「死亡診断の看護師代行」が条件つきで解禁へ

診断書の記載

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在宅での看取りにおける
死亡診断の実態

在宅における終末期ケア、とりわけ看取りについては、「穏やかに看取るのは難しい」との声が、かねてから訪問看護師さんや家族からあがっていました。その場に主治医が不在であるとか、連絡がつきにくいなど、死亡診断がスムーズにできないことがその主因です。

ご承知のように、わが国では現在のところ、患者の死亡を確認して死亡診断書を交付できるのは、医師の独占業務で、医師法第20により、「自ら診察をしないで死亡診断書を交付してはならない」と定められています。

そのため医師は、院内外を問わず、臨終に立ち会って自ら死亡を確認するか、臨終に立ち会えなくても自分が定期的に診療を行っていた患者であれば、死亡した後に、その死亡を自身で確認した場合に限り、死亡診断書を作成できるようになっています。

その際、診療継続中の患者の死が、直前の診察から24時間以内であれば、改めて死後の診察をしなくても、他の医師や看護師、家族などから死亡の事実を聞き取っただけで、死亡診断書を交付することが認められています(医師法第20条ただし書き)。

最期の別れの場に
警察官や検案医が介在する

これらの規制から外れる場合は、実際そこに明らかに死亡している方がいても、死亡診断書は発行されません。死亡診断書がなければ、在宅での終末期ケアに継続してかかわってきた訪問看護師といえども、ご遺体を動かすことさえできません。

そこで、場合によっては、異状死として警察に届け出ることになります。その結果、死因を明らかにする死体検案が行われ、検案医(遺体の確認作業を行う医師)により死体検案書が作成されることになります。

家族などの強い意向により、死の間際に急遽、救急病院へ搬送されることもあるでしょう。その場合にも、たとえば病院到着時の患者の状態をチェックした搬送先の救急医の判断によっては、警察に検案を託すことにもなりかねません。

厳かであるべき身内との最期の別れの場が……

こうなってくると、本来厳か(おごそか)であるべき終末期ケア、とりわけ家族にとっては最期の別れとなるきわめて個人的、家族的な場に、見知らぬ複数の警察官や検案医が介在することになり、厳かとは言い難い雰囲気になってしまうことにもなりかねません。

暮らし慣れた我が家で穏やかに看取ってあげたいという家族の願い、それをかなえさせてあげたいという訪問看護師さんらの思いは、かなえられないことになってしまうのです。

以上の点を含め、現行の死亡診断書の記載・取り扱いの詳細は、厚生労働省のホームページにある「令和6年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」*¹が参考になります。

特に、在宅ケアに取り組んでおられる訪問看護師さんは、目次の3にある「医師が患者の死亡に立ち会えなかった場合に死亡診断書を交付するには」(p.6-7)を再確認の意味で読んでおかれると、医師不在の状況下で臨死場面に遭遇された際に自信をもって対応できるのではないでしょうか。

「暮らしの場で穏やかに看取りたい」
の声に応えて

看取り、そして死亡確認となったときにかかりつけ医が不在のために慌ただしくなってしまう状況をなんとかしようと、最初に声をあげたのは日本看護協会(日看協)でした。

死亡診断書の交付要件の緩和を求める日看協の要望は、政府の規制改革会議で取り上げられ、「医師が対面で死後診察をしなくても、死亡診断書を交付できる」方向で、規制の見直しが進められてきました。

そして2016年7月25日、規制改革会議の答申を受けた政府が、医師による対面での死後診察がなくても死亡診断書の交付を条件付きで解禁する方針を固めたことが報じられたのです。看護師さん、とりわけ訪問看護師さんなど、在宅ケアに取り組んでおられる方にとっては、一歩前進でした。

死亡診断の看護師代行
必要な5つの条件

死亡診断書交付要件の緩和を認める条件として、規制改革会議は「規制改革に関する第4次答申――終わりなき挑戦」*²のなかで(8-9p)、以下の5点をあげています。

  1. 医師による直接対面での診療経過から、早晩死亡することが予測されていること
  2. 終末期の際の対応について、事前の取り決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること
  3. 医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること
  4. 法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師とあらかじめ取り決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること
  5. 看護師から報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること

(引用元:「規制改革に関する第4次答申――終わりなき挑戦」*²)

ここに挙げられている5項目のうち、多くの看護師さんにとって当面の課題は、おそらく4つ目の「法医学等の教育」でしょうか。

死の三兆候(心拍停止、呼吸停止、瞳孔散大)を確認することは、看護師さんなら誰でもできるでしょう。ただ、法医学に関する一般的な事項などに関する教育は基礎看護教育で受けていないため、一定の研修が義務づけられることになります。

この「法医学等の教育」については、2017年9月12日に厚生労働省が公表した「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」のP.8-10*³に研修プログラムの内容が記されている(このガイドラインの内容をきちんと理解していることが研修参加の条件となっている)。日本医師会は、令和5年度在宅看取りに関する研修事業「医師による遠隔での死亡診断をサポートする看護師を対象とした研修会」を令和5年10月に実施している。研修内容等の詳細はこちら*⁴を(令和6年度については未定)。

患者と看護師ら医療者間での
事前の取り決めに「事前指示書」

これらの点を含め厚生労働省は、死亡診断書の交付緩和条件の実効性を確保するため、看護師による死亡診断書交付の代行実現に向けた対策を検討し、2017年9月12日にはそのためのガイドライン、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」も策定されています。その後の動きなどはこちらをご覧ください。

暮らし慣れた場所での死を望む声は多い。しかしその実現を難しくする要因の一つに、在宅において対面で死亡診断できる医師の絶対的不足がある。この解決策として、情報通信機器を介した遠隔での死亡診断が可能になり、看護に新たな役割が求められている。

訪問看護師さんをはじめとする在宅ケアに取り組む看護職には、準備の一環として、2つ目に挙げられている患者と医療者間の「事前の取り決め」に活用してもらおうと、スーディー神崎和代氏ら看護教員の研究チームが一般の方向けに作成した『医療事前指示書:私への医療・私の終末期はこうしてほしい』(ナカニシヤ出版)が参考になりそうです。

なお、在宅など病院以外のさまざまな場所における看取りケアについては、「数日以内の死が予測されるとき」「24時間以内の死が予測されるとき」「亡くなったとき」の3期に分け、それぞれのケアのポイントが一冊にまとめられた宮崎和歌子著在宅・施設での看取りのケア』(日本看護協会出版会)も参考になります。

参考資料*¹:厚生労働省「令和6年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」

参考資料*²:規制改革会議「規制改革に関する第4次答申――終わりなき挑戦」

参考資料*³:厚生労働省「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」

参考資料*⁴:日本医師会 令和5年度在宅看取りに関する研修事業「医師による遠隔での死亡診断をサポートする看護師を対象とした研修会