看護師も「坐禅」でこころを整える習慣を




坐禅とお香

内外で人気が高まる坐禅を
看護師のストレス対策に

このところ、出勤前や1日の仕事帰りに最寄りの禅寺などに立ち寄って、あるいは自宅で就寝前などに、坐禅を組むことを習慣にしているビジネスパーソンが増えていると聞きます。

しかも、坐禅の人気が高まっているのは日本に限ったことではないようです。
フランスやイギリスなど西欧の国々でも、ストレスの多い仕事に就く中間管理職クラスのビジネスマンを中心に、坐禅が静かなブームになっていると聞きます。

実は私も、20年ほど前ですが、東京・青山の西麻布にある永平寺別院の長谷寺(ちょうこくじ)で毎週月曜日に開かれれる「坐禅会」に、一時期通い続けたことがあります。

その当時、東京大学の大学院で教鞭をとっておられた大井玄先生に誘っていただいたのがきっかけでした。おそらく、インタビュー取材で話をうかがっている私が、先生の目には、よほど「落ち着きのない子」として映ったのでしょう。
「僕も行っていますから、来週月曜日、坐禅を組んでみませんか。ただひたすら坐っているだけで気持ちが落ち着いてきますから」と、お誘いくださったのでした。

そして初日、参加費の100円をお支払いし、更衣室で身支度を整えてから、普段は一般の人は入ることが許されないという「坐禅堂」へ。
そこに足を踏み入れた瞬間、あたりに漂う非日常の空気感に、背筋がピンと伸びて、なんとも厳かな気持ちになったことを、今でもはっきり覚えています。

ゆったりした深い呼吸の繰り返しが
こころを整えてくれる

最近はずいぶん印象が変わってきていますが、当時は坐禅と聞くと、凡人には近寄りがたい「修行」のイメージが強かったものです。

坐禅中に少しでも動くと、後ろから僧侶の方に、右肩のあたりを警策(きょうさく)と呼ばれる長い棒でバシッと叩かれる映像をテレで見た記憶もあり、大井先生のせっかくのお申し出ではありましたが、私としては敬遠する気持ちから、お断りしようと思いました。

ところが、長谷寺が青山の麻布にあると聞いて、気持ちが変わりました。
まだ若かった私には、麻布はおしゃれな街という印象が強く、そんな場所にあるお寺なら一度行ってみたいという気持ちから、「是非連れて行ってください」と思わず返事をしてしまった、というのが正直なところだったように思います。

そんなちょっといい加減な気持ちから参加した「坐禅会」でした。
ところが、坐禅堂の静寂そのものの中に静かに坐り、僧侶の方から言われるままに、何も考えずに軽く目を閉じて、ゆっくり大きく、リズムをもって深呼吸を繰り返していると、血行がよくなるからでしょうか、身体が温かくなってきます。

同時に、呼吸が整ってくるのに伴い、こころも整えられるからでしょうか、不思議と気持ちが落ち着いてくるのがわかりました。

結構単純にできている私は、1回、正確には40分間の坐禅を2クール体験しただけで、こころと身体が満たされるような、リラックスした状態になれることがすっかり気に入り、次週はパートナーを誘って参加したものでした。

結局長谷寺の坐禅会には半年ほど、毎週のように通い続け、坐禅の作法が何となく身についてきたところで、自宅での坐禅に切り替えました。
以来、現在も、毎日ではありませんが、気持ちが落ち着かない時や、なかなか寝つけない夜などに、30~40分間ほど、お香を焚いて坐禅を組むことを習慣にしています。

坐禅の作法として行う、大きくゆっくり繰り返す呼吸法にはリズム性があります。
このようなリズム性のある運動には、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」の働きを活性化する作用があることが、最近の研究で実証されています。

セロトニンは、いくつかある神経伝達物質のなかでも「精神の安定」と「睡眠の質」に大きく関与していることが医学的にわかっています。

うつ病の原因としてセロトニンが注目されるのはこのためで、セロトニンの活性化が下がると、気が滅入ったり、やる気が出なかったり、睡眠の質を確保できなかったりすることになります。

