妊娠中の果物摂取が子の行動的問題を防ぐ!?

りんご

妊娠中の果物摂取と
我が子の情緒・行動に関連が

欧米人は、食後のデザートとして当たり前のようにフルーツを口にします。一方で私たち日本人は、生の果物を食べる習慣が少ないと言っていいでしょう。それだけに、日本人女性、とりわけこれから妊娠を考えている、あるいは今現在妊娠中の女性にぜひ知っていただきたい研究結果が発表されています。

母親とその母親から生まれた子を対象に行われた疫学調査(えきがくちょうさ)により、妊娠中に母親が摂取する野菜や果物類(特にりんごと柑橘類)に、生まれてくる子の情緒や行動面の問題を防ぐ可能性のあることを確認できたというのです。

果物はポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富

緑黄色野菜や果物には、ポリフェノールやカロテノイドなどの抗酸化物質(こうさんかぶっしつ)が多く含まれています。この抗酸化物質は、体内に増え過ぎた活性酸素の酸化を抑え、さまざまな機能が錆びつくのを防いで正常な機能を維持するように働いてくれます。

妊娠中の母親が緑黄色野菜や果物などを摂取すると、母子にかかる過度な酸化ストレスを減らしてくれるうえに、酸化ストレスがもたらすさまざまな健康問題を防ぐ効果も期待できることは、これまでも指摘されてきました。

しかし、この可能性を疫学的に調査し、実証した研究はなかっただけに、今回の発表には特に妊娠を考えている女性の間で大きな関心事となっているようです。というわけで今回は、先日発表されたこの研究結果について書いてみたいと思います。

妊娠中の母親の栄養状況と
5歳児の行動に関連は?

愛媛大学のプレスリリース(2019年9月3日)によれば、この疫学的研究を行ったのは、同大大学院の三宅吉博教授(医学系研究科疫学・予防医学講座)らが主導する東京大学、琉球大学との共同研究チームです。

研究チームは、1,199組の妊娠中の母親とその母親から生まれた子を対象に追跡調査した「九州・沖縄母子保健研究」で得られた以下2つのデータをもとに、妊娠中の野菜、果物、ビタミンCと子の5歳児における行動的問題との関連を調べています。

  • 妊娠中の母親については、食事歴法質問調査票を用いたアンケート調査による栄養データ
  • その母親から生まれた5歳児については、保護者にSDQ*として知られる子どもの強さと生活上の困難さに関するアンケートを行って得られた回答
*SQD(Strengths and Difficulties Questionnaire)
イギリスを中心とする西欧諸国で広く用いられている3~16歳くらいまでの小児の多側面における行動上の問題に関するスクリーニング尺度。

妊娠中のりんご摂取が多動問題に
柑橘類摂取が情緒・行動問題に

調査の結果、1,199人の5歳児において情緒問題は12.9%、行為問題は9.4%、多動問題は13.1%、仲間関係問題は8.6%、および向社会的行動(報酬を期待することなく他人を助け、役立とうとする行動)の低さは29.2%に認められ、母親が妊娠中に摂取した野菜、果物、ビタミンCとの関連が以下のように認められた、としています。

  • 総野菜摂取および緑黄色野菜の摂取は、向社会的行動(ボランティアや寄付、支援など、他人を助ける行動)の低さのリスク低下と関連
  • 緑黄色野菜以外の野菜摂取は多動問題(不注意や多動性・衝動性)および向社会的行動の低さのリスク低下と関連
  • 果物、特にりんごの摂取が多いほど、多動問題のリスク低下と関連
  • 柑橘類の摂取が多いほど、情緒問題、行動問題および多動問題のリスク低下と関連
  • ビタミンCの摂取が多いほど行為問題(市民生活上問題となる行為)、多動問題および向社会的行動の低さのリスク低下と関連

以上の結果から共同研究チームは、さらなる研究データの蓄積が必要と断ったうえで、妊娠中の野菜、果物(特にりんごと柑橘類)、およびビタミンCの摂取は、生まれた子の行動的問題に予防的に働く可能性が認められた、と結論しているのです*¹。

妊娠中期・末期・授乳期は
1日平均300gの果物摂取を

では妊娠中に、特におすすめのりんごや柑橘類を毎日どのくらい摂取すればいいのでしょうか。この点については、残念ながら先の研究は触れていませんが、厚生労働省と農林水産省による健康な生活のための食生活の指針、「食事バランスガイド」が参考になります。

そこでは、活動量が普通の成人男女の場合、「果物の摂取は可食部分で1日200gが望ましい」としたうえで、「妊娠中期と妊娠末期、および授乳期にある女性は、それぞれプラス100g、つまり1日に300g摂取するのが望ましい」としています。

りんごやオレンジなら1日1個半は摂取を

一般的なサイズのりんごやオレンジ(柑橘類)1個は、皮などを除いた可食部分の半分がおおむね100g相当ですから、300g摂取するためには1個半が必要になります。同じ柑橘類でもミカンなら普通サイズの1個が100gですから、3個はとりたいところです。

添加物のない果汁100%のジュース類は果物として扱い、コップ1杯を100gとしてカウントすることができます。しかし、加工の過程でビタミン類が減ってしまいますから、できるだけ生の果物をとったほうがいいようです。

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」で明らかにされている日本人女性の果物摂取量は、2019(令和元)年の調査によれば、20~29歳の平均で1日52.7g、30~39歳の平均で1日53.2gと、いずれも200g、300gにはほど遠いもの。妊娠の有無に関係なく、今まで以上に意識して果物類を食べるようにしたいものです。

なお、りんごにも賞味期限はありますが、保存方法によっては品質をキープして、賞味期限を延ばすこともできるという話をこちらで書いています。是非一読を。

りんごの栄養価の高さは「1日1個のりんごは医者を遠ざける」ほどだと言われる。さまざまな健康への効能が確認されているが、りんごにも賞味期限があり、品質が落ちれば栄養価も効能も低下する。幸い、保存方法により品質をキープするコツはある。その方法をまとめた。

参考資料*¹:愛媛大学プレスリリース資料