加熱式タバコに切り替えたが
健康リスクを知り禁煙を決意
従来の、紫煙(しえん)の出るタバコに比べたら健康リスクは低いだろう――。
そんな勝手な思い込みから、1年ほど前から新型タバコの一つ、加熱式タバコに切り替えて喫煙を続けていた看護師の友人が、新たに禁煙を決意しました。
彼女はこれまでにも、何度か禁煙に挑戦しては失敗するという経験をしています。それだけに、「今度こそ絶対に……」と固く心に決めています。
この決意のきっかけとなったのが、「新型タバコの真実」という講演会への参加でした。
この講演会で、彼女は「紙巻きタバコと比べれば低い値ではあっても、同じ有害物質が含まれていることには変わりがない」ことを知り、禁煙を決意したそうです。
禁煙を決意した友人は、これまでの3度にわたる禁煙挫折経験を振り返り、自力だけではまた頓挫してしまうだろうからと、「禁煙外来で医療のサポートを受けながら確実に禁煙する」ことに決めたと連絡をくれました。
禁煙治療を医療保険で受けるには
満たすべき条件がある
幸いなことに、最近は公的医療保険で禁煙治療が受けられるようになっています。
ところが、彼女はいきなり壁にぶち当たりました。医療保険による禁煙治療には、下記に示す一定の条件を満たす必要があるからです。
この条件を満たさないかぎり、保険を使って医療機関で禁煙治療を受けることができないのですが、加熱式タバコを吸ってきた彼女の場合、引っかかる条件があるのです。
禁煙治療を受けることができる人
以下に示す3条件のすべてに該当し、担当医がニコチン依存症の管理が必要であると認めた場合にかぎり、12週間に5回行われる禁煙治療に医療保険の「ニコチン依存症管理料」が適用されることになっています*¹。
- 「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」の得点が5点以上で、ニコチン依存症と診断された人
- 35歳以上なら、ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の人
- 直ちに禁煙することを希望し、「禁煙治療のための標準手順書」(日本循環器学会、日本肺がん学会、日本癌学会および日本呼吸器学会により作成)に則った禁煙治療について説明を受けたうえで、当該治療を受けることを文書により同意している人
ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)
このうち条件1の「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」は、以下の10項目の質問に「はい(1点)」「いいえ(0点)」で答えていき、合計得点(TDSスコア)が5点以上であればニコチン依存症と診断されるというものです。
質問に対する答えがいずれにも該当しない場合は、0点としてカウントされます。
- 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまったことがありましたか
- 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか
- 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか
- 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重の増加)
- 上記の質問でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか
- 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか
- タバコのために健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか
- タバコのために自分に精神的問題(いわゆる禁断症状ではなく、喫煙することによって神経質になったり不安や抑うつなどの症状が出ている状態)が起きているとわかっていても、また吸うことがありましたか
- 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか
- タバコが吸えないような仕事やつきあいは避けることが何度かありましたか
喫煙による健康リスクを示す
ブリンクマン指数
加熱式タバコを吸っていた彼女の場合、医療保険で禁煙治療を受ける際にひっかかるのは、条件2にあるブリンクマン指数です。
ブリンクマン指数とは、喫煙がからだに与える影響を調べるための喫煙指数で、「1日に吸うたばこの平均本数×喫煙していた年数」の数式で割り出されます。
タバコには、ニコチン、一酸化炭素、タールなど、発がん物質を含む有害物質が200種類以上も含まれています。ブリンクマン指数が高くなるほど、この有害物質による健康リスクは高くなると考えられています。
タバコの種類が違えば、有害物質の含有量も微妙に違ってきます。
またタバコの吸い方によっても、1本の喫煙がからだに与える影響も異なります。
したがって、ブリンクマン指数だけで健康リスクを正確に把握することはできませんが、一般に、ブリンクマン指数が400を超えると肺がんの発症リスクが高くなり、600を超えると肺がんに加え肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)、1200を超えるとさらに喉頭がんの発症リスクも高くなると考えられています。
加熱式タバコ喫煙者の
ブリンクマン指数の割り出し方
禁煙治療が保険適用になる条件の一つとして、このブリンクマン指数が200以上であることがあげられています。
彼女の場合、約1年前に紙巻きたばこから加熱式タバコの「ICOS(アイコス)」に切り替えているため、この指数を計算する段階で、ちょっと迷ったそうです。
というのは、彼女がICOSに切り替えたのは、紙巻きタバコより「有害物質を約90%低減」といったキャッチコピーに魅かれたからでした。
「当然ブリクマン指数の割り出し方も違ってくるのではないか」と考えた彼女は、担当医にその旨、疑問をぶつけてみたのだそうです。
しかし、担当医から帰ってきた答えは、「そのキャッチコピーは売る側の話ですからね」とそっけないもので、「(切り替えるまで吸っていた紙巻きたばこ:ブランド名)を1日平均何本×吸っていた年数から、アイコスを1日平均何本×1年にスイッチ」と書くようにアドバイスされたそうです。
同じ加熱式タバコでも「Ploom TECH(プルームテック)」の場合は、カートリッジの本数を書くこと、また、紙巻きたばこから加熱式タバコに完全に切り替えていない場合は、両者を併用している旨明記する必要があるようです。
禁煙宣言書にサインして禁煙治療をスタート
彼女のブリンクマン指数がいくつだったのか、正確には教えてくれませんでしたが、いずれにしても200を軽く超えていたのは確かなようです。
担当医から、喫煙の害と、これから行われる禁煙治療の手順について大まかな説明を受けたあと、用意された「禁煙宣言書」にサインをし、いよいよ禁煙治療がスタートしたようです。
この治療の経緯については、彼女から報告があり次第、随時お伝えします。
どうか、今回こそ「4度目の正直」で禁煙に成功することを祈りつつ、うれしい連絡を待ちたいと思います。
なお、禁煙治療に医療保険が使える禁煙外来・禁煙クリニックはコチラをご覧ください。
①公的医療保険を使った禁煙治療では、12週間で5回必要な診療のうち、初回と最終回は通院による対面での診療が必要だが、2~4回目の診療はスマートフォンなどによるオンラインでも受診できるようになる。
⓶また、禁煙治療の継続を支援する意図から、初回から5回までの医療費を最初に一括して支払うと、診療の都度支払うよりも安くなる仕組みも導入される。
なお、禁煙治療の指針となっている「標準手引き書」は、2020年4月に6年ぶりの改訂が行われています。そこでは、加熱式タバコ喫煙者のブリンクマン指数算定法も紹介されています。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。
参考資料*¹:「禁煙治療のための標準手順書 第6版,2014)
http://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std/pdf/anti_smoke_std_rev6.pdf