「治療と仕事の両立は困難」と過半数が回答

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病気や障害のある人の
治療と仕事は両立できているのか

国民の2人に1人ががんを経験する時代に入ったのを受け、がんサバイバーの治療と仕事の両立に向けたさまざまな就労支援策が進められています。しかし、仕事の継続を望むがんサバイバーが多いものの、がん治療と仕事の両立はなかなか難しいという実態がいくつかの調査で明らかにされており、とても気になっていました。

しかも、就労世代が直面している病気はがんだけでありません。また、障害を抱えながら仕事に就くことを希望している方も少なくないと聞きます。

こうした病気や障害のある人々の治療と仕事の両立はどうなっているのだろう、職場の理解は得られているのだろうか、希望する職に就けているのだろうか……、などと考えていた折も折、ある興味深い調査結果を見つけました。

厚生労働省が2001(平成13)年から毎年、「厚生労働白書」を刊行していることはご存知と思います。その2018(平成30)年版が先月(2019年7月9日)公表されているのですが、件の調査結果はそのなかにありました。

「2018年版厚生労働白書」で
治療と仕事の両立の課題提起

「厚生労働白書」は例年どおり2部構成になっています。第1部は毎年異なるテーマでまとめられ、第2部では医療、介護、年金、雇用、子育てなど、厚生労働行政の各分野における最近の施策の動向や課題などが、国民に対する年次報告のかたちでまとめられています。

そこで、「2018年版厚生労働白書」ですが、その第1部は「障害や病気などと向き合い、すべての人が活躍できる社会に」をテーマにまとめられています。

障害や病気のある人が、それぞれの障害の特性や病状を踏まえつつ、無理のないかたちで仕事に就くなどのかたちで社会参加することを通じ、その人らしさを発揮して生きていける社会の実現に向け、国民一人ひとりが取り組むべく課題を提起しているのです。

障害・病気・引きこもりの可能性は誰にでもある

その課題として白書はまず、「障害を有したり、病気になったり、ひきこもり状態となって社会活動を行うことが困難になる可能性」は誰にでもあることを強調しています。

そのうえで、障害や病気などを今現在は抱えていない人は、「自分もいつかは同じ立場に立つかもしれない」ことを認識し、障害や病気を抱える人のことを「他人事ではなくお互い様という意識」で、地域や職場で支え手としての役割を果たすよう促しています。

その際、障害や病気を抱える人は、とかく地域や社会から孤立しがちなことを念頭に、障害や病気があっても社会参加や就労を続けることにより、「自らの状態に応じた自立を達成できるような、さまざまな選択肢を社会として用意し、それを支える仕組みを構築していくことが重要である」とまとめています。

なお、メンタル不調を抱える人の仕事と治療の両立を図るための支援に役立つアセスメントなどについては、患者が治療を受けながら働き続けられる社会復帰の整備に長年携わる精神科医であり産業医でもある小山文彦氏によるこちらの一冊が参考になります。

自立に向けた支援に関する
国民の意識調査の結果から

上記のような課題を導き出す際に基礎資料とされたのは、厚生労働省が、障害や病気などにより心身に何らかの困難を抱える人の社会経済的自立のための支援について国民の意識を知ろうと、2018年2月に実施した「自立支援に関する意識調査」です。

この調査では、地域や職場における支え合いや就労に関する12項目の質問について、回答者を以下の3グループに分け、各グループ1000人、合計3000人から回答を得ています。

  1. 障害や病気を有する人
  2. 身近に障害や病気を有する人がいる人
  3. その他の人(かつて障害や病気を有した人を含む)

■困っているときはお互い様だから助けたい
たとえば、地域や職場で障害や病気で困っている人がいたら助けたいと思うかと聞いたところ、「積極的に助けたいと思う」および「助けたいと思う」と答えた人の合計は、⑵の身近にいる人のグループで76.9%と最も多く、次いで⑴のグループの67.3%でした。

この「積極的に助けたいと思う」および「助けたいと思う」理由としては、「困っているときはお互い様という気持ちから」が最も多く、次いで「困っている人を手助けするのは当たり前のことだと思うから」があがっています。

■接し方がわからないから助けたいと思わない
一方で、「あまり助けたいと思わない」および「助けたいと思わない」理由は、どのグループにおいても「自分にとって負担になるような気がするから」が最も多くなっています。
また、⑵の身近にいる人と⑶のその他の人のグループでは、先の理由に次いで「専門の人や関係者に任せた方がよいと思うから」「どのように接したらよいかわからないから」が多くあがっています。

これらの結果から白書は、「手助けへの負担感や障害や病気を有する人に対してどのように手助けをすればよいかわからないという思いが、助け合いに対する消極的な姿勢につながっていると考えられる」と考察しています。

■66.3%が治療と仕事の両立は「困難である」
また、治療と仕事を両立すること、または障害を有しながら仕事をすることは困難かを尋ねたところ、「困難である」と考える人の割合が、⑴のグループでは66.3%、⑵のグループでは72.5%であるのに対し、⑶のその他の人のグループでは75.8%と最も高くなっています。

この結果について白書は、自身が障害や病気を有していない人や身近にもいない人は、「障害や病気を抱えたら働けない」といった先入観や、治療と仕事の両立に向けた支援策や就労支援策の存在を知らないなどの理由から困難と思う傾向があるのではないかと推測しています。

■仕事を続けたいが職場環境が整備されていない
さらに、⑴の障害者や有病者のグループで「仕事をしたい」「仕事を続けたい」と回答しながら、両立や就労は「困難である」と回答している人にその理由を尋ねたところ、「体力的に厳しいため」が50.6%と最も多く、次いで「職場環境や業務体制(フレキシブルな勤務形態、休暇・休業制度など)が整備されていないため」が36.9%となっています。

これを受けて白書は、障害や病気を有しながらも就労意欲のある人が活躍するには、個々の状況に応じた働きやすい職場づくりに取り組むことが望まれる、としています。

■社会保険労務士との連携に
がん患者はもとより病気や障害を持つ人の就労支援は、社会保険労務士と連携して進めていくことになります。この連携において、患者や障害者の希望を上手に聞き出し社会保険労務士に伝えていくうえで、これらの情報は大変参考になるのではないかと思い、紹介してみました。
(厚生労働省の「2018年版厚生労働白書」はコチラから、また2018年2月実施の「自立支援に関する意識調査」はコチラからダウンロードできます)

がん治療を受けながら仕事を続けることを希望する患者が増えている。国はその支援策を手引書にまとめ、がん治療中でも無理なく仕事を続けられる体制整備に力を入れている。職場の受け入れや家族の理解に課題が残るなか、看護に求められる支援をまとめた。