新型コロナ「5類」への移行で何がどう変わる

変化

「5類」への移行により
医療提供体制は正常化へ?

すでにご承知のように、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけ*が、5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に移行します。

当初この感染症は、ウイルスの病原性や感染力がどの程度のものかわからなかったため「2類感染症相当」とされていました。

その後、2020年2月に感染症法が改正され、5つの類型には入らない「新型インフルエンザ等感染症」に含まれる「新型コロナウイルス感染症」と規定され、感染者には入院勧告や就業制限、外出自粛要請など「2類」よりもかなり厳しい措置がとられてきました。

今回の「5類」への移行は、1年程度の移行期間が設けられますから段階的とはなりますが、現行の医療提供体制を正常化、つまりコロナ禍以前の体制に戻す第一歩となります。

「5類」への移行後も新型コロナウイルス感染症は終わっていない

「5類」への移行により、感染対策として行われている行動制限や医療機関の対応、治療費の公費負担などが大幅に変わることになります。

と言っても、新型コロナウイルス感染症が終わったわけではありません。

しかも、病原性や感染力が著しく高まった新たな変異ウイルスが現れる可能性はゼロではなく、新たな変異ウイルスが現れた場合には、国民生活はもとより医療機関も大きな影響を受けることが懸念されます。

その影響を最小限に抑え、感染拡大にブレーキをかけるために医療スタッフとして理解し、心がけたいことを整理しておきたいと思います。

*感染症法(正式名称「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」*¹)では、原因ウイルスや細菌の重症化リスクや感染力などから、感染症を「1類」から「5類」、および「新型インフルエンザ等感染症」「指定感染症」「新感染症」に分け、感染拡大を阻止するために国や自治体が行うことのできる措置や感染症患者が必要とする医療の内容を定めている。

「5類」への移行により
何がどう変わるのか

まずは、新型コロナウイルス感染症が「5類」へ移行することにより、コロナ対応で変わることとしては、以下のようなことがあげられます。

  1. 行動制限(緊急事態制限、入院勧告・指示、感染者や濃厚接触者への自宅待機要請など)ができなくなるため、新型コロナウイルスの感染者や濃厚接触者であっても、原則、自由に出歩けるようになる(発症の翌日から5日間は外出を控えることが推奨されているが、規制はない)
  2. 感染症指定医療機関や発熱外来など一部の医療機関だけに限定することなく、幅広い医療機関でコロナ対応、つまりコロナ患者の入院受け入れや診療ができるようになる。
    患者側からすれば、季節性インフルエンザに対応している病院やクリニックであれば、事前の手続きなしに自由に受診できるようになる
  3. 検査・治療・入院等にかかる医療費が、現行の全額公費負担(自己負担無し)から、原則、一部自己負担になる(政府は「5類」移行後の、少なくとも2024年3月末までは全額公費負担を続ける方針を打ち出している。その後は、検査や陽性判明後の外来医療費、入院費は自己負担(保険適用)とし、高額な治療薬のみ公費負担を9月末まで続ける)
  4. 海外から日本に入国・帰国する人に、空港や港などで3回のワクチン接種証明書などを求めている、いわゆる水際(みずぎわ)対策としての措置がとれなくなる
  5. 医療機関や保健所に求められていた感染状況を把握するための感染者に関する報告が、全数報告から、原則、基幹病院から定期的に報告を求める定点報告になる
  6. マスクの着用は屋内・屋外を問わず個人の判断にゆだねることが基本となる(「5類」に移行する前の3月13日からこの方針は実施されている)
  7. ワクチン接種は予防接種法に基づき無料で進められてきた。当面、少なくとも2024年3月末までは、引き続き無料とされるが、将来的には季節性インフルエンザ同様、部分的に個人負担とすることが検討されている

基本的な感染対策は
「5類」移行後も励行を

感染症法上の位置づけが「5類」に引き下げられても、新型コロナウイルス感染症の感染力や病原性が変わるわけではありません。

したがつて、「3密(密閉・密集・密接)の回避」、「人と人との距離(2m以上)の確保」、「手洗い等の手指衛生」、「換気」といった基本的な感染対策は引き続き必要です。

加えて、上記ポイントの「1」にあるような行動制限がなくなったからといって、感染している人や感染するリスクの高い機会があった、いわゆる濃厚接触者が、人混みができる公共の場に出掛けるとか外食するといったことは避けなければなりません。

マスク着用の必要性を再認識してもらう

また、「6」にあるように、マスク着用は個人の判断にゆだねられることになります。

しかし、新型コロナウイルスは、感染者の咳やくしゃみ、会話などの際に排出されるウイルスを含んだ飛沫や、エアロゾルと呼ばれる飛沫よりさらに小さな水分を含んだ粒子を吸入することにより感染が広がっていきます。

また、新型コロナウイルスには感染してから症状が出るまでの、いわゆる潜伏期が1~14日間、平均で5日間と長いため、無症状で感染したことに気づいていなくても咳などでウイルスを周囲にまき散らし、感染を広げてしまうリスクがあります。

したがって、「マスク着用は個人の判断で」となっていても、感染状況には常に気を配るとともに、屋内で人との距離がとれない場合や一定の距離がとれても、会話をするときなどは自主的にマスクを着用するよう働きかけることが大切でしょう。

一般の医療機関も
コロナ患者の受け入れを

新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関については、「2」にあるように、一般の医療機関でも感染対策をとっていればコロナ患者を受け入れることができるようになります。

とはいえ、コロナ患者を受け入れるとなると、これまで保健所が担ってきた入院調整などの業務が医療機関に任されることになりますから、負担が増すことになるのではないかとの懸念が医療機関側から数多く上がっていると聞きます。

さらに、これまで発熱外来を設置しないなど、コロナ患者にいっさい対応してこなかった医療機関からは、感染対策の難しさや人材不足など、今後コロナ患者を受け入れるうえでの課題を指摘する声も聞かれます。

そのため、「5類になったからどこの医療機関も受診できるだろう」と患者サイドの意識が変わっても、実際にはコロナ患者の受診を断る医療機関が出てくるなど、医療現場が少なからず混乱することも予想されます。

初めてのコロナ対応に備えて

そうした事態を防ごうと、政府の「5類」への移行案では、1年間の移行期間が終了する2024年の春までは、コロナ対応をしている医療機関に対する補助金と診療報酬の特例を継続して、患者の受け入れ医療機関の急激な減少を防ぎつつ、他の医療機関にもコロナ患者の受け入れを促していくとしています。

ということは、「5類」への移行後に初めてコロナ対応を引き受けることになる医療機関も出てくるということです。

「5類」移行に備え新型コロナウイルス曝露リスクの確認を

あなたが所属する医療機関がそうなったときに慌てないために、たとえば新型コロナウイルス感染症の診断が確定した患者またはその疑いのある患者に接した際の曝露(ばくろ)リスクについて、こちらをチェックして確認しておいてはいかがでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。このまま感染者が増え続けると、一般の医療機関でも感染者対応が求められることに。その想定の元、日本環境感染学会は対応ガイドの第2版で、医療従事者のウイルス曝露リスク評価と対応を提示している。そのポイントをまとめた。

また、新型コロナウイルス感染症について「自分はこれまでいっさいかかわってこなかった」という方は、こちら*²を参考に、この感染症に関する基本的なこと、特に感染対策を確認しておくことをお勧めします。

参考資料*¹:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

参考資料*²:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第9版