看護師の補助で、遠隔での死亡診断が可能に




診断補助

「暮し慣れた場所での穏やかな死」
実現に向け一歩前進

このところ在宅死を選択する患者が増加し続けています。
彼らの多くは、「暮らし慣れた我が家で穏やかに最期を迎えたい」と願っています。

また、看取る側の家族や訪問看護師ら在宅ケアに取り組むスタッフも
「穏やかに看取ってあげたい」と望んでいます。

ところが、ケアの締めくくりともいうべき「死亡を確認する」段階に入ると、さまざまな規制に縛られてしまい、「穏やかに」という願いや希望が必ずしもすんなりとはかなえられないケースが少なくないというのが偽らざる現状です。

病院以外の場所における「穏やかな死」の実現がなかなか難しい事態をなんとかしようと、最初に声をあげたのは、日本看護協会でした。

日看協が政府に提出した要望書が端緒となり、2016年6月2日には、国を挙げての規制改革実施計画の一環として、「在宅での看取りにおける規制の見直し」が閣議決定されています。

これを受けて翌年(2017年)の9月12日には、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」*¹がまとめられ、いくつかの厳しい要件はあるものの、「医師が対面で死後診察をしなくても、死亡診断する」ことが可能になっています。

在宅死を望む人は圧倒的に多いものの、希望がかなう人は一部に限られ、いよいよとなって病院へというケースが多い。理由の一つに死亡確認する訪問医の絶対的な不足がある。この問題を解決しようと、看護師が代行できるシステムの整備が始まっている。

看護師の診療補助行為により
医師の対面診療なしで死亡診断

ご承知のように、死亡診断は、医師が対面で行うことを原則とする医行為です(医師法第20条)。
今回公表されたガイドラインは、この死亡診断に、テレビ電話やタブレット端末など、技術開発が急ピッチで進む情報通信機器を活用することを提言しています。

この有効活用により、医師自らが対面での死後診察を行わなくても、
⑴ 看護師が死亡確認を行い、
⑵ テレビ電話などを通じてリアルタイムでその報告を受けた医師が、
⑶ 遠隔診療のスタイルで死亡診断を行い、
⑷ 看護師に死亡診断書の代筆を指示する
といったステップを踏むことにより、死亡診断書を速やかに交付できるようになります。

今回公表されたガイドラインには、このような遠隔での死亡診断を可能にする各種必要要件や手順が具体的に提示されています。

すでに離島などの遠隔診療で活用されている情報通信機器を、死亡診断にも活用し、なおかつそこに看護師の診療補助行為を取り入れることにより、
「看取りに際して、住み慣れた場所を離れて医療施設に入院したり、死亡後に遺体を長時間保存・長距離搬送したりすることを回避することにある」
と、ガイドラインは説明しています。

まだクリアすべき難しい課題があるものの、遠隔での死亡診断が実現すれば、在宅や介護施設におけるより平穏な看取りに向けて、一歩も二歩も前進することになりそうです。

看護師補助行為の対象は
12時間内に医師が診察できない患者

医師による対面診察なしの遠隔での死亡診断を可能にするには、看護師が「診療の補助行為」としてそこに参加することが条件となっています。
その対象となる患者をガイドラインは、以下の条件に適う患者として厳格に限定しています。

  1. 死亡14日以内に、医師による生前の直接対面での診療を行っていて、医師が「診療の経過からみて、早晩死亡することが予想される」と判断していること
  2. 終末期の際の対応について、積極的な治療や延命措置を希望していないこと、また、遠隔での死亡診断となる可能性があることについて、事前に、決められた様式の書面で、患者や家族の同意を得ておくこと
  3. 2について、医師と看護師の間で十分な話し合いのもとに了解し合うとともに、その時に備えて十分な連携が取れるように手順書を作成するなど、体制が整備されていること
  4. 死亡した患者が離島にいて船が航行していない、医師が他の医療機関の当直業務に入っていてその場を離れることができないなどの状況にあり、事前に用意されている体制のもとに医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めても、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要すると見込まれること

このうち2については、ガイドラインにある様式(p.15)を活用するといいでしょう。
なお、患者に家族がない場合については、
「家族の同意は不要であるが、事前に医師がその旨を同意書または診療録に記載すること」
が求められています。

遠隔での死亡診断補助には
法医学の知識が欠かせない

実際に医師が遠隔での死亡診断を行う際には、まず、対象となる在宅療養中の患者宅などを、法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が訪問します。
そのうえで、看護師が患者を観察して、医師が死亡診断を行うのに必要な情報を収集します。

具体的には、死の三兆候である「心停止」「呼吸停止」「瞳孔散大(対光反射の消失)」を、5分以上の間隔をおいて2回確認して、死亡していることを確認します。

続いて全身をチェックして外傷の有無なども確認し終えたら、入手した情報をテレビ電話のような動画による双方向性の情報通信機器を使って、ご遺体の写真などとともに、リアルタイムで医師に送信します。

報告を受けた医師は、送られてきた情報から「死亡の事実」と、異状死を疑う所見がないと判断したら、看護師に死亡診断書の代筆を指示し、同時に遺族に対し、テレビ電話などを通じて死亡を伝えることになります。

死亡診断の補助行為を行う看護師に求められる要件

以上の遠隔での死亡診断を補助する一連の行為を行う看護師について、ガイドラインは、以下に示す厳しい要件を定めています。

    1. 看護師としての実務経験が5年以上あること
    2. その間に患者の死亡に立ち会った経験が3例以上あること
    3. 看護師としての実務経験のうち3年以上は訪問看護または介護保険施設などに勤務しており、その間に少なくとも患者・入所者5人に対してターミナルケアを行っていること
    4. 法医学等に関する①講義、②実地研修(死体検案や法医解剖への参加など)、③看護に関する講義・演習(情報通信機器を利用した死亡診断に関連する関係法令の知識や臨死時の患者家族との接し方など)を受講していること
      (具体的には、厚生労働省から委託を受けた研修主催者が開催する「医師による遠隔での診断をサポートする看護師を対象とした研修会」の全プログラムを修了したことを示す書類「修了証」の交付を、厚生労働省医政局長より受けていることが要件となる)

なお、厚生労働省は「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を、各都道府県知事あてに通知した後、2018年3月2日には、当ガイドラインに寄せられた疑問等に答え「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドラインに関するQ&A」*²をまとめ、公表しています。詳細な情報を必要とされる方はガイドラインを是非ご覧になってください。

参考資料*¹:「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000527813.pdf
参考資料*²:「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドラインに関するQ&A」(修正版)
https://www.jvnf.or.jp/newinfo/2019/191227iryo-tsuchi.pdf

在宅での穏やかな死を望む声に応えるべく、国は一昨年、看護師の補助の基、医師が遠隔で死亡診断を行うガイドラインを策定するなど、体制整備を進めてきた。多くの看護師がその補助行為を行うための研修を修了しているのだが、全国で1件も実施されていない。その理由を探った。