遠隔での死亡診断が全国で1例も実施されず?




スマートフォン

国が始めた遠隔死亡診断が
未だ1例も行われていない

ちょうど1週間前の11月9日(2019年)のことでした。
目覚めてすぐ目に飛び込んできたNHKのニュースは、にわかには信じがたいものでした。

人生の最期を暮らし慣れた場所で過ごし、そのまま穏やかな死を迎えるための環境整備の一環として、国は2016年7月、看護師の補助のもと、医師が遠隔で死後診察を行い、死亡診断書を交付できるとする方針を打ち出しました。

これを受け、厚生労働省は2017年9月、そのための「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を策定しています。

本ガイドラインには、医師の死亡診断を補助する看護師を、「法医学等に関する一定の教育を受けた看護師」と規定。この条件を充たすための研修も行われ、数多くの看護師が法医学的な机上研修に加え、死体検索や解剖等の実地研修も修了していると聞きます。

遠隔死亡診断のための準備は着々と進んでおり、おそらく数としてはそう多くはないものの、すでに何例かは行われているものと、勝手に思い込んでいたのですが……。
早朝のそのニュースは、「国が始めた遠隔死亡診断が、全国で1例も実施されていないことがわかった」と報じていたのです。

遠隔死亡診断が目指すのは
「在宅での穏やかな看取り」だが

人生の最期は、長年暮らしてきた我が家で、家族や親しい人に見守られて心静かに迎えたいと希望する人は年々増加しています。
一方の送る側の家族の多くも、在宅での穏やかな看取りを望んでいます。

しかし、その看取りの場に、唯一死亡診察のもとに死亡診断書の交付が認められている医師が立ち会えないケースが少なからずあります。

場合によっては、死亡する直前に慌てて患者を病院に搬送することもあれば、患者が亡くなったものの医師が交付すべき死亡診断書がないからと異状死扱いとなり、警察が介入してくるといったことにもなりかねません。

このような「穏やかな最期」とはかけ離れた状況をできるだけ減らそうと考え出されたのが、テレビ電話やタブレット端末など、技術開発が急ピッチで進む情報通信機器を活用して遠隔で死亡診断を行うことだったはずです。

在宅死を望む人は圧倒的に多いものの、希望がかなう人は一部に限られ、いよいよとなって病院へというケースが多い。理由の一つに死亡確認する訪問医の絶対的な不足がある。この問題を解決しようと、看護師が代行できるシステムの整備が始まっている。

ところが、策定されたガイドラインを手にした在宅医療の現場で働く医師や看護師からは、「遠隔での死亡診断を行うための要件があまりに厳しすぎる」との声が多くあがっていることは耳にしていました。

実際のところ、遠隔での死亡診断を補助する看護師に求められる研修を受講し終えた訪問看護師さんから、「患者さんがすでに亡くなっているとは言え、ご遺体をくまなくチェックし、リアルタイムでその画像を送信するといったことに、身内を亡くされて悲嘆に暮れている遺族の理解を得るのは言うほど簡単なことではない」といった、少々否定的な感想を聞いていました。

それだけに、今のように実施要件が厳しいままのガイドラインでは、遠隔での死亡診断はあまり普及しないのではないかと考えてはいたのですが、「全国で1例も実施されていない」との報には、さすが驚ろかされました。

ガイドラインが定める
遠隔による死亡診断を行う際の要件

医師が看護師の補助を得て、ICTを利用した遠隔での死亡診断を行う要件として、厚生労働省が策定した「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」では、第2章において、以下に示す5要件のすべてを満たす必要があるとしています。

  1. 医師による直接対面での診察の経過から早晩死亡することが予測されていること
  2. 終末期の際の対応について事前の取決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携がとれており、患者や家族の同意があること
  3. 医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること
  4. 法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること
  5. 看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること

これらの要件のなかで、在宅医サイドから「この要件を満たすのは厳しい」との指摘が最も多いのは、「3」の要件にある「医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況」として、医師が患者のもとに到着して死亡診断を行うのに12時間以上かかる場合に限っている点です。

すぐに患者のもとに駆けつけることができず遠隔での死亡診断が必要になるケースが多いのは、過疎地や離島など、もともと医師の数が少ない地域です。
この点を考えると「12時間以上」という要件を満たすのは簡単なことではなく、遠隔死亡診断がいまだ行われていない原因の一つとなっているのだろうと推察します。

看護師が最も抵抗を感じる
遺族の前での遺体チェックと撮影

一方で、遠隔での死亡診断を補助する立場にある看護師に求められている要件の「4」にある「法医学等に関する一定の教育」の内容を見ると、法医学等に関する講義に加え、2体以上の死体検案または解剖に立ち合うなどの実地研修、さらには死亡前から死亡後に至る患者・家族との、意思決定支援を含むコミュニケーションに関する講義や演習などもあり、かなり厳しいものになっています。

しかし、実際に遠隔死亡診断の実施に向けて準備を進めている訪問看護師さんによれば、研修内容の厳しさ以上に抵抗を感じるのは、看取りという本来厳かであるべき状況史下で、異状死の可能性をも念頭におきつつご遺体を決められた手順でくまなくチェックしなければならないことだと言います。

さらに、医師に情報提供するためには、ご遺体の状況を逐一撮影し、テレビ電話やスマートフォンなどを通じて、撮影した映像を送信することも求められるわけですが、その撮影自体に遺族の理解が得られるかどうか不安だと話してくれました。

いずれにしても厚生労働省は、本ガイドラインを策定した時点で、遠隔での死亡診断の需要がどの程度あるのかも含め、実施状況を検証し、現場の医師や看護師らの声も聞いたうえで、ガイドラインの見直しを行うとしていますから、その際には、また報告させていただきます。

なお、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000527813.pdf

遠隔での死亡診断補助については、こちらの記事も参考にしてみてください。

暮らし慣れた場所での死を望む声は多い。しかしその実現を難しくする要因の一つに、在宅において対面で死亡診断できる医師の絶対的不足がある。この解決策として、情報通信機器を介した遠隔での死亡診断が可能になり、看護に新たな役割が求められている。