withコロナ時代の在宅ACPの実践に向けて




ノートに記す

事前に家族と話し合っておきたい
「自分が感染し、重症化したら…」

今でこそなんとか小康状態を維持できているものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者が東京や大阪を中心に急増し、メディアが連日のように医療崩壊の危機を訴えた時期がありました。

「このままでは集中治療室(ICU)がパンクしてしまう」
「人工呼吸器もECMO(エクモ)も足りなくなってくる」――等々。

そんななかで開かれた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の記者会見の席上、医療社会学がご専門の武藤香織さん(東京大学医科学研究所公共研究分野教授)が、広く国民に呼びかけた言葉が、2か月余りが過ぎた今も印象深く残っています。

「自分がこの感染症の患者になることを想定して、万が一重症化したときに自分としてはどんな医療を受けたいか、たとえば人工呼吸器の装着をどうするのかといったことを、タブーなく家族や身近な人と話し合っておいてほしい」

この言葉に、「そうだ、未知のウイルスが猛威を振るっているこんなときだからこそ、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)ということが意味を持ってくるのだ」と、改めて気づかされたものでした。

ACPの考え方が盛り込まれた
日本医師会の改定ガイドライン

ところで、日本医師会は今年5月、12年ぶりに改定した終末期医療に関するガイドライン、正式名「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」を公表しています。

改定作業は、新型コロナウイルス感染症がパンデミック、つまり全国的かつ世界的に大流行しているなかで行われたことが、おそらく影響しているのでしょう。
今回の改定ガイドラインには、新たにACPの考え方が盛り込まれています。

ACPについては、本ガイドラインの改定作業を行った日本医師会の第16次生命倫理懇談会(座長:高久史麿地域医療振興協会会長)が次のように説明しています。

ACPとは、長期化した高齢期において、将来の変化に備え、その間の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援するプロセスのことである。

もちろんACPは、高齢者だけを対象とするものではなく、若い人でも、医療やケアのあり方について考えざるを得ない状況にある人にはすべて適用される。

(引用元:終末期医療に関するガイドラインの見直しとアドバンス・ケア・プランニングの普及・啓発*¹)

かかりつけ医が中心となり
ACPの必要性と重要性の啓発を

このような考えのもとにACPを実際に行っていくうえで、その調整・推進役が期待される、いわばキーパーソンとして、
「それぞれの地域のかかりつけ医の果たすべき役割が大きい」
と、生命倫理懇談会は指摘しています。

この指摘の背景には、高齢社会の急速な進展に伴う在宅および介護施設における療養や看取りが増加している現実があります。

また、地域包括ケアシステムの構築が進められていることもあり、いずれの状況においても在宅における医療・ケアのイニシアチブをとる「かかりつけ医」の果たす役割が大きく期待されている、ということです。

ちなみにここでは「かかりつけ医」を、次のように説明しています。
「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師のこと」

一定の年齢に達したら誰もがかかりつけ医を持つ

地域包括ケアシステムのなかで、かかりつけ医が中心となり、できるだけ早い時期から、ACPがそれぞれの人生にとっていかに必要かつ重要であるかということを、1人でも多くの人に啓発し、実践していくのが理想だと、懇談会は説明しているわけです。

しかし、実際にかかりつけ医をもっているのは、70歳以上ではおよそ8割を超えるものの、60歳代では60~70%、さらに若い世代になると、かかりつけ医を持っていない人が圧倒的に多いというのが現実のようです。

したがって、まずは一定の年齢を超えたら、すべての人が誰かしらかかりつけ医を持っている、といった状況を実現する必要がある、と提言しています。

この場合の「一定の年齢」は、地域事情により変わってくるでしょうから、地域ごとにあらかじめ決めておくといいようです。

なお日本医師会はかかりつけ医に期待されるさまざまな役割を存分に行うことにより、地域住民に信頼される医師を増やし、本来の役割を担っていけるようにと、2016年から「かかりつけ医機能研修制度」をスタートさせています。

健診や健康教育の場を活用して
ACPの考え方の普及を図る

ACPの考え方を広く地域住民に普及する方法としては、それぞれの地域で開催されている健診や健康教育、あるいは健康づくりの場を最大限活用していくことを提案しています。

たとえば、学校健診の場では、ただ健診に協力するだけでなく、健康と生命の大切さ、および自ら意思決定することの重要性についても幼少時から伝える機会を設けること。

特に高齢期に入った人には、極力早いうちから、健康寿命の延伸のためにそれぞれができることは何か、すべきことがあるならそれは何かについて、医師も積極的に関与して教育・研修することがACPの第一歩になる、としています。

「もしバナゲーム」を教育ツールとして活用を

たとえば、自らの死について考えてもらうためのカード・ゲームとして、高齢者を中心に一般の方の間でも広く注目されている「もしバナゲーム」をご存知かと思います。

このゲームは、「もしも余命が半年だとしたら、自分はどんなことを大切にして残りの時間を過ごしたいか」とか「もしものときにどのような医療・ケアを受けたいか、あるいは受けたくないか」といったことを話し合ううえで有用であり、医療・介護関係者や家族間でも、教育ツールとしての活用が推奨されています。

ACPのフォーマットは
チェックリスト形式は避ける

ACPについて取材していると、「進め方が一目でわかるチェックリストやフォーマットのようなものはないかしら」といった質問を受けることがよくあります。

ACPには専門性の異なる多職種がかかわることを考えると、ACPの内容や、その始め方、継続の仕方について、標準的なモデルを示す書式があったほうがいいとは思います。

ただし、その書式をチェックリスト形式にすると、チェックリストを埋めることが目標になってしまい、ACPのそもそもの意図から外れてしまう恐れがあります。

それぞれの地域でフォーマットを作成する際は、使用する際にその人の個性を反映できるように、個々の状況に合わせてカスタマイズできる柔軟性に富んだものにすることが大切です。
同時に、医学モデルだけにならないように、多職種が連携して作成することを、生命倫理懇談会は推奨しています。

引用・参考資料*¹:終末期医療に関するガイドラインの見直しとアドバンス・ケア・プランニングの普及・啓発