新型コロナと闘うなかでの
世界禁煙デー&禁煙週間です
毎年5月31日は「世界禁煙デー」です。
今年も例年通り、禁煙デーから始まる禁煙週間(5月31日~6月6日)には、「2022年、たばこの健康影響を知ろう ~若者への健康影響について~」をテーマに、禁煙および受動喫煙防止の普及啓発を積極的に行うことが推奨されています。
6年ぶりに改訂された禁煙治療の指針
禁煙治療に関して言えば、2020年4月、日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌学会、日本呼吸器学会の4学会が、「禁煙治療のための標準手順書」を6年ぶりに改訂し、その第7版を各学会のWEBサイトで公開しています*¹。
この手順書は、「ニコチン依存症」という本人の意思だけでは克服しにくい問題を抱える多くの喫煙者に対し、禁煙に向けた指導をより効果的に推進していく指針として、日常の臨床のさまざまな場面で活用されています。
改訂された第7版には、2014年4月の第6版策定から現在までの6年間に修正されたり新たに追加された点が収められています。
禁煙治療の何が、どう変わり、どのように刷新されているのでしょうか。
そのポイントをまとめてみたいと思います。
加熱式タバコ喫煙者が
禁煙治療の新たな対象者に
最近のタバコ事情で注目すべきは、加熱式タバコが急速に広まっていることでしょう。
加熱式タバコは、従来の紙巻きタバコのように葉タバコを燃焼させるわけではありませんから、紫煙(しえん)と呼ばれるタバコ特有のニオイを伴う煙は出ません。
そのため喫煙者としては、紫煙の出るタバコに比べたら健康リスクは低いと考えがちです。
加えて、紫煙が出ないだけに周囲の人に受動喫煙のかたちで迷惑をかける心配がなく、自分の髪や服についたニオイが残り、同僚や家族などから敬遠されることもほとんどないことから、どうしても禁煙への動機づけが弱まる傾向にあります。
こうした点を重視し、今回の改訂では、禁煙治療の対象患者に加熱式タバコの喫煙者を加えているのが、注目すべきポイントと言えるでしょう。
加熱式タバコの使用がもたらす健康リスク
手順書に添付されている資料「禁煙治療問答集」では、加熱式タバコの使用がもたらす健康リスクを次のように説明しています。
- 加熱式タバコは、紙巻きタバコに比べ有害物質の摂取量を減らせるかもしれませんが、それに見合っただけ病気のリスクが減る保証はありません。
- 加熱式タバコには紙巻きタバコとほぼ同程度のニコチンが入っているので、ニコチンへの依存状態は続きます。
- 紙巻きタバコと併用している場合は、有害物質の摂取量を減らすことすら期待できない可能性が高いです。
- 禁煙治療を受けて、この機会にやめられることをおすすめします。
(引用元:「禁煙治療のための標準手順書 第7版」*¹ p.36)
医療保険が使える禁煙治療に
オンライン診療を導入
今回の改訂におけるポイントの2点目は、2020年度の診療報酬改定により、スマートフォンなどの情報通信機器を用いたオンライン診療による禁煙治療に、公的医療保険が使えるようになったことを明記していることです。
診療報酬の「ニコチン依存症管理料」に係る評価が適用される「標準禁煙治療プログラム」では、初回診察から12週間にわたり、トータル5回の禁煙治療が行われます。
この5回の診療のうち、「ニコチン依存症のスクリーニングテスト」などを実施した結果から、医療保険による禁煙治療が必要な状態であるかどうかの判断や禁煙開始日を決定する「初回診療(230点)」と、開始から12週間後の、禁煙治療の効果を確認する「最終回(180点)」は、通院による対面での診療が必要です。
初回と最終回以外の再診はオンラインも可
しかしその間、つまり初回診察から2週間後、4週間後、8週間後の、計3回行われる再診は、スマートフォンなどによるオンライン診療でも受診できるようになっています(対面診療は各84点、オンライン診療では各55点)。
この3回の再診をオンライン診療で受診する場合は、患者の自己申告とビデオ映像を介した問診による聞き取りにより、喫煙状況の評価が行われることになります。
再診で禁煙補助薬*の処方が必要と判断されることもあるでしょう。
その際には、薬剤または処方箋を医療機関から患者宅に直接送付する、あるいはかかりつけ薬局があれば、医療機関からその薬局に処方箋が送られ、かかりつけ薬剤師を介して処方薬剤が宅配されることになります。
*禁煙治療は禁煙補助薬と医療者による面接指導の両輪を基本に行われる。この禁煙補助薬としては飲み薬の「チャンピックス(商品名:バレニクリン)」が広く使用されてきたが、一部から発がん性物質が検出されたため、2021年6月から出荷が停止されていて、出荷再開は2022年後半以降とされている。
補助薬としてはニコチンパッチやニコチンガムなどもあるが、高い効果を期待できるチャンピックスを使用できないことを理由に、禁煙外来を休止する医療機関も出てきている。しかし、補助薬がなくても面接指導によりニコチン依存を克服することは十分可能であり、禁煙治療を諦めないでいただきたい。
オンライン診療の実際の流れについては、こちらの記事で確認してみてください。
ちなみに2020年度の診療報酬改定では、禁煙治療の継続を支援する意図から、初回診療から5回目(最終回)までの医療費を最初に一括して支払うと、診療の都度支払うよりも多少安くなる仕組みも導入されています。
加熱式タバコ喫煙者の
ブリンクマン指数算出法
今回の改訂のポイントとしてもう1点あげられるのは、医療保険で禁煙治療を受けることができる患者の必須条件の1つに、「35歳以上の場合は、ブリンクマン指数が200以上であること」があげられていることです。
ちなみにその他の条件としては、以下の3点があります。
- 直ちに禁煙しようと考えていること
- ニコチン依存症のスクリーニングテストでニコチン依存症と診断されていること
- 禁煙治療を受けることを文書により同意していること
ブリンクマン指数とは、喫煙が身体に与える影響を調べるための喫煙指数で、
「1日の喫煙本数 × 喫煙年数」で算定します。
この算定において、今回の改訂で新たに治療の対象に加えられた加熱式タバコの喫煙者の場合は、タバコの形状が種々あることから、喫煙本数の割り出しは簡単ではありません。
そこで、その割り出し方としては、以下のように行うと明記してあります。
- タバコ葉を含むスティックを直接加熱するタイプの加熱式タバコ
スティック1本を紙巻きタバコ1本として換算する - タバコ葉の入ったカプセルやポッドに気体を通過させるタイプの加熱式タバコ
1箱を紙巻きタバコ20本として換算する
なお、禁煙治療に医療保険の「ニコチン依存症管理料」で適用される条件にあげられている「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」については、こちらの記事で紹介していますので、是非参考にしてください。
参考・引用資料*¹:「禁煙治療のための標準手順書 第7版」