女性の尿トラブルと骨盤底筋エクササイズ




尿もれ

女性に多い尿トラブルは
「お腹に力が入ったとき」に

新生児から乳児の頃は当たり前だった「おもらし」――多少の個人差はあるものの、幼少期を過ぎるころまでにはおおむね排尿行動は自立し、もらすことなく、きちんとトイレに行って排尿できるようになってくるものです。

この正常な排尿行動は、自律神経や横隔膜の随意運動などさまざまな要因が参加して行われる協調運動から成り立っています。

その数ある要因のなかにあって、外尿道括約筋を中心とした骨盤底筋群、通称「骨盤底筋」の働きは、下部尿路機能を大きく左右するものとして注目されています。

看護師さんはご承知でしょうが、骨盤底筋は、骨盤の底辺部分に位置し、女性でいえば、骨盤腔内にある子宮や卵巣、膀胱、直腸といった重要な臓器を、ちょうどハンモックのように抱え込んで支えている筋肉です。

お腹に力が加わり腹圧が高まると、周辺の神経と連動してこの筋肉が働き、膀胱や尿道を支えて、尿が漏れないようにしているわけです。

成人女性の4人に1人が経験している「腹圧性尿失禁」

ところが、特に女性の場合は尿道が男性に比べてかなり短いこともあり、加齢に伴い、あるいは出産後などに、以下のような動作をしてお腹に急に力を入れた時などに、尿が漏れてしまう、つまり尿失禁を経験することがあります。

  • 咳き込んだり、くしゃみをする
  • お腹を抱えるほどの大笑いをする
  • 激しく走ったり、ジャンプをする
  • 重いものを「よいしょ」と力んで持ち上げる
  • 急な坂道や階段を急いで昇り降りする

このような場合の尿失禁は、急にかかった腹圧に対して尿道をうまく締めることができなかったことが直接の原因で起こることから、「腹圧性尿失禁」と呼ばれています。

このタイプの尿失禁はまれなものではないようです。
一般に成人女性の4人に1人、40歳以降になると頻度の差はあるものの3人に1人が経験して、ひそかに悩んでいるものと推測されています。

患者さんを抱え上げたりすることの多い看護師さんも、比較的高頻度でこの腹圧性尿失禁を経験されているのではないでしょうか。

腹圧性尿失禁の特効薬は
骨盤底筋を鍛えるエクササイズ

成人女性の腹圧性尿失禁を扱っている日本排尿機能学会女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会による『女性下部尿路症状診療ガイドライン』(リッチヒルメディカル)によれば、その発生率自体は決して低くないものの、その症状を訴えて医療機関を訪れるケースは全体の10%にも満たないだろうと推測されています。

実際、成人女性の恥じらいの気持ちも大きく影響して、腹圧性尿失禁のような尿トラブルは、かつてはなかなか表面に出てきませんでした。

しかし最近では、テレビの健康番組などでも頻繁に取り上げられていることもあって、腹圧性尿失禁に代表される女性の尿トラブルの認知度は、徐々に高まりつつあります。

対症療法には限界が……

並行してその対応も、大々的なCM効果もあり、広く知られるようになってきています。
その結果、たとえば「大笑いすると尿がちょっともれる」「咳き込んだら尿がもれた」といったような経験をすると、多くの人が、尿失禁用パッドでなんとかしのいでいるのではないでしょうか。

あるいは、最近は、着用していれば骨盤底筋を引き上げた状態でしっかりサポートし、しかも尿もれ対策もできるという骨盤底筋をサポートするショーツも各種市販されています。
こちらを活用している方も少なくないでしょう。

また、腹圧性尿失禁には、肥満や喫煙、便秘などと関連性があると考えられていますから、「体脂肪を減らす」「禁煙努力をする」「便秘の解消に努める」といった日常生活の改善に向けたセルフケアも欠かせないことは改めて言うまでもないでしょう。

ただ、いずれの対応にも、残念ながら限界があります。

もれ出る尿の量が少しずつ増えていき、あるいは頻回に尿もれを自覚するようになって、女性泌尿器科や産婦人科を受診せざるをえない状態になりかねません。

その結果、尿もれの程度によっては、「抗コリン薬」や「βアドレナリン受容体刺激薬」などによる薬物療法が必要になるかもしれません。
場合によっては、「尿道を吊り上げる手術を」といったことにもなりかねません。

こうした事態を防ぐには、腹圧性尿失禁に気づいたら、できるだけ早い段階で、緩んでコントロールが十分きかなくなってきている骨盤底筋を鍛え直し、尿道周辺の筋肉に締める力をつけるエクササイズを、対症療法と並行して根気強く行うことが奨励されています。

小刻みに振動するクッションで
骨盤底筋の筋活動を活性化

外尿道括約筋を中心とする骨盤底筋を鍛えて、その筋肉本来の機能を取り戻すためのエクササイズにはいくつか方法があります。

ただしこの骨盤底筋は、ふくらはぎや太ももなどの筋肉と異なり、体の奥深い体幹部分にありますから、ふだんの生活では ほとんど意識することのない筋肉です。

しかもこの筋肉は、当然ながら単独で動いているわけではありません。横隔膜や腹部、背部の筋肉などと連動して動きがコントロールされていますから、非常に鍛えにくい筋肉です。

そこで、より手軽にエクササイズができるようにと、何種類かの健康グッズが市販されています。
その一つ、フランスの経産婦の間で人気が高い骨盤底筋健康グッズを参考にした骨盤プロ開発≪レグール®≫は、バレリーナの美しい姿勢と美脚をヒントに、健康科学をベースにした身体ケアの日本人プロが開発したもので、日本女性にも人気が高いと聞きます。

産学連携プログラムで開発されたクッション

クッションの上に坐るだけで骨盤底筋を鍛える効果が期待できるという、なんとも理想的な骨盤底筋エクササイズクッション もあります。

これは、広島大学の研究チームとラボネッツ社との産学連携プログラムで開発されたグッズです。
スイッチを入れて普通のクッション感覚でその上に坐ると、クッションの形状により骨盤底筋に小刻みな振動が伝わるようになっています。

この振動に合わせて尿道周りの筋肉に力を入れると、その動きがそのまま骨盤底筋を引き締める動作になり、その筋肉を鍛えることができるというクッションです。

無理な姿勢をとる必要がなく、テレビを見たり、本を読んだりしながらできますから、骨盤底筋エクササイズを習慣化することができます。

広島大学の研究チームが、実際にこのクッションを使用している女性を対象に行ったモニタリング調査では、1秒間に40回転するこのクッションに坐って上記のエクササイズを5分間行った女性全員に、尿道括約筋の筋活動が活性化したことを確認できたと報告しています。

なお、このクッションによる骨盤底筋エクササイズは、腹圧がかかったわけではないのに尿意を強く感じてトイレに急いだものの間に合わなかった、といった「過活動膀胱」と呼ばれる症状の改善にも効果が期待できるとされています。