「倹約遺伝子」が太りやすく痩せにくい体質に

減食ダイエット

日本人の3人に1人が
倹約遺伝子をもっている

少しふっくらした体型になりたいと食事を増やしたり運動をしているのに太れないという悩みを抱える方が、男女を問わず少なからずいます。その一方で、好きな物を食べるのを極力我慢し、運動にも励んでいるのに痩せられないと悩んでいる方もいます。

どちらにも、「親譲りの体質だから」などと半ばあきらめ気分でいる方が少なくないようですが……。肥満や糖尿病で悩んでいる方に多い後者の問題については、「倹約遺伝子」、別名「節約遺伝子」、あるいは「肥満遺伝子」とも呼ばれる遺伝子の存在が大きく関与していることが、このところ改めて関心を集めています。

日本人ではこの「倹約遺伝子」をもっている人の割合が約34%、およそ3人に1人と、欧米人に比べて2倍ほど高く、日本人が肥満しやすく、また2型糖尿病*にもなりやすいことに大きく関係しているのではないかと、考えられています。

最近、この倹約遺伝子について知人と話す機会があり、その存在がなかなか手ごわいことに気づかされましたので、今回はその話を書いてみたいと思います。

*2型糖尿病:糖尿病には治療にインスリン注射が必須の「インスリン依存型」(1型糖尿病)と、治療に必ずしもインスリンを使わなくてもいい「インスリン非依存型」(2型糖尿病)がある。日本人の場合、1型は全糖尿病患者の5~10%で、残りの90%以上が、遺伝的要因に食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が加わって発症する2型糖尿病だとされている。

倹約遺伝子をもっていると
2型糖尿病になりやすい

その知人はIT系企業に勤める独身の男性です。まだ30代半ばなのですが、内臓周りに脂肪がつきはじめ、お腹のぽっこりが目立つ、いわゆる「リンゴ型」の肥満体型になってきたことをとても気にしています。

かねてからかかりつけ医に2型糖尿病のリスクを指摘されていて、医師の指示を守り食べ過ぎや運動不足に気をつけているのですが、「なかなか期待するほどの効果が上がらない」ことが悩みの種だといいます。

そんな話を聞いているうちに、「倹約遺伝子と2型糖尿病の関係」について書かれた論文を紹介している記事*¹をかなり前に読んだことを思い出しました。

アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームによる論文で、そこには、日本人を含むアジア人は白人に比べ、少しの肥満や運動不足で2型糖尿病になりやすいことが、約23万人を対象にした調査で明らかになったことが報告されていました。

そのなかで、少しの肥満や運動不足で2型糖尿病になりやすい要因として、日本人を含むアジア系では多くの人が「倹約遺伝子」をもっていることがあげられていたのです。

倹約遺伝子とは

倹約遺伝子とは、飢饉(ききん)のような、生活していくうえで必要な食料が手に入りにくい状況になっても、限られたエネルギーを最大限効率的に使い、余ったエネルギーは体脂肪に変えて蓄えるように身体そのものに組み込まれている変異遺伝子です。

飢餓状態が続く時代を生き延びるために、消費エネルギーを極力節約してエネルギーをためやすくするように、数ある遺伝子のうちのいくつかが変異してできたものです。

飢餓時代ならともかく、現在のように食べる物に不自由しない、むしろ飽食(ほうしょく)とまで言われる時代にあっては、むしろ倹約遺伝子の働きは裏目に出てしまい、少しの食べ過ぎや運動不足で肥満や2型糖尿病につながりやすくなっているのです。

倹約遺伝子が
体脂肪を燃やす力を弱めている

倹約遺伝子は、現在までに50~60種類が確認されていると聞きます。たとえばその一つである、β3アドレナリン受容体遺伝子に変異が認められるタイプの倹約遺伝子は、日本人に特に多いことが知られています。

アドレナリンは体脂肪を燃焼させるのに欠かせないホルモンで、脂肪細胞の表面にあるβ3アドレナリン受容体と結合することで脂肪を燃やす働きをしています。

ところが、このβ3アドレナリン受容体遺伝子に変異があると、アドレナリンに反応しにくくなって脂肪を燃焼させる力が弱まり、結果としてお腹周りに体脂肪がたまりやすく、いわゆるりんご型肥満、さらには2型糖尿病につながりやすいと説明されています。

遺伝子検査の結果を活用して
生活習慣の見直しを

この倹約遺伝子を親から受け継いでいるかどうかは、遺伝子検査ですぐわかります。遺伝子検査には一般的に採血が必要ですが、倹約遺伝子をもっているかどうかは、口腔ぬぐい液や唾液などでも比較的簡単に調べることができます。

そのため最近では、数多くの民間の検査機関*が専用の検査キットを使い、郵送法でこの検査を行っていますから、誰でも手軽に倹約遺伝子の存在の有無を知ることができます。

しかし、遺伝子検査の結果、仮に倹約遺伝子をもっていることがわかっても、その情報を、肥満の改善や2型糖尿病の予防に活用するには、一人ひとりの食習慣や運動習慣、さらには今現在の健康状態に見合ったきめ細かな生活習慣の見直しが必要です。

これまで長く続けてきた食事や運動など生活習慣を変えるには、行動変容のためのカウンセリングなど、専門的なアプローチが必要になる場合もあるでしょう。

したがって、主治医などかかりつけの医師がいる方は、倹約遺伝子をもっているかどうかを知るための遺伝子検査は、検査結果を最大限有効活用するためにも医師の指導のもとに受けることをお勧めします。

幸い先の論文*¹では、倹約遺伝子をもっていても、自分は脂肪をため込みやすい体質であること、少しの肥満や運動不足で2型糖尿病になりやすいことを意識して、「健康的な食事とエネルギー摂取に関心をもち、運動を習慣的に行うことにより2型糖尿病の発症リスクは低減できる」としています。

*遺伝子検査ビジネスについて経済産業省は、個人が生まれつきもっている遺伝学的情報を扱うことになる点を重視し、遺伝子事業者選定チェックリスト*²を作成し、全項目にチェックが入る事業者を選ぶことを推奨している。

個人的にも患者指導にも役立てて

倹約遺伝子は日本人では3人に1人がもっているそうですから、看護職の皆さんのなかにも、この遺伝子のために太りやすく痩せにくい体質で悩んでいる方が少なからずいるのではないでしょうか。

同時に、肥満や2型糖尿病で食事療法や運動療法に励んでいるものの、いっこうに効果があがらない患者の指導に難渋している看護師さんもいると思います。

いずれの場合も、この倹約遺伝子に関する情報を役立てていただけたら幸いです。

参考資料*¹:アジア人は肥満でなくとも2型糖尿病になりやすい――23万人を調査、糖尿病ネットワーク、ニュース、2011年2月1日

参考資料*²:経済産業省「こんな検査を受けようとしている貴方に―遺伝子検査事業者選定チェックリスト」