麻疹(はしか)の感染拡大に看護師の備えは?

看護師の感染対策

麻疹(はしか)が
国内のみならず世界的流行に

報道によれば、一昨年、そして昨年に続き、今年(2019年)もまた、麻疹(はしか)が日本国内はもとより世界各国で流行しています。
気にかけておられる看護師さんも少なくないことでしょう。

わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から、国内土着の麻疹ウイルス(国内に棲みついている麻疹ウイルス)による感染が確認されない「排除状態」と認定を受けています。

ところが、2016年に沖縄県内を旅行中の台湾からの1人の旅行者(後にタイで感染したことが判明している)が麻疹を発症したのをきっかけに集団感染が発生するなど、海外からの輸入ウイルスによる感染の広がりが、ここ数年ずっと続いています。

国立感染症研究所の統計によれば、今年(2019年)に入り、この輸入ウイルスによる感染をきっかけに、大阪府や三重県などですでに220人を超える感染が確認されていて、過去10年で最多ペースであるとのこと。
昨年来感染が急増しているウクライナ、フィリピン、ブラジル、タイ、フランスなどに渡航予定のある人は、ワクチン接種歴を確認するなどの予防を徹底するよう呼び掛けています。

麻疹の輸入ウイルスにより
発症者を診察した医師らも発症

2016年の輸入ウイルスによる集団感染では、発症者が入国した関西国際空港の従業員の間で感染が広がり、さらに発症者が搬送された医療機関の医師1人と、そのの搬送にかかわった1人の救急隊員も感染を受けて麻疹を発症しています。

2人とも40代の男性で、症状は入院するほどではなかったものの、医療関係者にとっては院内職業感染リスクを現実の問題として考えさせられるほどの深刻な事態でした。

麻疹は空気感染を主な感染経路とする感染力の非常に強い麻疹ウイルスによる急性感染症です。
現行の感染症法(正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)では7日以内の届け出を医師に求める「5類感染症」に指定されています。
ただ、5類とは言うものの、麻疹については、インフルエンザの10倍ともいわれる感染力の強さから、診察した医師に直ちに届け出ることを求めているほどです。

そのため国立感染症研究所 感染症疫学センターがまとめた「医療機関での麻疹対応ガイドライン」では、感染の拡大防止および院内感染予防の観点から、麻疹の疑いのある患者に対する初期対応として、とりわけ次の点3点を確実に実施するように推奨しています。

  1. 外来では、速やかに別室へ誘導して個室管理体制とする
  2. 病棟においては、個室管理の病室に入院させる
  3. 直ちに患者の行動調査を行い、発症1日前から患者が個室管理されるまでの感染可能期間に接した者を把握する

なお、医療機関におけるウイルス感染対策について詳しく知りたい方は『病院感染対策ガイドライン 2018年版』(じほう)が参考になります。

麻疹ウイルスに妊娠中に感染すると
重症化しやすく、流産や早産にも

感染症法によれば、麻疹ウイルスに感染すると、1012日後に発熱(38℃前後)や咳嗽、鼻汁、くしゃみなどの症状が現れるようです。
さらにその3~4日後には、いったん下がるかのようにみえた発熱が再び39度以上の高熱となり、麻疹特有の赤みを帯びた発疹が耳後部や頚部、顔に現れはじめ、全身へと広がっていくとされています。

その後の経過は患者によって異なるようですが、最悪のケースとして、1,000人に1人の割合で、肺炎や脳炎で死亡することもあることが報告されています。

特に免疫力が低下している妊娠中は、麻疹の感染を受けやすく、感染すると重症化して、早産や流産を引き起こす恐れもあります。
日本産婦人科医会はホームページで感染者が多く発生した地域への外出はできるだけ避けるなどの注意を呼びかけています(コチラ)。

麻疹ウイルスに対する免疫を
保有していない方は直ちに予防策を

妊娠の有無、あるいはその可能性に関係なく、また男性看護師さんも、感染して発症するリスクのある麻疹感受性者、つまり麻疹ウイルスに対する免疫を保有していないかあるいは不十分な人は、迅速に予防策を講じる必要があります。

特に医療スタッフは、麻疹ウイルスの曝露を受ける頻度が高いというリスクがあります。
加えて、仮に麻疹ウイルスの感染を受けて発症すれば、自分だけの問題では終わらないのが麻疹の厄介なところです。

家族や同僚はもちろん、勤務先の医療機関を訪れる、あるいは入院中の患者に与える影響も深刻です。ですから、自分が麻疹ウイルスに対する免疫を獲得できているかどうかを即刻確認し、できていないなら麻疹含有ワクチンを緊急接種しておくことをお勧めします。

麻疹ウイルスに対する免疫を保有しているかどうかは、母子手帳が手元にあれば、そこに記録されている麻疹含有ワクチンの接種記録ですぐに確認できます。
1歳以上できちんと2回接種している記録があればOKです
1回だけで必要回数の2回をクリアできていない人は、免疫が不十分と考えられ、2回目のワクチン接種を考える必要があるようです。

麻疹ウイルスへの免疫保有者も
体調管理に留意して

母子手帳が手元になく、記録から麻疹含有ワクチンの接種歴を確認できない場合は、抗体価測定法により免疫の有無を確認することができます。
このへんのことは「医療機関での麻疹対応ガイドライン」の各論部分(p.3以降)に詳しく書いてありますので、参照してみていただければと思います。

最近では、医療専門職のみなさんの多くは、学生として臨床実習に入る前や入職時に麻疹罹患歴や麻疹含有ワクチンの接種歴を確認し、確認できない場合は予防接種を勧めるなどの対応がとられるようになっています。自分で確認がとれない場合は、一人で悩むことなく、即刻看護管理者等にその旨を相談して、免疫保有者かどうかを確認しておくようにしたいものです。

職業柄病気を抱える人に接触する可能性があれば、職業感染リスクを常に念頭に置く必要がある。標準予防策も重要だが、ワクチンによる予防接種により自らが感染源になることを防ぐことも重要だ。このワクチン接種の指針となるガイドラインのポイントをまとめた。

日頃から免疫力を高めておく

同時に、麻疹ウイルスに対する免疫をすでに保有している場合であっても、安心することなく、とりわけ感染が拡大しているような時期はいつも以上に食生活や睡眠などによる体調管理に留意して免疫力を高め、抵抗力をつけておくことをお勧めします。

また、頻回な手洗いによる手荒れは看護師さんには大きな悩みの種でしょう。
細胞学研究室が開発したToccoピュアバリアローション などによる手荒れ対策については、こちらの記事がお役に立てると思います。

感染防止の観点から頻回な手洗いは避けられず、結果として手荒れに悩まされている方は少なくありません。ときにひび割れなどもして、さらに感染リスクを高めることも……。手荒れ防止を強く意識した手洗いの方法とスキンケアについてまとめてみました。