看護師も知っておきたい「がん免疫療法」のこと




生まれ持つ免疫

2018年12月10日(日本時間11日未明)ストックホルムでノーベル賞の授賞式が開かれ、ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑(ほんじょ たすく)京都大学特別教授が羽織はかまの和装で出席されました。
本庶氏は、免疫を抑える働きを持つ「PD-1」というタンパク質を発見し、免疫抑制の阻害による「がん免疫療法」に道を開いたことで今回の受賞となっています。
先に行われた受賞記念講演で本庶氏は、
「がんの免疫療法は今後さらに広がり、2020年代になるか30年代になるかわからないが、がんが慢性疾患の一種として制御できる時代になるだろう」と語っています。

「がん免疫療法」の開発で
日本人がノーベル医学・生理学賞受賞!!

昨夕(2018年10月1日)、素晴らしいニュースが飛び込んできました。
京都大学特別教授の本庶 佑(ほんじょ たすく)氏が、「がん免疫療法」のおおもとのメカニズムを開発したことで、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞されたのです。

「がん免疫療法」は、「手術療法」「放射線治療」「抗がん剤による化学療法」の3本柱に続く「第4のがん治療法」として、がんサバイバーの間で最近急速に期待が高まっている新しい治療法です。

本庶氏の発見したメカニズムをもとに実用化され、抗がん効果が科学的に実証されて保険適用となっているがん免疫療法はいくつかあります。

その一方で、効果が実証されないままに自費診療で行われているがん免疫療法をアピールする情報も目立っており、多くのがんサバイバーが治療法の選択段階で迷い、その意思決定に看護師さんの支援が求められています。

情報リテラシーを高めて正しい選択ができるように

仮に担当医ががん免疫療法に否定的であれば、患者ががん免疫療法について迷いや不安を相談しても詳しいことを話してもらえないケースがあるようです。

あるいは質問に、簡単な説明を書いたパンフレットを「これを読んでください」と渡すだけで、理解を深めることができず、混乱してしまうサバイバーも少なからずいるようです。

看護師さんには、このようなときこそがんサバイバーの不安を受け止めていただきたい。
そのうえで、正しい情報をその人の理解力に応じたかたちで提供し、がんサバイバーが、がん免疫療法に関する情報リテラシーを高めて、その人にとってより望ましい意思決定ができるように支援していただきたい――。
そんな思いから今回は、がん免疫療法について書いてみたいと思います。

免疫力を高めることに
いち早く着目したナイチンゲール

がん免疫療法とは、簡単にいえば、がんサバイバー個々の免疫システムを活性化させて、免疫力を高めるように働きかけるがん治療法のことです。

ご承知のように、免疫とは、細菌やウイルスのような病原体から自分の身を守るシステムです。これには大きく分けると、自然免疫と獲得免疫とがあります。

自然免疫とは、今まで自分のからだの中に一度も入ってきたことのない病原体が侵入してくると、リンパ球やナチュラルキラー細胞(通称「NK細胞」)などを総動員してからだを病原体から守ろうとする防御システム。一方の獲得免疫は、一度からだに侵入してきたことのある病原体に対する防御システムです。

がん細胞の増殖を免疫力で阻止

自然免疫は、生まれついた時から私たちのからだに自然に備わっている免疫力です。この免疫力が何らかの原因で低下すると、細菌やウイルスの体内への侵入を簡単に許してしまいます。がん細胞についていえば、その増殖を許してしまうのです。

そこで、体内の獲得免疫システムを活性化させて免疫力を高め、がんなどの病気の発症や進行を食い止めようと、免疫療法が注目されるようになりました。
そして現在、がんの免疫療法に大きな期待が集まっているわけです。

実はこの「免疫力」については、かのナイチンゲールが1世紀以上も前に「自然治癒力を高める」という表現で繰り返し説いていたことです。がん免疫療法の考え方のルーツがこの辺にもあったことがうかがえるのではないでしょうか。

