看護実践能力とフィジカルアセスメント能力




フィジカルアセスメント

「フィジカルアセスメント」が
患者に安心・納得、信頼を

ある集まりで、看護師さんが行うフィジカルアセスメントが話題になりました。
といっても、この集まりは、看護師さんが参加している会合や勉強会ではありません。

健康で自立した生活をしている中高年の方々を中心に、この先も地域で支え合っていこうとの趣旨のもとにボランティアグループを組織する、いわば準備会とでもいうべき集まりです。
集まっているのは、おおむね医療や福祉といったことにはずぶの素人の方々です。

先日、友人に誘われてそこに見学者として参加させていただいたときのことです。
60代と思しき男性が、
「看護師さんと介護士さんって、資格の違いはわかるけど、実際やってもらえることにどんな違いがあるのかよくわからないなぁ」
と発言されました。

これに間髪を入れずに答えたのが、ご自宅で老親を介護しておられるという女性でした。
「たとえば、夜になると呼吸が荒くなって心配だと訪問看護師さんに相談するとね、聴診器を取り出して呼吸音を聴くなどして身体の状態をみたうえで、どうして呼吸が荒くなるのかを、ていねいに説明してくれます。そのうえで、これこれの対処方法が考えられますが、と話が進んでいくのですが、介護士さんはこういうことはできないですよね」

「そうそう」と賛同する声がいくつか挙がるのを聞きながら、
「ああ、フィジカルアセスメントのことを言っているのだな」と思いました。

老親を介護して早や5年になるという先の女性によれば、介護士さんもバイタルサインなどをチェックすることはしているようです。

一方で訪問看護師さんのフィジカルアセスメントは、
「訪問医に負けない手際のよさで、身体の状態をくまなく観察していますから、その後の対応に説得力があって、とても安心できるし、頼りがいがある」と話しているのです。

看護実践能力としてとっさに頭に浮かぶのはコミュニケーション能力ですが、フィジカルアセスメント能力もまた、患者さん側の納得のもとに看護を実践していくうえで欠かせないスキルになっているのだと、改めて実感させられるやりとりでした。

フィジカルアセスメント能力は
根拠に基づく看護実践に欠かせない

それから数日後、たまたま電話で話した病院勤務の看護師さんに、その話をして、フィジカルアセスメントについて聞いてみました。
これに、「実は……」と次のような話をしてくれました。

彼女は、キャリアが3年目に入った頃から、後輩の看護師や実習にやってきた看護学生からさまざまな質問を受けることが多くなってきたそうです。

その際、問われたことに科学的なエビデンス、つまり根拠を示しつつ説明する必要に迫られるわけですが、そのような場面で、「自らのフィジカルアセスメント能力がいまいち未熟であることを実感させられるようになってきた」のだといいます。

そんな折も折、たまたま調べたいことがあって訪れた大学の図書館で『フィジカルアセスメントがみえる』(メディックメディア)という本を見つけ、かつてこの本のことを先輩から聞いていたこともあり、手に取ってパラパラと読んでみたそうです。

読み進めていくと、アセスメントの手順に加え、もろもろの事柄の根拠もきちんと書かれていてわかりやすかったので勉強し直すつもりで、先日購入したばかりだ、と――。

フィジカルアセスメントに関しては、看護関連の多くの月刊誌が定期的に特集を組んでいます。
選択に迷うほど多くの本も出版されています。
彼女もそのなかの2冊ほどをすでに持っていて、折に触れて活用しているそうですが、何か物足りなさを感じていたといいます。

その点この本は、「カラーイラストと写真を惜しみなく使って、自らの五感による全身のみかたの手順がていねいに紹介されているのと、なぜそのような手技でみるといいのかについても、生理・解剖図などを使って詳しく説明してあるから、日々の実践に活用しやすいし、後輩の指導にも使える」とのこと。

スマートフォンやパソコンで呼吸音や心音を聴くことができる付録がついているのと、現場にいる看護師や医師による具体的なアドバイスが随所に盛り込まれているのも魅力で、「学生のうちに買っておけばよかったと思っている」と、彼女は話しています。

フィジカルアセスメント能力と
診療の補助行為

看護師さんに求められるフィジカルアセスメント能力については、「患者が急変した時や重症患者の対応に必要だから」と、バイタルサインレベルのものと理解している看護師さんが依然として多いようですが、これは大きな誤解といっていいでしょう。

今や急性期、慢性期の別なく、また診療科の領域を超えて、フィジカルアセスメントは、すべての看護実践に欠かせないスキルの一つとして定着しているように思います。

しかもそれは看護診断の先にある、一つひとつの看護実践にそのままつながるものとして重要性が増していることを多くの看護師さんは実感しているようです。

その重要性の認識から、医師の診療補助として行うドレーン管理や中心静脈のライン確保など、またエコーやⅩ線、CTなどの画像データを看護に反映したいと思ったときには、同じ「みえるシリーズ」にある研修医向けの『診察と手技がみえる vol.2』(メディックメディア)なども参考にして、根拠のある看護実践に努めていると話してくれた看護師さんもいました。

訪問看護師に求められる
フィジカルアセスメント能力

昨今のように患者の療養の場が病院から地域、在宅へと急速にシフトしている時代にあっては、在宅ケアの現場で、実質的に中心的な医療職としての役割を担っている訪問看護師さんには、かなり高度なフィジカルアセスメントスキルが求められるようになっています。

数年前に訪問看護師さんを取材させていただいた折にも、フィジカルアセスメントのことが話題になったことを思い出します。

そのとき彼女は、病院であれば周りに必ず医師なり看護師がいて、あらゆることを相談しながら対応できるが、在宅ケアの現場では、少なくとも瞬時の対応は自分一人でしなければならない。だから、患者の身体の状態をきちんと読み取ることができるように、フィジカルアセスメントスキルに磨きをかけておく必要があるのだ、と強調していたものです。
⇒『訪問看護のフィジカルアセスメントと急変対応 (Q&Aと事例でわかる訪問看護)

つい先日、この4月からスタートする2018年度の診療報酬と介護報酬同時改定の詳細が発表されました。それを見ると、医療の中心が急性期医療が行われる病院から、長期にわたり慢性期医療を受ける人びとが暮らす在宅へと大きく舵を切ろうとする内容となっています。

情報通信機器を活用した遠隔診療の拡大も盛り込まれており、訪問看護師さんら在宅ケアを担う看護師さんに寄せられる期待もいっそう大きくなるだろうと思われます。

終末期ケアについては、アドバンス・ケア・プランニングの導入も基本方針として盛り込まれていますから、訪問看護師さんのみならず病院勤務の看護師さんにも、期待される役割はますます大きく、それだけにフィジカルアセスメントスキルのいっそうの充実が、看護職の皆さんにとって大きな課題だと思うのですが、いかがでしょうか。

なお、2018年度の診療・介護報酬の同時改定に伴う看護ニーズの高まりについては、こちらの記事で詳しく書いていますので併せて読んでいただけたら嬉しいです。

2018年度の診療報酬改定は介護報酬との同時改訂となり、来る2025年度を強く意識した内容となっている。今まで以上にニーズが増す分野として「看取り」と「認知症医療」がクローズアップされていて、自ずと看護ニーズの高まりを感じさせられる。