日本救急医学会などが
コロナ禍の熱中症予防に警告
日本救急医学会など4学会は6月1日、
「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」*¹
をまとめ、発表しています。
新型コロナウイルスについては、わまチン接種が進んできてはいるものの、依然として感染拡大の最中にあることは間違いなく、緊張を解けない日々が続いています。
この新しいウイルスについては、当初に比べれば徐々にその正体が見えてきてはいるものの、未だ解明されていない点も数多く残っています。
そのため、現時点では、コロナ禍における熱中症の予防や治療に関する情報は不十分で、学術的エビデンスは限られています。
しかし、本提言には、学術団体としてのエキスパートコンセンサス(専門家の合意)に基づく、コロナ禍における熱中症予防の注意点がまとめられています。
なお、この提言は、日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会を中心に、救急救命士や看護師などを含む救急医療職から成る日本臨床救急医学会、日本感染症学会、および日本呼吸器学会の4学会メンバー中心のワーキンググループがまとめたものです。
マスク着用時は口渇感に頼らず
頻回な水分摂取を
提言では、感染対策の基本の1つとしてマスクを常時着用していると、口腔内や鼻腔内の保湿効果が高まり、口腔内の渇きを感じにくくなるため、自覚がないまま脱水症状が進む可能性があることを指摘しています。
そのため、特に脱水状態に陥るリスクの高い高齢者や小児では、些細な体調の変化を見逃さないように留意するとともに、もともと口渇感は熱中症予防の確かな指標にはならないことを念頭に、口渇感に頼ることなく、例年以上に意識して、頻回に経口補水液など、塩分を含む水分をこまめに摂取するようすすめています。
また、マスクを着用したまま軽い運動を行うと、呼吸数や心拍数、血中二酸化炭素濃度がいずれも増加し、顔面温度も1.7℃上昇したとする研究データを紹介。
マスク着用により身体に負担がかかることは明らかだとして、例年よりも熱中症のリスクは高くなると警告しています。
そのうえで、ソーシャルディスタンスの確保を守り、咳エチケットも徹底しながら、周りに人がいなければ、適宜マスクを外して休憩することも必要だとしています。
この点については厚生労働省も、「新しい生活様式における熱中症予防の注意点」のなかで、屋外で2m以内に人がいなければマスクを外してもよいとしています。
N95マスク着用は必要時に限定する
なお、一般的なサージカルマスクに比べて通気性が悪く、呼吸抵抗性の強いN95マスクについて、提言は、「着用時に心拍数が10%ほど上昇し、マスク内の温度は平均で1℃高くなり、マスク内湿度も平均で10%有意に上昇する」とする研究データを紹介しています。
加えて、「N95マスクの表面に汗がつくことによって通気性がさらに悪くなり、呼吸がしづらくなる」とする報告もあるとのこと。
これらの報告から、一般的なマスクの着用に比べN95マスクの着用は、身体にかかる負担がより大きく、口腔内の渇きもあまり感じないことが想定されるとしています。
そのため、新型コロナウイルス感染症患者から出るエアロゾルなどを吸入する可能性がある特殊な手技(気道吸引、気管内挿管など)を行う場合を除き、N95マスクの着用は、熱中症予防の観点から控えるよう奨励しています。
外出自粛の生活が続き
熱中症になるリスクが高い
本提言でさらに注目すべきは、今年の夏の熱中症対策で例年以上に留意すべきこととして、
「身体が暑さに慣れていない時期の危険性」を指摘していることです。
今年は春先から、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の生活が続き、多くの国民が屋内に閉じこもり、運動不足の状態のまま熱中症シーズンを迎えています。
そのため、「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といって、汗をかくとか皮膚の血流量が増えるといった、身体のさまざまな働きが暑さにゆっくり慣れて適応していくプロセスを経ないまま、いきなり高温多湿の環境に身をさらすことになります。
このような状態は勢い、熱中症の発症率を増加させる可能性があるとのこと。
身体が暑さに適応するための取り組みを
そこで、今からでも遅くありませんから、暑熱順化を獲得する、つまり身体が暑さに適応できるような取り組みを始めることが重要だとしています。
まずは、立ち上がって足踏みをする、スクワットをする、テレビ体操などを活用して全身を動かすといった方法で、自宅でも活動量、運動量を増やすことができます。
運動をして汗をかく機会を増やすことで暑熱順応化していれば、夏の暑さにもうまく適応することができるようになり、熱中症にかかりにくくなるというわけです。
熱中症リスクの指標
「暑さ指数」のチェックを
例年の熱中症対策とは違う点として、エアコンの使い方があげられています。
そのポイントは「エアコンをつけていれば部屋の空気は換気されていると考えがちだが、通常の家庭用エアコンは室内の空気を循環させているだけで、空気の入れ替えはしていないため、感染予防のためには適宜窓を開けて、風通しをよくすることが必要」ということです。
新型コロナウイルスの感染予防策として政府の専門家会議が提唱している、いわゆる3密(密閉、密集、密接)の環境を避けるためには、毎時2回以上、1回数分程度、窓を開放して換気を励行することが進められています。
窓を開ければ、暑い外気が入り込んできますから、室温は上がります。
したがって、その都度室内の温度をこまめに調整することが必要になってくるという訳です。
その際、扇風機やサーキュレーターを活用することも有効だとしています。
自分のいる環境が熱中症が起きやすいかどうかを知るための指標、つまり熱中症リスクの指標として、提言は、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)、いわゆる「暑さ指数」の活用を進めています。
WBGTが31℃以上(危険)あるいは28~31℃(厳重警戒)の場合は、屋内でもエアコンや空調のない部屋での活動は避けることが推奨されています。
参考資料*¹:新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言
https://www.jaam.jp/info/2020/files/info-2020601.pdf