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高齢の親が支える
長年引きこもる中高年者
「80代の男性患者の退院支援をするなかで、同居している50代の息子がこの10年ほど仕事にも就かず、引きこもり状態で困っていると妻から打ち明けられた」
「高齢者宅を初めて訪問したら、長年無職だという中年の息子さんと鉢合わせしてしまった。これまで息子さんがいるとは一言も聞いていなかったんですが……」
このところ看護職の方から、こんな話を耳にするようになりました。
80代の親が、引きこもる50代の子どもの生活を支える、といった親子関係に起こりがちな、いわゆる「8050(はちまるごーまる)問題」が懸念されているということでしょう。
「高齢の親のケアだけでなく、引きこもっている当事者にも何かしらのアプローチをしたほうがいいとは思うけど、具体的な手だてを見つけられないでいる、どうしらいいかしら」
「引きこもり地域支援センターの担当者に相談するっていうのはどうなの?」
たまたま仲間内でこんなやりとりがあった数日後のことです。
川崎市で悲惨な殺傷事件が起きてしまいました。容疑者は、両親ではなく高齢の親族と暮らす自宅で長年引きこもっていた――。
こんな報道が繰り返されるなかで、「8050問題」と中高年の引きこもりが改めてクローズアップされています。
「全国引きこもり家族会連合会」が
社会的孤立の深刻さを訴える
最初に断っておきますが、川崎での今回の事件では、容疑者がすでに自殺しています。
そのため、事件の動機と、引きこもり傾向にあったことや訪問介護を受けている高齢の親族と暮らしていたこととの因果関係は明らかにされていません。
にもかかわらず多くのメディアは、あたかもそこに明確な関係があるかのような報道を繰り返しています。
こうした事態が、似た状況にある家族にマイナスの影響を及ぼしかねないことを懸念した「全国引きこもり家族会連合会」は、事件発生から4日後の6月1日、ホームページ上に「川崎市殺傷事件についての声明文」を発表しています。
声明文は冒頭で、この事件が似たような状況にある全国の家族に「自分の子も、あのような事件を起こしてしまうのではないか」という不安感を呼び起こし、事件後に相談の問い合わせが急増していることに言及。
「引きこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない」としたうえで、いわゆる「8050問題」についてこんなふうに記しています。
事件の背景に「引きこもり」という単語が出てくると、メディアは「なぜここまで放置したのか」などと家族を責め立てるが、周囲が責めれば責めるほど、家族は世間の目を恐れ、相談につながれなくなり、孤立を深める。
報道によれば、親族は14回にわたって市の精神保健福祉センターに相談し、助けを求めるなど切実さを鮮明に示していたが、事件を防ぐことはできなかった。現実は、家族や本人の受け皿が十分でなく、あるいは困難な状況で放置され、適切な支援につながりにくい実態を示している。社会的に孤立せざるをえない高齢家族(8050問題)の深刻さを映した事件と言える。
引きこもり支援は、制度と制度の狭間に置かれがちである。行政の縦割り構造をなくし、部署を超えた多機関で情報共有して、密な連携が取れる仕組みをそれぞれの地域につくることが喫緊の課題である。引きこもる本人や家族の心情に寄り添える相談スタッフの育成も重要だ。
(引用元:全国引きこもり家族会連合会「川崎市殺傷事件についての声明文」)
中高年引きこもりの
全国推計を「61.3万人」と発表
厚生労働省は「引きこもり」を「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅に引きこもっている状態」と定義しています。
内閣府は今年(2019年)3月、満40歳から満64歳までの中高年層で「引きこもり」状態にある人の全国推計数が61.3万人になるとの調査結果(「生活状況に関する調査平成30年度」報告書)を公表しています。
この数は、5,000人の対象者の中から「引きこもり」の定義に該当する人が47人発見されたことから、この数字を基に40~64歳人口が4,235万人であることから相当数を概算して「61.3万人」という全国推計値をはじき出したものです。
メディアではこの推計値が独り歩きし、「そんなにいるの!!」と驚きをもって受け止める人が少なくないようです。しかし、これはあくまで推計値であることに注意が必要でしょう。
本調査は、「引きこもり」の内訳(全国推計数)も併せ公表しています。
- 普段は家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する――24.8万人
- 普段は家にいるが、近所のコンビニなどには出掛ける――27.4万人
- 自室からは出るが、家からは出ない――6.5万人
- 自室からほとんど出ない――2.6万人
行政の引きこもり支援は、多くの自治体が、これまではおよそ35歳、あるいは39歳までを対象にしてきました。
しかし、こうした調査結果や今回の殺傷事件を受け、支援対象年齢を「35歳以上」や「39歳以上」に広げる自治体がボツボツ出始めているようです。
引きこもりの解消ではなく
家族の社会的孤立を防ぐかかわりを
長年にわたり引きこもる当事者への支援活動を続けている愛知教育大学大学院准教授の川北稔さんは、引きこもりだからといって、引きこもっていること自体を問題視するだけでは、当事者は自分の存在や人格を否定されているように感じて身構えてしまうことが多く、引きこもりの解消にはつながりにくい、と注意を促しています。
引きこもり問題の解決を最初から目指すのではなく、家族のなかにある介護ニーズをはじめ、経済面の問題や日々の食事に関する課題等々、日常的な多分野にわたる支援ニーズの一つひとつに多職種で連携しながら取り組んでいくことが引きこもり問題解決の糸口になるのではないか、と――。
(参考資料:讀賣新聞オンライン2018年5月17日)
退院支援や訪問活動のなかでかかわりの糸口を
そう考えると、退院支援において高齢患者と退院先となる自宅での生活や介護者について話し合っていくこと、あるいは訪問活動を続けるなかで高齢者家族が社会的に孤立しないようにかかわっていくことそのこと自体が、8050問題と中高年層の引きこもりを深刻化させない支援の第一歩につながると思うのですがいかがでしょうか。
その際には、地域にあるさまざまな支援ネットワークを活用すべきことは言うまでもありません。
その一つにあげられるのが、先に紹介した全国引きこもり家族会連合会の相談活動です。
引きこもりに詳しい臨床心理士らでつくる一般社団法人「OSDよりそいネットワーク」(コチラ)も相談を受け付けています。
また、国の「引きこもり対策推進事業」による補助のもとに設置されている「引きこもり地域支援センター」もあります。その、2022年4月1日現在のリストはコチラ。
自治体によっては、このリストにある以外に、引きこもりの人に対応するための窓口を設置しているところもあります。詳しくは最寄りの地域包括支援センターや社会福祉協議会などに問い合わせてみるといいでしょう。
*内閣府資料「生活状況に関する調査平成30年度」報告書はこちらからダウンロードできます。https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html