小児・AYA世代がん患者の妊娠支援広がる




わが子

がん患者の妊孕性温存
治療費助成制度の普及進む

がん治療も受けたいが、将来自分の子どもも生み、育てたい――。
がん治療によって生殖機能が障害される可能性があると告知された小児やAYA世代のがん患者が抱くであろう心からの願いです。

こうした切実な願いを何とかかなえてあげようと、支援制度を設ける都道府県が続々と誕生していることをご存知でしょうか。

ちなみにAYA(アヤ)世代というのは、思春期(Adolescent)と若年成人期(Young Adult)を指す通称です。年齢で言えば、一般的に小児期(0歳から14歳)を除く40歳未満、つまり15歳から39歳がこれに該当します。

がんに対する集学的治療の目覚ましい進歩により、AYA世代を中心とする若いがん患者の長期生存が期待できる時代になっています。
しかしその一方で、この世代の患者に対する抗がん剤や放射線、あるいは手術によるがん治療は、妊孕性(にんようせい)、つまり妊娠する能力に影響を及ぼすリスクが避けられません。

そこで、若いがん患者を対象に、治療後の不妊への懸念を可能なかぎり減らすことにより、安心してがん治療を受けることができるよう、妊孕性を温存する治療にかかる費用の一部を助成する制度が、全国各地で始まっているのです。

若年世代のがん患者の
「治療も、将来子どもも」を支援

実施主体により制度名や事業名に多少の違いはありますが、若年世代を対象にした「がん患者妊孕性温存治療助成制度」と呼ばれることが多いこの取り組みを、全国に先駆けて開始したのは滋賀県と聞いています。

当県のウエブサイトでは、がん情報ポータルサイト「がん情報しが」のなかの「がんとともに生きる」のコーナーで「がん治療を始めるが将来子どもを持ちたい」と題して、妊孕性温存治療費の一部助成を行っていることを広報しています*¹。

「滋賀県がん患者妊孕性(にんようせい)温存治療助成事業実施要項」には「平成28年4月1日から施行」とありますから、早くも3年前にスタートしていたことになります。
続いて京都府、埼玉県、岐阜県、広島県、和歌山県、神奈川県……と、都道府県レベルでの取り組みが全国的な広がりを見せています。

加えて、6月12日の上毛新聞は、群馬県高崎市が、来年度(2020年4月)から若年がん患者を対象に妊孕性温存治療費の助成を始めることを伝えています。
この助成制度の市区町村レベルでの普及が期待される明るいニュースです。

医療保険適用外の
「妊孕性温存」の治療費助成

妊孕性温存治療とは、がん患者が抗がん剤や放射線などの治療で生殖機能への影響が心配される際に、将来の妊娠に備え、がん治療をスタートする前に精子や卵子、あるいは卵巣組織等を採取して凍結保存しておく治療法です。

現時点でこの治療は医療保険の適用外ですから、全額自己負担になります。
そのため、精子を凍結する場合は1回数万円でできるのですが(手術を伴う場合はさらに高くなる)、卵子凍結の場合は排卵誘発剤などの薬も必要になるため、さらに高額になり、個人差はあるものの1回につき平均30~40万円はかかるといわれています。

そこで、がん治療により生殖機能が低下、または失う恐れがあると医師から診断された患者が、がん治療医の同意のもとに妊孕性温存治療を受ける場合、保険適用外の治療費用やその後の保存管理料の一部を、治療内容に見合うかたちで助成しようというわけです。

助成の対象年齢を43歳未満(滋賀県)としているところもあれば、40歳未満(神奈川県など)のところもあります。また、助成対象に世帯所得の制限を設けているところもあれば、助成される金額にも差があります。
該当すると思われる患者にこの件で情報提供する際は、居住都道府県のウエブサイトで詳細をあらかじめチェックしておくことをお忘れなく。

「妊孕性温存治療」の意思決定は
多職種の医療チームで支援を

ところでこの「妊孕性温存治療」に関しては、がんと診断されたAYA世代などの若い患者に、これから受ける治療、あるいはがんそのものにより生殖機能不全や妊孕性の低下、あるいは消失といったことが起こりうることを、患者にいかに伝え、正確な理解を得るかというところから始める必要があります。

この点に理解を得たうえで、妊孕性を温存できる治療法があることを伝え、この治療法を受けるか否かについて患者本人の意思決定を支援することになります。

ただし、がんそのものの治療にも、妊孕性温存にも、あまり時間的余裕はありません。
また、当然ながら患者の精神的動揺ははかり知れないものになるでしょう。

若年世代のがん患者に対する妊孕性温存治療がこのような状況下で行われることに配慮し、日本がん・生殖医療研究会理事長の鈴木直聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授は、この治療の実践には、「医師のみならず看護師、心理師、薬剤師そしてソーシャルワーカーなどから成る医療チームの存在が不可欠」であると提言しています(参考資料*²)

妊孕性温存治療は
生殖医療の専門医療機関で

妊孕性温存治療では、長期にわたる精子や卵子、あるいは卵巣組織の凍結保存が必要になる場合が多いこともあり、治療を受けることを選択した患者はどこの医療機関でも、直ちに治療を受けることができるというわけではありません。

精子の凍結保存に関しては、がん治療医から紹介を受けた医療機関、また卵子、あるいは卵巣組織の凍結保存については、日本産科婦人科学会による「医学的適応による未授精卵子、胚(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存に関する登録施設(コチラ)」に紹介され、そこで改めて詳しい説明を聞いたうえで治療を受けることになります。

小児・AYA世代のがん患者の支援については、国の「第三次がん対策推進基本計画(2017年10月)」のp.35に次のような一文があります。
「国は、関係学会と協力し、治療に伴う生殖機能等への影響など、世代に応じた問題について、医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い、必要に応じて、適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築する」

これを受け、日本がん・生殖医療研究会の鈴木直聖理事長主導のもとに、生殖医療ネットワークの構築が全国的に進められていますから、妊孕性温存治療に精通した施設を紹介する際は、こちらの未授精卵子凍結、卵巣組織凍結の実施施設一覧も参考にするといいでしょう。

なお、小児・AYA世代のがん患者については、長期生存が可能になっているだけに治療後の長い人生を生きていくうえで妊孕性以外にもさまざまな課題を乗り越えていかなくてはなりません。そこで求められるのがサバイバーシップですが、この点についてはこちらの記事を参考にしてみてください。

小児と成人のはざまにある若者世代、通称「AYA」世代のがん罹患実態が初めて明らかに。白血病やリンパ腫など、発生頻度の少ないがんが多く、診断や治療上課題が多いのが特徴です。重要なライフイベントと重なる時期だけにケア面では特別な配慮が……。

*¹「がん情報しが」:https://www.pref.shiga.lg.jp/ganjoho/live/107228.html
*²参考資料:http://www.j-sfp.org/medical/index.html