「透析終了の意思は明らか」とする見解を公表




同意する

患者の透析終了の意思が
尊重されてよい事案と判断

今年3月に東京都の公立病院で起きた、いわゆる「透析中止」問題のその後です。

日本透析医学会は5月31日、新聞報道を受けて直ちに設置した調査委員会、および倫理委員会における検討結果を「日本透析医学会ステートメント」として発表しています(ステートメントの全文は同医学会ウエブサイト*¹に掲載されています)。

ステートメントでは、「透析を中止して患者が死亡したのは問題だ」として大きく報道された44歳の女性の透析継続の終了(以下「透析終了」)について、以下の見解を表明しています。
⑴ この女性が血液透析を継続するのは、臨床的に困難な状況と推測される
⑵ 自ら血液透析終了の意思を表明しており、その意思が尊重されてよい事案であると判断した

加えてこの女性の主治医らは、患者の生命維持のために他の腎代替療法*なども検討したが、「患者の血液透析終了の意思は堅く、透析終了の真摯な意思は明らかであった」としています。
*腎代替療法とは、腎臓に成り代わり老廃物や余分な水分を排泄する治療のこと。血液透析以外の腎代替療法としては腎移植、腹膜透析がある。

透析非導入・中止の23例は
患者もしくは家族の意思

また、先の一連の報道では、この女性以外にも、当該病院において2013年4月から2019年2月までの間に発生した末期腎不全患者の透析非導入事例19例、および一度は透析を導入しながら透析終了に至った4例の計23例についても、「問題だ」と指摘しています。

指摘を受けたこれら23例についても、医学的・倫理的妥当性を検証したとして、その結果を次のように発表しています。
⑴ 何らかの腎代替療法が必要な腎不全状態で行われた透析非導入や透析終了は、いずれの症例も主治医から持ちかけられたものでなく、患者本人もしくは家族の意思によるものであった
⑵ 透析非導入に至った経緯については、臨床的・倫理的に日常診療から大きく逸脱するものではなかったと考えられる

なお、「透析を中止したのは問題である」とする報道と関連機関等による対応の詳細についてはこちらの記事にまとめてありますので参照してください。

医師から透析治療をやめる選択肢を提示された患者が透析を中止し、約1週間後に死亡したことが報じられ、関心が高まっている。医師の行為が「非倫理的だ」との声が上がっているのだが、ACPの取り組みが進むなか、看護師のあなたの正直な思いは……。

透析終了が妥当だったと判断された
臨床的な理由と課題

今回発表されたステートメントをさらに詳しく見てみると、44歳女性の透析終了が妥当であったと判断した理由に挙げられている「血液透析を継続するのは臨床的に困難な状況」と推測した理由として、以下の点を挙げています。
⑴ 重篤な心・血管系合併症を有していること
⑵ (血管の狭窄や閉塞による)内シャント不全を繰り返していること
⑶ カテーテルを用いた血液透析を希望していないこと

このうち⑶のカテーテルを用いた血液透析を希望していないと推測した根拠として、この女性が血液透析時に、「透析バスキュラーアクセス」*が閉塞していて、患者側の透析ルートが絶たれているものの再建のめどが立たず、代替となるカテーテルを挿入して行う透析を明らかに拒否していたことを挙げています。
*自己血管内で動脈と静脈をつないだ、いわゆるシャントのこと

透析終了後の緩和ケアなどについてACPを

以上の理由からステートメントは、44歳女性の一途とも思える意思を尊重した透析終了は妥当なものであった、としているわけです。
一方で、女性は透析終了から死亡に至るまでの間、重篤な呼吸困難を伴っていたことに言及し、血液透析療法終了後の緩和ケア体制の構築も重要な課題であったと指摘しています。

そのうえで、次の2点を今後の課題として付記しています。
⑴ 透析終了は苦痛を伴い死亡に至る可能性があるため十分な体制のもと、慎重な検討を行うこと
⑵ 透析終了後も医療チームと患者・家族間で人生会議(ACP;アドバンス・ケア・プランニング)や緩和ケアプランについて十分な話し合いが行われる必要がある

透析療法を選択しない患者への
インフォームドコンセントに言及

透析療法を選択しなかった「透析非導入」の19例は、透析終了の4例とともに、インフォームドコンセントが多職種で構成された医療従事者チームと患者・家族間で複数回実施されていたことが、カルテ記載などから確認されており、「適切に行われていた」としています。

そのうえで非導入の19例については、「医療従事者側からの具体的な説明内容がどのような内容であったのかがわからないため、今後は、この点についてもできるだけ詳細に記載するのが望ましい」とする課題を提示しています。

その理由としてステートメントは、「透析療法を受けた経験がなく、透析医療に悲観的な先入観をもつ患者や家族が透析療法を選択しない意向を示しているような場合に行うインフォームドコンセントにおいては、医療従事者側からの具体的な説明内容が患者の最終意思決定に大きな影響を与える可能性がある」ことを指摘。
「透析非導入がもたらす患者にとっての利益・不利益を公平かつバランスよく、慎重に説明するのが望ましい」としています。

さらに今後へ向けて医療従事者は、インフォームドコンセントで伝えたこと、それに対する患者側の反応などを診療録にどのように工夫して記録していくか、十分に議論していくべきであると、課題を提示しています。

透析の開始と継続に関する
意思決定プロセスの見直しに着手

今回発表したステートメントについて日本透析医学会は、その冒頭で、当学会の立ち位置を「学術研究団体であり、捜査機関でも裁定機関でもない」と明記。したがって、今回発表した検討結果は、今回の事例について「善悪」を判断するものでもなければ、事実を最終的に認定したり、事実に対する法的責任を認定する権限も資格もないとし、「あくまでも今後のより良い医療に向けた方向性を明確にすること」を意図するものであることを強調しています。

また、今回の調査・検討を重ねるなかで、2014年に当学会が公表している「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」に、現在の医療状況にそぐわない点があることを認識していることにも言及。

そこで、当学会の岡田一義理事を委員長とする「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会」を新たに立ち上げ、新たな提言を今年度中(2020年3月末)に作成する予定であることを明らかにしています。

参考資料
*¹日本透析医学会ウエブサイト(https://www.jsdt.or.jp/info/2565.html