大阪府知事の会見を機に
うがい薬の買い占め始まる
「ほんの数か月前に経験したトイレットペーパー騒動のように、今度はヨード系うがい薬の買い占めが始まっているらしいですよ」
――こんなメールが友人から届いたのは昨夕(8月4日)のこと。
何事かと調べてみたところ、大阪府の吉村洋文知事がこの日の記者会見で、次のような主旨の発表をしたことがきっかけとなったようです。
「ポビドンヨード(商品名:イソジン)のうがい薬でうがいをすると、唾液中の新型コロナウイルスの量が減少し、他人にうつしにくくなる可能性がある」
さらに、この件を取り上げたニュース報道のなかには、ポビドンヨードによるうがいには
「重症化を防ぐ効果も期待できる」とする知事の発言があったと伝えるものもありました。
これはちょっと問題だと、とっさに思いました。
そう考える理由は何点かあります。
その辺のことを、先に新型コロナウイルスの感染予防に「うがい」は?として情報を発信した者の責任として書いてみたいと思います。
うがいをしたグループの
唾液による検査陽性率が低下
吉村知事がこの日の記者会見で発表した内容は、大阪府と大阪府立病院機構「大阪はびきの医療センター」の次世代創業創生センター(松山晃文センター長)が共同で続けている研究の、いわば中間報告だったようです。
この研究では、大阪府内の新型コロナウイルス宿泊療養所で療養中の、新型コロナウイルス陽性の軽症患者41人を対象に、殺菌効果のある「ポビドンヨード」を含んだうがい薬で、1日4回うがいするグループと、うがいをしないグループとに分けて4日間調査しています。
4日目の時点で、うがいをしなかったグループの唾液検体によるPCR検査の陽性率が40.0%だったのに対し、うがいをしたグループの陽性率は9.5%で、うがいによる検査陽性率の低下を確認することができたとしています。
大阪府民にうがいの励行を呼びかける
この研究結果について吉村知事は、最終的な結論を出すにはさらなる検証が必要であり、なおかつ同センターの倫理委員会による審査、承認を得る必要もあると説明。
そのうえで、「ポビドンヨードによるうがいをすることにより、新型コロナウイルスの陽性者が減っていくのではないかとすら思っている」と語ったそうです。
さらに、軽症の段階にある感染患者が中等症や、重症へと進行するのを防ぐこと、および市中感染を抑えるためとして、大阪府民、とりわけ
①発熱など風邪のような症状のある人やその家族、
②接待を伴う飲食店の従業員、
③医療従事者や介護従事者
等に対し、うがいを励行するよう呼びかけています。
PCR検査で陰性になることと
重症化阻止とは別の話
さて、吉村大阪府知事の会見により、今や全国の薬局やドラッグストアから姿を消しつつあるポビドンヨード(イソジン)のうがい薬ですが……。
このポビドンヨードによるうがいについては、水のみでうがいをするほどの風邪予防効果は確認できなかった、とする研究結果が報告されていることは先に紹介しました(コチラ)。
とは言え、ポビドンヨードに、感染症の原因となるウイルスや細菌等に対する強力な殺菌、消毒作用があることは、外皮用殺菌消毒剤のポビドンヨードを、手術部位や創傷部位の皮膚や粘膜などの消毒に常時使用しておられるでしょうから重々ご承知のことと思います。
ですから、ポビドンヨードを主成分とする、たとえば「イソジンうがい液」のようなうがい薬を使ってうがいをすれば、その殺菌効果により唾液中に潜んでいる新型コロナウイルスをゼロにすることはないとしても、ある程度は叩いてくれるはずです。
その当然の結果として、唾液中の新型コロナウイルスは、数としては一時的に減るでしょう。
その減った時点での唾液を検体にPCR検査を行えば、人によっては陽性反応を示していた人が陰性化するといったことも十分あり得るんだろうと思います。
ただそれは、あくまでも一時的な反応でしかありません。
と言うのは、鼻や口から入り込んだウイルスは、鼻腔内や口腔内にそのままとどまっているわけではないからです。入り込んでから数分という速さで、のどの粘膜や気管支の細胞内に侵入していくと考えられています。
ですから、ここで唾液によるPCR検査が陰性に出たからといって、感染症の進行にブレーキをかけることができるという話にはならないと考えるのですが、いかがでしょうか。
「いいえ、うがい薬の使用で新型コロナウイルスの感染を予防できるという科学的根拠はありません」と回答している*¹。
うがい薬のポビドンヨード成分に
アレルギー反応を起こす人も
ちょっと話が分かりにくくなってしまいましたが、要は、ポビドンヨードを使ったうがいを過信しすぎないことが大切なんだろうと思います。
と同時に、ポビドンヨードが主成分のうがい薬には「禁忌」、つまり使用してはいけない人がいることを、併せてアピールする必要もあろうかと思います。
イソジンうがい薬の添付文書*²には、「使用上の注意」として、有効成分である「ポビドンヨード」によりアレルギー症状を起こしたことがある人は使用しないように、とあります。
また、使用前に医師、薬剤師または登録販売者(薬局やドラッグストアなどで第二類医薬品と第三類医薬品を販売できる専門職)に相談する必要がある人として以下をあげています。
⑴ 薬などによりアレルギー症状を起こしたことがある人
⑵ 口内にひどいただれのある人
⑶ 甲状腺機能障害の診断を受けた人
さらに、使用後に次の症状が現れた場合は副作用の可能性があるため、直ちに使用を中止して医師、薬剤師等に相談するようすすめています。
⑴ 皮膚の発疹、発赤、かゆみ
⑵ 口内の荒れ、しみる、灼熱巻、刺激感
⑶ 吐き気、不快感
まれにアナフラキシーショックと呼ばれる重篤な症状(使用直後の皮膚のかゆみ、蕁麻疹、声のかすれ、のどのかゆみ、息苦しさ、動悸など)が起こることがあることから、その際は、直ちに医師の診察を受けるよう警告しています。
参考資料*¹:WHO神戸センター 公式Twitter
参考資料*²:イソジンうがい薬 添付文書