風疹の流行が深刻化
気になる成人男性の罹患
風疹(ふうしん)という感染症をご存知でしょうか。
一般には「三日はしか」あるいは「三日ばしか」としても知られる感染症で、昔は子どものかかる病気でした。
ところが最近は成人、それも男性が罹患する例が多く、気の抜けない状況となっています。
国立感染症研究所は7月30日(2019年)、今年に入り報告された全国の風疹患者数が2004人になったと発表しています。
昨年夏の流行以来、首都圏を中心に減る気配がなく、このままのペースで増え続けると、今年の患者数が昨年の2917人を上回るとして、厚生労働省が注意を呼び掛けています。
風疹に伴う最大の問題は、妊娠初期(20週頃まで)の女性が感染すると、胎児に感染が及ぶ危険があり、出生後に約50%の確率で低体重や難聴、さらには心臓の発達に障害が生じる「先天性風疹症候群」を発症するリスクがあることです。
このリスクには、このところの風疹患者が、過去に予防接種を受ける機会がなかった40~50代の働き盛りの男性に圧倒的に多いことも影響くるのですが……。
今回はその辺の話を中心に書いてみたいと思います。
風疹含有ワクチンの接種歴が
「ない」成人男性が多い
国立感染症研究所によると、7月15日~21日(2019年)の1週間に22人の風疹患者が新たに報告されています。
これにより、都道府県別の累計患者数は東京都が736人で最も多く、次いで神奈川県246人、千葉県176人、埼玉県173人、大阪府120人、福岡県82人と続き、首都圏や大都市圏で目立って多くなっています。
このデータを見て気になるのは、全風疹患者の約8割を男性が占めていることです。
とりわけ成人男性患者の多くが風疹を含むワクチンの接種歴について、「不明」や「なし」、あるいは接種していても「1回だけ」と答えていることは、流行を深刻化させる要因として注視すべきでしょう。
このような事態を招いている理由は、わが国の予防接種制度にあります。
まずは女児のみ集団接種、17年後に個人接種で男児も
風疹の予防には、法律に基づいて市区町村が主体となり、風疹含有ワクチン(2006年度からは「麻疹風疹混合(MR)ワクチン」)の接種が実施されてきました。
このワクチンの接種が、女児は昭和37(1962)年度生まれから、男児は昭和54(1979)年度生まれからと、時間差で始まっています。
そのうえ男女とも接種することになった昭和54(1979)年度からは、学校での集団接種ではなく、任意での個別接種と、制度が変更になっています。
つまり保護者同伴で医療機関を受診して予防接種を受ける制度に変わったわけですが、このことにより、一時期接種率が男女とも大幅に低下しています。
これに慌てた国は、現行の定期予防接種に切り替えました。
しかし、この制度の変遷の影響を大きく受けた特に40~50代の成人男性において、ワクチンの接種歴が「わからない」「ない」あるいは「1回だけ」という人が多くなっているのです。
風疹含有ワクチンは2回の接種で、風疹を約99%予防できるとされている。
第1期(1回目)は1歳代で、第2期(2回目)は小学校就学前の1年間(5~7歳未満)に受けることがすすめられている。この定期接種は一部の市区町村を除き公費(無料)で受けることができる。
この定期接種以外に任意に接種することもできるが、その場合は自己負担となる。
ワクチン接種歴に疑いがあれば
妊娠前に風疹含有ワクチン接種を
国立感染症研究所のサイトによれば、風疹は、患者の上気道粘膜より排泄される風疹ウイルスが飛沫感染により咳やくしゃみ、会話などから容易に感染します。
感染すると、2~3週間の潜伏期間の後、発疹や発熱、目の充血、リンパ節の腫脹、関節痛などを自覚するようになります。
ごくまれにですが、脳炎や血小板減少性紫斑病のような重篤な合併症を併発することがあり、この場合は入院治療が必要となります。
しかし通常は、風疹ウイルスに効く薬はないため、解熱薬や消炎鎮痛薬で症状を和らげ、適度な栄養を摂りながら安静にしていれば1週間もすれば回復するようです。
15~30%は症状が現れない「不顕性感染」
ただし気になるのは、感染しても症状が現れない「不顕性感染」の人が15~30%いることです。このような人から妊娠20週頃までの妊婦が感染すると事態は深刻です。
母親から胎児に感染して流産、早産のリスクが高まるうえに、出生後に先に記したように「先天性風疹症候群」になるおそれがあるからです。
成人の風疹予防には風疹含有ワクチンの任意接種が有効です。
しかし妊娠中は接種できませんから、接種していたかどうかに多少でも疑いがある場合は、妊娠となる前、遅くとも2か月前までに予防接種を受けておけば安心です。
厚労省が39~56歳男性に
風疹の抗体検査とワクチン接種
成人男性の風疹患者には、職場で同僚に感染させるリスクがあります。
加えて、その職場で感染を受けた男性が、感染している自覚のないまま、帰宅後に妻に感染させ、その妻が妊娠して胎児に感染させるといった事態も起こり得ます。
成人男性でワクチンの接種歴があいまいな方は、ワクチンや過去の感染で抗体ができているかどうか、つまり免疫の有無を血液検査で確認しておくことをおすすめします。
特に定期接種の機会がなかった昭和37(1962)年4月2日~54(1979)年4月1日生まれ、つまり平成30(2018)年12月の時点で39歳から56歳の男性に対して厚生労働省は、風疹の感染拡大防止のため、2019年から2021年までの3年間、追加対策として、抗体検査やワクチン接種を無料で受けられるクーポン券を配布して活用を呼び掛けています。
抗体検査は勤務先の健康診断でも受けられる
この抗体検査を行っている医療機関(診療所など)は、厚生労働省のサイト(コチラ)で紹介しています。
医療機関によって受付曜日や時間が決まっているところがありますから、事前に問い合わせてから受診することをおすすめします。
このクーポン券による抗体検査は、勤務先の健康診断の際にも受けられる場合があります。
また人間ドッグの際にも受けられる場合があります。
いずれの場合も、担当者に確認してみてください。
抗体検査の結果は、風疹への免疫がなかった(十分な抗体がなかった)方は、先のリストの医療機関などで予防接種を受けることになります。
なお、麻疹に関してはこちらの記事を参照してください。