冬場は空気が乾燥して
感染リスクが高まる
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による医療機関内におけるクラスター(感染者集団)、つまり院内感染の発生事例を分析した結果から、スタッフ用の休憩室や仮眠室が感染拡大の主な要因の1つになっていることが指摘されています。
医療機関のなかには、空気の流通がよくて広々とした、感染対策上理想的な休憩室や仮眠室が用意されているところもあるでしょう。
しかし、休憩室も仮眠室もその多くは、大体がスタッフ同士のフィジカルディスタンス(身体的距離)を確保しにくく、窓が片側にしかないか、あっても1つしかないため換気がしにくい、といった3密(密閉、密集、密接)環境にあるのではないでしょうか。
このような感染拡大のリスクが高い環境になりがちなスタッフ用休憩室や仮眠室の換気をより効果的に行い、院内感染のクラスターを防ぐ方法については、先に紹介しました。
加えて、空気が乾燥するこれからのシーズンは、室内の換気と同時に加湿が新型コロナウイルス感染対策の鍵となることを、理化学研究所などの研究チームが指摘しています。
今日はこの、冬場の加湿と換気について書いてみたいと思います。
スパコンによる飛沫拡散実験で
新型コロナの感染対策探る
理化学研究所や神戸大学などの研究チームは、高精度な解析能力を誇るスーパーコンピュータ―、通称スパコン「富岳(ふがく)」を使い、飛沫の拡散状況についてシミュレーション実験を行い、新型コロナウイルスのより効果的な感染対策を探る研究を続けています。
これまでに、このスパコンによるシミュレーション実験により、フェイスシールドだけでは、飛沫の約半分が顔とフェイスシールドの隙間から漏れてしまい、不織布マスクの代わりにはならないことが確認されています。
また、布マスクは不織布マスクより目が粗いために空気を通しやすく、その目の粗い分だけ透過して出ていく飛沫の量が多いことなども、この実験で明らかにされています。
室内の湿度が低いと
飛沫のエアロゾル化が進む
今回の実験では、室内の湿度の観点から効果的な感染対策を探ろうと、オフィス内を想定し、1.8メートルの間隔で身体的距離を保ちつつ、対面、つまり向かい合って座っている人に、一方が咳をした場合にかかる飛沫の数をシミュレーションしています。
その結果、室内の湿度が30%まで乾燥すると、口から飛び出た飛沫は急速に乾いてエアロゾル(微細な粒子)になる量が増え、そのエアロゾルが霧状になって空気中に広がりやすくなり、飛沫全体の約6%が対面する人にかかることがわかりました。
一方で、湿度を60%と90%にすると、いずれの場合も、対面の人にかかる飛沫が全体の2%前後まで抑えられることが確認されています。
これらの結果から、研究チームは、部屋を加湿すると飛沫の空気中への拡散にブレーキがかかり、新型コロナウイルスの飛沫感染防止に役立つことが裏づけられたとしています。
加湿器を使用して
湿度は40%以上を保つ
ただし、だからといってただ加湿すればいいという話ではないようです。
このシミュレーション実験では、90%前後の高湿度にした環境下では、乾燥して空中に拡散しやすいエアロゾルが減る分、床や机などにすぐに落下する粒の大きな飛沫が、湿度60%のときに比べ2倍以上になることが確認されています。
この場合、ウイルスを含む飛沫が落ちた場所に直に触れるなどして起こる「接触感染」のリスクがより高まることが想定されます。
この点を踏まえ、研究チームは、
「加湿器などを使って40%以上、できれば60%を目安に室内の湿度を維持すると同時に、空気中を漂うエアロゾルを希釈する(薄める)ためには定期的に換気することも重要だ」
と指摘しています。
この際使用する加湿器については、タンク内の水が原因でレジオネラ属菌による感染症、レジオネラレジオネラ症を発症するリスクがあります。
このリスクが高いのは、加熱しない常温の水を使うタイプの加湿器です。
たとえば「超音波式加湿器」や「気化式加湿器」は、毎日の水換えや定期的な手入れをお忘れなく。
手指の衛生等、接触感染対策の励行も
さらに、室内を加湿した場合は、飛沫が落下した場所に付着している可能性を踏まえ、手が触れる場所を消毒用アルコールで拭いたり、こまめにアルコール消毒、あるいは石けんと流水で手洗いをして手指の衛生を保つといった感染対策の基本を励行すること大切だとしています。
ちなみに、新型コロナウイルスはヒトの皮膚表面上で、インフルエンザウイルスの約5倍長い9時間程度生存することを、京都府立医大の研究チームが指摘しています。
一方で、市販されている80%濃度のエタノールで15秒間手指を消毒する(手指に擦り込ませる)と、皮膚表面上の新型コロナウイルスが感染力を完全に失うことも確認されています。
温めた空気を逃さずに
室内を換気する方法は
コロナ対策としての室内の換気方法については、スパコン「富岳」を使った研究により、
⑴ 定期的(30分間に1回、数分間以上全開放)に窓を開けて外気を取り入れると同時に、
⑵ 対面の廊下側、または玄関側のドアも開放して通気をよくし、室内の空気を入れ替える
ことが、効率的な換気方法であるとしています。
この場合、窓を開けると同時にエアコンや扇風機などを稼働させて室内の空気を循環させると、より換気が進み、空気が清浄化されやすいことがわかっています。
ただし、これからの冬場は、換気のために窓を開放して冷たい外気を定期的に取り入れていたら、せっかく暖房して温めた室内が寒くなり、体が冷えて風邪をひいてしまうといったことにもなりかねませんから、つい換気を省略してしまいがちです。
換気扇の活用と常時窓を少し開けておく
そこで、たとえば2段階で換気をするというのはどうでしょうか。
休憩室や仮眠室の窓ではなく、隣り合わせた部屋や廊下の窓を開放して外気を取り入れ、その清浄化された空気を循環させることで、温かさを残しつつ換気を図る方法です。
その際には、近くに設置されている換気扇や扇風機、あるいはサーキュレーター(モーター音が静かなもの)を常に回しておけば、空気が循環して換気効率を高める効果が期待できます。
30分に1回窓を全開するのではなく、窓を常時2~3㎝だけ開けておくのもいいようです。
その際には、窓側に暖房器具を置いて室内の空気を循環させるようにすれば、温かい空気を逃さずに換気できます。
休憩室や仮眠室の状況に合わせて工夫してみることをおすすめします。