「飲んではいけない薬」報道による不安への看護




薬の多い高齢患者

看護師に隠れて
服薬を中止している患者も

先に、先日亡くなられた大橋巨泉さんの「鎮痛剤誤投与」報道に関する記事を書きました。
読んでいただけましたでしょうか。

この件に関連した取材で、病棟勤務の看護師さんから、こんな話を聞きました。
週刊誌などに、毎年のように定期的に多くのページを使って「飲んではいけない薬」を取り上げる特集記事が掲載されます。
この記事を読んで、不安を募らせる患者や家族が日増しに多くなっている、というのです。

実はこのような懸念は、電車の車内や新聞に掲載されている週刊誌の広告記事に、『ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬』などとあるのを目にするたびに、私自身も感じていたことです。

「ああやっぱり」と思い、改めて電話取材で確認してみたところ、何人かの病棟看護師さんから、また外来勤務の看護師さんからも、さらには在宅ケアに取り組んでおられる訪問看護師さんからも、同じような答えが返ってきました。

そのなかには、「記事を読んで不安になって相談してくれる患者さんには対応のしようがあるけれど、その記事に自分が今飲んでいる薬の名前があるからと、勝手に即刻やめてしまうとか、自分の判断で量を減らしたりしている患者さんもいるだろうから、マイナスの影響はかなり深刻だと思う」といった声も、少なからず聞かれました。
このところ盛んに言われている高齢者のポリファーマシーにも関係してくる話です。

高齢になると複数の疾患の治療を受け、複数の薬の処方を受けることが多くなる。このようなときに「ポリファーマシー」対策が求められる。問題にすべきは薬の数ではない。複数の薬を服用することにより起こる有害事象や服薬ミス、服薬アドヒアランスの低下をどう防ぐか……。

日本医師会も懸念
かかりつけ医への相談を呼びかける

薬だけではありません。検査や手術などの治療法についても、週刊誌のみならずテレビ番組などにおいても、何らかの薬や治療法などを明らかに否定的に取り上げる報道が、このところ日増しに多くなってきています。

こうした何かと問題の多い状況を受け、日本医師会の道永真理常任理事は定例記者会見で、次のような懸念を表明しています。

「一部の限られた側面だけを論じることは、国民の不安をあおり、医療への適切なアクセスを阻害することになるのではないか」

引用元:日本医師会プレスリリース

そのうえで、自分が医師から処方を受けて服用している薬や受けている治療法などに不安を覚えている時は、身近なかかりつけの医師に相談することを、広く国民に呼びかけています。

「飲んではいけない薬」には
高齢者が服用している薬が多い

治療や検査、薬など医療にまつわるネガティブ報道は、度々あります。
看護職のあなたは、その都度、「患者さんが混乱しないように」との思いから、いつも以上に時間をかけて服薬状況を確認したり、不安の訴えがあれば理解が得られるように説明を尽くしたり、服用薬に応じた副作用のチェックにことさら力を入れたり……。いろいろ努力されていることと思います。

ただ、非常に気になっているのは、最近の週刊誌報道などで、「医師に処方されても飲み続けてはいけない薬」と名指しされているのは、多くが高血圧や脳梗塞予防などの薬であり、高齢の患者であれば、日常的に服用していてもおかしくない薬ばかりだということです。

「高齢者の薬物療法ガイドライン」
の看護への活用を

改めて言うまでもありませんが、副作用のまったくない薬は存在しないはずです。
医師は、当然ながら、その副作用による患者の変化に注意を払いつつ、患者の病態と照らし合わせて、その患者により適正な薬を処方しているわけです。

そのへんのことを、たとえば患者が服用している薬の添付文書で副作用などを確認したうえで、繰り返し説明し、場合によっては、患者は何を心配しているのかを、具体的に把握して、それを主治医やかかりつけ医に伝える――

そういった大切な役割が、病院看護のみならず在宅ケアの一環としても、看護職の皆さんに期待されていると思うのですが、いかがでしょうか。

このような高齢患者の薬物治療に関する看護実践には、日本老年医学会が作成した『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(メジカルビュー社)が参考になると思います。

また、薬個々の添付文書は、その商品名で検索すればインターネット上でも見ることができます。これを活用すれば、患者の不安を少しでもあおるような不確かな情報を見聞きしたときは、確かな情報を患者にわかりやすい言葉に代えるなどして伝えることもできるでしょう。

追記
薬の飲み合わせリスクにも注意を

高齢者はいくつもの診療科からそれぞれに薬を処方されていることが珍しくありません。
その場合の薬物療法については、薬の相互作用の観点から「飲み合わせリスク」という問題が起こりがちですが、飲み合わせの是非については、『新版 薬の相互作用としくみ』(日経BP、新版)が参考になります。

また、これは高齢者に限ったことではないのですが、「薬は水か白湯で飲むのが当たり前だろう」と思い込み、飲み方の確認を怠っていると、患者によっては牛乳で飲んだり果物のジュースで飲んだりすることがあります。
この場合、薬の種類によっては、薬効が低下したり、逆に効き目が強まって危険な状態を招いたりたりする「食べ合わせリスク」もあります。

これらの点については、回を改め、お笑いコンビ「インパルス」の堤下敦さんが、睡眠薬を飲んだ直後にクルマを運転して危険な目に遭った話を例に、詳しい記事を書いています。併せて読んでいただき、日々の看護実践に役立てていただけましたらとてもうれしいです。

高齢患者は一度に複数の診療科を受診し、それぞれから薬の処方を受けることが多い。「今飲んでいる薬」のチェックを励行すればいいのだが、ときにそれを怠り、併用薬の相互作用が思わぬリスクを招くことが。また食品との相性の悪さもあり、注意が必要だ。

なお、薬に関する確かな情報を把握するには、2018年9月の段階で、病院で使用されている保険薬(内服薬・外用薬)約1万3771薬品について薬の説明や副作用、使用上の注意点に関する最新データが収載されているソフト『くすり55検索2019 』が便利です。
一般向けにできていますので、患者に説明する際にも、専門用語を使わずにそのままの表現で伝えられ、役に立つと思います。