がん患者が取り組むリハビリテーション

実行

がん患者がフィットネスで
サバイバーシップを発揮

朝早く目覚めてしまい、何気なくテレビをつけると、7,8人の女性たちが輪になって、何やらエクササイズをしている様子が映し出されました。「名古屋医療センターでは……」というナレーションを聞き、「えっ?」と一瞬驚きました。

いずれもがんサバイバー、つまりがんを経験している女性たちで、医療センター内で開かれている「キャンサーフィットネス教室」に集まり、こうして定期的にからだを動かしているのだと、ナレーションは続きます。

輪の中心で、明るく大きな声で掛け声をかけているのは、キャンサーフィットネスインストラクターの村山民愛(みね)さん。「彼女もがんサバイバーです」とのこと。

「がんになった当初は、死ぬことばかり考えていました。でも、がんでも笑っていいのだ、せっかく助かった命だから、自分でできることをして楽しく生きていこうと思えるようになっことが、インストラクターを始めたきっかけです」

インタビューに答え、村山さんがこう語っているのを聞き、「これぞ、がんサバイバーシップだな」と思ったものです。

がん患者のための運動教室が
自分らしさを取り戻すきっかけに

テレビ(NHK総合「おはよう日本」)から流れるナレーションによれば、村山さんは5年前、47歳でステージⅡ~Ⅲ期の口腔がんを発症し、2度にわたる手術を経験しています。

がんの診断を受けた時点では、「がんイコール死」のイメージが強かったという村山さん。診断を受けてすぐに、長年続けてきた仕事もリタイア。手術を終えて退院してからは、家に閉じこもりがちの生活だったそうです。

しかしその後、家族の支えもあり、気持ちが前向きになってきたのが幸いし、治療を受けた病院でがんサバイバーのための運動教室が開かれていることを知り、すすめられるままに参加。これが、大きな転機となったようです。

がんになる前に趣味としてフラダンスを習っていたこともあり、「からだを動かす喜びを思い出すと同時に、曲を聞くと温かい気持ちになってきて、自分らしさを取り戻すことにつながっていった」と村山さん。

手術からおよそ1年半が経った頃、「がんになったら運動しよう」をキャッチフレーズに活動している一般社団法人「キャンサーフィットネス」の存在を知ると、がんサバイバーを対象に運動の指導ができるインストラクターの資格取得のための準備に着手。

ほどなくして資格を取得してからは、本格的に社会復帰し、今では、がんの治療と仕事、さらに趣味も併行して続ける生活を送っているそうです。

がん患者間のピアサポートが
サバイバーシップを高める力に

一般社団法人「キャンサーフィットネス」は、村山さんが実践しているように、がんサバイバーたちが、運動(フィットネス)を通して、がんとともに充実した生を生き抜いていく力、つまりサバイバーシップを高める支援をしていこうという団体です。

がんになったら、心身ともにエネルギーのすべてを治療に注げるように、運動などしないで静かにしていた方がいいのではないかと考えがちです。しかしキャンサーフィットネスは、「がんになったからこそからだを動かして、笑顔で元気に」と呼びかけています*¹。

加えて「キャンサーフィットネス」は、インストラクターに、自らもがんサバイバーであることを求めています。つまり、「キャンサーフィットネス」の運動教室に集まる人は、インストラクターも参加する人たちも、全員ががんサバイバーということになります。

そこに集うことで、彼らは、同じような立場にある仲間と悩みや体験してきたことを語り合い、「つらい思いをしているのは自分だけではない」ことに気づいて、失いかけていた自信を取り戻すきっかけを手にすることができます。

セルフヘルプ活動としてのピアサポート効果

このようなセルフヘルプ活動としてのピアサポートが、自分のなかにあるがんサバイバーとして生きる力、すなわちがんサバイバーシップを高めることにつながっているようです。

だからこそ、こんなに明るくしていられるのだろうと、テレビ画面に映しだされたがんサバイバーたちの笑顔を見ながら思ったものです。

なお、がんサバイバーによるセルフヘルプ活動としてのピアサポートについては、がん看護専門看護師の近藤まゆみさんが、著書『臨床・がんサバイバーシップ―“生きぬく力”を高めるかかわり 』のなか(P.170-181)で「がんサロン」の取り組みを例に、わかりやすく解説しておられます。関心のある方は参考にしてみてください。

がんサバイバーシップを高める
がんリハビリテーション

ところで、わが国のがん対策推進基本計画は、その第3期基本計画が2018年3月に閣議決定を経て公表されています。その計画を見ると「がんのリハビリテーション」という項目が新たに盛り込まれています。

第2期基本計画までは「その他」のなかに置かれていたことを思えば、一歩前進ということでしょう。このことは、がんサバイバーのサバイバーシップを高め、QOL (生活の質)をより充実したものにしていくうえで、リハビリテーションが不可欠との認識が広く行き渡ったことの証左でもあると思うのですがいかがでしょう。

がんリハビリテーションでより早い社会復帰を

そこでは、「機能回復や機能維持のみならず、社会復帰という観点も踏まえた」リハビリテーションの必要性が強くアピールされています。

がんリハビリテーションとしての運動療法は、抗がん剤や放射線治療中に開始すると、がんそのものや治療の副作用などによる「がん関連倦怠感」と呼ばれる体力や気力の低下を防ぎ、より早い社会復帰につなげる効果が期待できるとされています。

この場合の運動には、ウォーキングやエアロバイク(エルゴメーター)を漕ぐなどの方法による有酸素運動がいいようです。

呼吸を乱さず少し汗をかく程度の運動を1回20~30分間、週3日から5日行うのが理想的とされています*³。

「キャンサーフィットネス」では、がんサバイバーのための運動教室を全国各地で開いています。関心のある方はホームページを参考にしてみてください。

なお、患者に運動教室を紹介する際は、患者個々について事前に医師によるリハビリテーションの適応判断を受けておくことをお忘れなく。

がん患者の「治療と仕事の両立」支援の一環として

今やがん医療の現場では、がん患者の治療と仕事の両立を支援する取り組みが鋭意進められています。その一環として、仕事に負けない体力と気力を養ううえで、がんサバイバーのリハビリテーションは必須と言っていいでしょう。

がん治療を受けながら仕事を続けることを希望する患者が増えている。国はその支援策を手引書にまとめ、がん治療中でも無理なく仕事を続けられる体制整備に力を入れている。職場の受け入れや家族の理解に課題が残るなか、看護に求められる支援をまとめた。

参考資料*¹:「キャンサーフィットネス」ホームページ

参考資料*²:厚生労働省「がん対策推進第3期基本計画」

参考資料*³:国立がん研究センター  がん情報センター小冊子『がんとリハビリテーション医療』p.11-12)