退院支援に役立てたい障害者総合支援法-2

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地域との連携強化のためにも
障害者総合支援法の理解を

前回の記事で紹介したように、「障害者総合支援法」に定められているサービスを利用できるのは、この法律の第四条に規定された「対象者」に該当する身体障害者、知的障害者、発達障害を含む精神障害者、障害児、そして2021年11月1日時点で338疾患が指定を受けている難病に罹患して治療を続けている18歳以上の患者です。

退院支援や退院調整で知らないと困る社会保障関連の法律や制度は数多い。とりわけ「障害者総合支援法」は、支援対象に「難病のある人」が含まれることもあり、詳細はともかく法律のアウトラインだけでも知っておきたい。ということで、そのポイントをまとめた。

退院支援や退院調整を担当している患者が、仮にこの「対象者」に該当していても、利用できるサービスや給付内容について、詳しい説明や手続きの方法などを看護師自らが全面的に引き受ける必要はまずないだろうと思います。

というのは、実際に患者がこの対象者に該当するのかどうか、該当するとなれば、どのようなサービスを利用でき、どんな給付を受けられるのか、利用するのに必要な手続きは……、といったことは、ひとまず社会福祉制度に精通しているプロに任せておけばいい話だからです。

患者が入院中であれば、医療ソーシャルワーカー(MSW)やケースワーカーということになるでしょうか。あるいは退院後であれば、担当ケアマネジャーや居宅介護支援事業所の担当者など、地域の福祉スタッフに託すということになるでしょう。

だとすれば、看護師としては、法や制度の詳細まで熟知している必要などないと考えてしまうかもしれません。実際、「そこまで詳しく知っておく必要はないのでは」といった声もしばしば耳にします。

しかし、「患者のため」はいうまでもなく、地域のケアスタッフと共通認識のもとに連携を強化するためにも、せめてアウトラインぐらいは押さえておくべきではないでしょうか。

障害者総合支援法の
申請からサービス開始まで

さて、障害者総合支援法で定められている障害福祉サービスは「給付」制度です。したがって、サービスを利用するのに必要な手続きは、本人がサービスを利用したい旨を居住地の市区町村窓口に申請することからスタートします。

この利用申請から、給付が決定して実際にサービスが利用できるようになるまでには、居住地の市区町村によって多少の違いはあるものの、おおむね以下のようなプロセスを踏み、最低でも1か月、場合によっては2か月を要することもあるようです。

退院支援としてのかかわりは、原則として患者の入院から3日以内にスタートし、7日以内には退院支援担当看護師やMSWなどとのカンファレンスにおいて退院に向けた調整を行うことがすすめられています。

この早い段階から、障害者総合支援法を念頭においていれば、対象者の申請も早まり、患者にとってより早い時期からのサービス利用が可能になるのではないでしょうか。

  1. 本人が利用したい旨を申請
    居住市区町村の障害保健福祉窓口にサービス利用の申請を行う(かかりつけ医による診断書が必要)
  2. 障害支援区分の認定を受ける
    面接や訪問調査などの方法により利用者本人の心身の状態を調べたうえで、支援の必要度が総合的に判定される
    (「障害支援区分」については説明パンフレット*のp.12を参照されたい)
  3. 「サービス等利用計画案」を作成、提出する
    サービス等利用計画のための書式が用意されていることが多く、その書式にある必要事項を記載していく。
    利用計画案は、市区町村が指定する「指定特定相談支援事業者」に相談して作成するか、身近にその相談員がいない場合は本人や家族、あるいは支援者が「セルフプラン」を作成することもできる
  4. 支給決定の通知を受ける
    市区町村は、認定された障害支援区分や本人から提出されたサービス等利用計画案などを踏まえて支給決定案を作成。審査会がこの決定案の妥当性などを協議し、審査会としての見解を市区町村に提出する。
    これを受けて市区町村が懸案事項などが協議されたのち支給が決定されると、支給決定通知書と受給者証が交付、本人に送付される
  5. 「サービス等利用計画」を作成、提出する
    支給決定を受けると、先に計画案を作成した特定相談支援事業者が、サービス担当者会議を開催してサービス事業者らと連絡、調整を行い、「サービス等利用計画書」を作成する
  6. サービスの利用を始める
    サービス事業者と利用に関する契約を結んだうえで、利用を開始する

障害者総合支援法の
障害福祉サービス利用者負担

利用者負担のひと月当たり上限額がある

障害者総合支援法の障害福祉サービスは、利用者自身の原則「1割」負担で利用することができます。さらにこの利用者負担については、世帯ごとの前年の所得(収入)状況に応じて、負担額の月額上限が以下のように定められています。

これにより、ひと月に利用するサービス量のいかんにかかわらず、この規定を超える利用者負担は発生しないことになりますから、利用者は利用に伴う負担額、つまり利用にかかる費用を気にすることなく安心して必要なサービスを受けることができます。

世帯の収入状況別利用者負担の月額上限額

  • 生活保護受給世帯――0円
  • 市区町村民税非課税世帯――0円
  • 前年の所得が概ね300万円以上600万円以下の世帯――9,300円
  • 前年の所得が概ね600万円以上の世帯――37,200円

ここで単位としている「世帯」の範囲には、利用者が18歳以上の成人の場合は「障害のある利用者とその配偶者」が含まれます。また障害のある子どもの場合は、保護者の属する住民基本台帳(住民票)上の世帯(同じ住所で生計を共にしている人)が該当します。

「療養介護」サービス利用者には医療費と食費を減免

障害福祉サービスの「介護給付」の対象となるサービスは9種類あります。

この給付対象となるサービスのなかに、医療的ケアと介護を常に必要とする方を対象とした「療養介護」サービスがあります。退院支援の対象となる入院中の患者にはこの療養介護サービスの対象条件に該当する方が多いと思います。

このサービス利用者には、上記の福祉サービス利用にかかる自己負担相当額と医療費、食事療養費を合算した利用者負担の上限額が設定されています。少し複雑な仕組みになっていますので、詳細は説明パンフレット*のP.18を参照してください。

「自立支援医療」「補装具費」の利用者負担額にも上限

自立支援医療も利用者負担は原則1割ですが、世帯における前年の所得状況に応じてひと月当たりの負担上限額が決められています。具体的な枠組みと利用負担上限額については、説明パンフレット*のp.23-24を参照してください。

また、補装具費も利用者負担は原則1割ですが、同様に世帯の所得状況に配慮した月ごとの負担上限額が定められています。詳しくは説明パンフレット*のp.26を参照してください。

参考資料*:厚生労働省「障害福祉サービスの利用について」説明パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000501297.pdf