって厚生労働省は、かかりつけ医を持つことを広く国民にすすめています。その期待に応えようと日本医師会は、2016年4月から「かかりつけ医機能研修制度」を新たにスタートさせています。

この研修内容を見てみると、在宅医療、緩和医療、感染対策、フレイル予防、リハビリテーション、摂食嚥下障害、生活習慣病、認知症、栄養管理、医療倫理など、かなり広範囲にわたる医療をカバーしようとしています。

地域における医療であることを考えた場合、医師に対応が求められるであろう幅広くかつ多彩な医療や健康課題のすべてに答えられるよう、まさにジェネラル(総合的)な力を身に着けることを意図しているようです。

加えて、講義に重ねて行われる症例検討で取り上げるテーマに「家族内の問題」を追加するなど、心身の健康問題のみならず、患者の人間関係を含む生活全般を見ていけるような研修内容になっているのも特徴です(詳しくは、日本医師会ホームページ*²)。

かかりつけ看護師に求められるのも、おそらく同じでしょう。専門看護師や認定看護師とは別の柱として、看護師としてのジェネラルな力と、患者やその家族と信頼関係のもとに長く付き合い、かかわっていく素養を身に着けたかかりつけ看護師の誕生を切望しているのは、私だけではないようです。

「かかりつけ看護師」と
「専門・認定看護師」との違い

なお、東京都医師会はかかりつけ医のポイントとして以下の5点を挙げています。かかりつけ看護師と専門看護師や認定看護師の違いを考えていくうえで広く参考にしていただけるのではないでしょうか。

1.近くにいる
身近で気軽な相談がいつでもできるためには、まず「近い」ことが重要と考えられます。
2.どんな病気でも診る
病気かなと思ったときに、まず、どんな病気でも真っ先に相談できるお医者さんがいれば、状況に適した医療がスムーズに受けられます。
3.いつでも診る
病気は24時間365日、いつでもどこでも発生します。「かかりつけ医」を基点に、地域医療機関との連携により、「いつでも、どこでも、誰にでも適切な医療を受ける」ことが可能となります。
4.病状を説明する
「かかりつけ医」は、患者の疑問に率直に丁寧に答え、納得のいく治療方針を検討してくれます。
また、患者の生活を支援するために、地域の医療・保健・福祉機関へのコーディネーターの役割も担ってくれます。
5.必要なときにふさわしい医師を紹介する
「かかりつけ医」は、高度の診療機能を持つ専門病院との連携で、それぞれの機能を分担。病状に応じてふさわしい医療機関、医師を紹介してくれます。

(引用元:東京都医師会ホームページ*³)

引用・参考資料*¹:日本臨床内科医会 かかりつけ医宣言

参考資料*²:日本医師会ホームページ

引用・参考資料*³:東京都医師会ホームページ