入退院支援における情報提供で配慮したいこと

チェックリスト

退院支援の一環として
社会資源情報を患者に伝えるとき

このところ退院支援看護師の友人たちと話すなかで、患者・家族への情報提供や他職種との情報共有のあり方をめぐり、「簡単にはいかないものなんだなぁ」と、つくづく考えさせられる話をいくつか耳にしました。

■「福祉」という言葉のイメージ
まず1件は、患者の退院後の生活に活用してもらえたらと、社会資源の一つとして福祉サービスに関する情報を伝えたときのこと。
「わが家は福祉のお世話になるほど生活に困っていない」
と、キッパリ断られてしまった、というのです。

このとき彼女は、「そうだった、福祉という言葉に対するイメージは人それぞれで、特に高齢者のなかにはマイナスイメージを持つ人が少なくないことに配慮すべきだった」と反省させられた、と話してくれました。

■経済的な問題はデリケートな話
同じようなことは、別の退院支援看護師さんも経験していたようです。
難病の患者に医療費助成制度について詳しいことを知ってもらおうと、医療ソーシャルワーカー(MSW)を紹介したときの話です。

「経済的なことまで病院の方に心配してもらわなくて結構です」
と硬い表情で返されてしまった――。
経済的問題が非常にデリケートな話であることを改めて実感させられた、と言います。

退院支援における
介護保険情報の伝え方

介護が必要な状態で在宅療養に移行する65歳以上の患者、あるいは40~64歳でがんや脳血管疾患、骨折を伴う骨粗鬆症など、いわゆる特定疾病の患者の退院支援では、介護保険制度に関する情報を提供するケースが多くなるでしょう。

■患者が利用できる介護保険サービスの内容
その際には、つい具体的なサービスまで説明しがちですが、
「退院後の患者が利用できる介護サービスの内容は、あくまでも介護認定により判定される要介護度によって決まることを念頭に置いて情報を伝えないと、患者や家族をガッカリさせるだけでなく、不信感を持たれることにもなりかねないから注意が必要ですよね」

最近の体験からそう語るのは、退院支援看護師のTさんです。
病棟の看護師さんから、「介護保険の介護サービスを利用すれば、奥様は毎日少なくとも1時間ほどは介護から解放されるでしょうから」と伝えられて在宅で介護することに決め、その準備をしたいからと相談を受けた患者・家族の話をしてくれました。

■介護保険制度の仕組みを伝える
その患者に直接会ってみてT看護師が受けた印象では、要介護の状態にあると認定されるのは難しいのでは、というものだったとのこと。

よくて「要支援1」か「要支援2」で、何らかの介護サービスを利用できるとしても、その時間は毎日30分弱で、病棟看護師が言ったという毎日1時間というのはなかなか難しいのではないか、と思ったそうです。

そこで患者家族には、介護保険制度は医療保険制度と違って、サービスを受けるには改めて申請した上で介護認定を受ける必要があること、その結果によって利用できるサービスの内容や時間などが決まる仕組みになっていることを伝え、まずは申請することから始めましょうと説明して、ケアマネジャーへとつないだそうです。

連携する他職種との情報共有には
患者・家族の了解が必要

このケースのように、退院支援においては、病院内は言うまでもなく地域で活動しているさまざまな他職種との連携がいかにスムーズにいくかがポイントとなります。

特に職種間においていかに患者の個別性を踏まえた、的確かつ正確な情報を共有し合えるかが重要になってくるのですが、
「その際に、情報を提供する側に立つことの多い看護師は、患者個々に必要な情報を他職種に正確に伝えることに熱心なあまり、患者や家族の意思を確認するということを忘れがちで、結果としてその連携に患者側の協力が得られないといったことにもなりがちです」

■他職種との連携における患者の意思
そう語るT看護師。
彼女自身、5年ほど前の、退院支援の担当になった当初は、地域の関係職種との連携に関するチェックリストシートのようなものに沿って、患者個々のニーズと照らし合わせながらどの職種との連携が必要かを判断していたそうです。

本来ならそのとき、連携が必要と判断した職種の担当者と連絡をとる前に、患者サイドにその職種の存在やどのようなことを専門に行っていて、患者が今抱えているどの問題に対応してもらえるのかといったことをていねいに説明し、この先連携してかかわっていくことに患者・家族の了解を得る必要があります。

同時に、連携に必要な患者に関する情報をその職種の担当者に伝えることにも、患者側の了解を得ておくことが重要でしょう。

ところが、「まさに若気の至りで、患者サイドの意思を確認するという大事なステップを飛び越えて、直接他職種に連絡を入れ、情報を提供してしまった」――。

案の定、その職種の担当者を紹介しようと、同行して病室を訪問したところ、
「私たちに相談もなく……」と、
連携してかかわることを拒否されてしまったのだそうです。

■看護師として知り得た患者情報は個人情報
「こんなことにならないように、自分が手にしている患者情報は、あくまでも看護師として知り得た個人情報であることを忘れずに、慎重に取り扱うよう常に心がけたいものです」
T看護師は神妙な表情で、そう話してくれました。

なお、医療・介護の現場における個人情報の扱いについてはこちらの本が参考になります。