逆にセロトニンの活性化が高まれば、精神は安定し、睡眠の質が高まることからしても、坐禅には、その効果が期待できるというわけです。先に記してきたように、私自身、坐禅のそのような効果を実際に体感しています。

看護師さんの約7割の方々が職業性のストレスを抱えていると聞きます。
その過剰なストレスに耐えかねて、燃え尽き、看護職をやめるといった残念な事態に陥らないように、自らをケアすることを忘れないでいただきたい――。

そんな思いから、ストレスに負けそうになる前に、身近にいるリエゾン精神看護専門看護師に、つらい胸の内を話してみることもお勧めしてきました。

看護をしていると、患者のこころのケアに行きづまったり同僚や医療チームにおける人間関係に問題を抱えたりと、メンタル面のケアに悩むことがあるのでは? そんなときはコンサルテーション手法による精神看護専門看護師やリエゾンナースの手を借りては……。

また、ご自分でできるストレス対策についても、落語やお笑い、 大人のぬり絵、あるいはアプリを活用して坐禅同様に大きくゆっくり呼吸することにより心身のリラックスを図るツーブリーズなど、いくつか紹介してきました。
これらのストレス対策に、坐禅も加えてみたらいかがでしょうか。

勤務時間が不規則な看護師は
自宅で坐禅を組むことから

坐禅を一度も経験したことがないという看護師さんは、できれば一度、勤務先やご自宅の近くにあるお寺が開催している坐禅会に参加して、非日常の空間に身を置き、坐ってみることをお勧めしたいと思います。ネットで検索すれば、すぐに見つかるはずです。

坐禅には専門的な作法がありますが、僧侶の方の説明は軽く受け止め、とにかく最初は何も考えずに、ただ坐ってみるといいでしょう。

東京近郊の方でしたら、鎌倉には坐禅を体験させてくれるお寺がたくさんあります。ネットで検索してみると、同様の坐禅体験のできるお寺は全国的にあるようです。
週末にでもちょっとした小旅行の一環として、坐禅に挑戦してみるのもいいと思います。一度座禅を組んでみて、リラックスできてこころが落ち着いてくる体験をすると、たぶんあなたも坐禅が癖になるはずです。

とはいえ、交代制勤務でなかなか定期的に坐禅会に参加できない、遠出も難しいという看護師さんも少なくないと思います。
そんな方は、『「そのままの私」からはじめる坐禅』(メタモル出版)などに手ほどきを受けながら、まずはご自宅でやってみてはいかがでしょうか。

この本にあるように、坐禅は椅子に腰かけても、寝る姿勢でも、また電車のなかでもできますが、やはり理想は、坐った姿勢でしょう。

その際私は、お尻の下に座蒲(ざふ)を敷き、リラックス効果のあるお香を焚いて、長谷寺で体感した坐禅堂さながらの空間を演出して座禅を組んでいます。
コツは、3秒で鼻から息を吸い、そのまま2秒息を止め、15秒かけて口から息を吐くという3回のリズムを大きく、深く、ゆっくり繰り返します。
息を吐くときには、50~60㎝ほど先にろうそくの火があることをイメージし、その火を静かに吹き消すように吐き出します。

棒状のお線香は14㎝前後の短いタイプは25~30分で燃え尽きます。一方、長いタイプだと燃え尽きるまで40分程度かかりますので、その時の状況に合わせてお線香を選び、燃え尽きるまでの間、坐禅を組むようにしています。

なお、お尻の下に敷く坐蒲としては、大きめサイズの座禅布団黒綿12号を、お香でよく使うのは、アロマ的なリラックス効果があり、煙が少なく、燃焼時間が25分ほどの日本香堂 線香 【花風 三種入】 ラベンダー/白梅/沈丁花の香り を使っています。
あくまでも私流ですが、これらを参考に、看護師のあなたも坐禅でこころを整える習慣を身につけられたらにいかがでしょうか。