免疫チェックポイント阻害剤
によるがん免疫療法

さて、肝心のがん免疫療法ですが、がんサバイバーやがん診療にあたる医師らの関心が高まりはじめたきっかけは、ニボルマブ(商品名:オプジーボ®)に代表される「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる新薬の登場にあるといわれています。

私たちの体内に発生したがん細胞は、NK細胞のような免疫細胞との戦いに負けないように、免疫細胞にブレーキをかけることがあります。このブレーキを外す働きをするのが免疫チェックポイント阻害剤です。ブレーキを外された免疫細胞は、従来の免疫活性を取り戻して、がん細胞を再び攻撃することができるようになります。

この免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法は、がんサバイバーは言うまでもなく、すべての人間が獲得している免疫力を最大限活用してがんの治療を目指す治療法です。
そのため、抗がん剤による治療でみられるようなつらい副作用が極めて少ないのが、がん免疫療法の特徴です。
この点が魅力で、がんサバイバーの間で人気が高まる主な要因となっているようです。

ただし、すべてのがんにこの免疫療法が奏効するわけではありません。
現時点でこのタイプのがん免疫療法による効果が科学的に実証され、保険適用されているのは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫、腎細胞がんなど、ごく一部のがんに限られます。

正確を期すためにも、このへんの詳しい情報は、日本臨床腫瘍学会がまとめた『がん免疫療法ガイドライン』(金原出版)をチェックしつつ、情報提供されることをおすすめします。

がん免疫療法のなかには
効果が明らかにされていないものも

現在わが国でがん免疫療法として一般に知られているのは、上記の免疫チェックポイント阻害剤による治療法だけではありません。インターネットで検索してみても、がん免疫療法としてアピールされている治療法は何種類かあります。

そのなかにある「サイトカイン療法」や「BRM療法」の一部は、抗がん効果が明らかにされていいるものです。保険適用となっていて、先に紹介した日本臨床腫瘍学会のガイドラインは、一部のがんのがん免疫療法として推奨してます。

サイトカイン療法とBRM療法

サイトカイン療法とは、免疫細胞から分泌される「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質の抗がん作用を利用する治療法です。
その代表であるインターフェロンアルファとインターロイキン2は、腎臓がんに効果があることが認められ、ガイドラインも治療法として推奨しています。

一方のBRM療法は、BRM(バイオロジカル・レスポンス・モディファイア)と呼ばれる生物製剤を用いる治療法です。
メカニズム自体は十分には解明されていないものの、それを使えば免疫システムにアクセルがかかり、抗がん作用を発揮することがわかっています。

たとえば、結核の予防ワクチンとして知られるBCG(ウシ型弱毒性結核菌)はそのひとつです。ハイリスクの筋層非浸潤性膀胱がんに有効であることが確認され、保険適用となっています。ガイドラインも治療法として推奨しています。

このほか、「がん免疫療法」でネット検索してみると、がんペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンといった「がんワクチン」や、キメラ抗原受容体を用いる「エフェクターT細胞療法」などが、自費診療でできるがん免疫療法としてリストアップされます。

しかしこれらのがん免疫療法については、確かな効果が確認されていないために保険適用から外れています。また、ガイドラインも治療法として推奨していないのが現状です。

がん相談支援センターの積極的活用を

国立がん研究センターの「がん情報サービス」サイトでは、これらの情報を整理するとともに、メディアなどの広告に振り回されないように注意を喚起しています。

看護師のみなさんには、がんサバイバー個々の希望にできるだけ添えるように、またより効果的で、なおかつ安全な治療法が選択できるように、必要に応じて、全国のがん診療連携拠点病院に設置されているがん相談支援センターを紹介することなども含め、きめ細かい情報面での支援をお願いしたいものです。

なお、がん免疫療法に関する基礎知識を詳しく知りたい方は、『やさしく学べる がん免疫療法のしくみ』(羊土社)が、入門書としてはおすすめです。