「笑いの日」に「笑いの効用」を再考してみる




笑い

ノーマン・カズンズ氏指摘の
治癒力としての「笑いの効用」

8月8日は「8(ハッ)8(ハッ)」の語呂合わせから「笑いの日」だそうです。
ご存知でしたでしょうか。

政府に働きかけて「敬老の日」(9月の第3月曜日。2020年は9月21日)を国民の祝日として実現させた「日本不老協会」が中心となって「笑いの日」を決めた、と聞きます。

一方で、人気お笑い芸人や喜劇役者を数多く抱える吉本興業が仕掛けた、との説もあります。

そのへんははっきりしないのですが、いずれにしても、法律で定められた「国民の祝日」に「笑いの日」が入っていないことだけは確かです。

しかし、ふとした笑いを誘うようなユーモアは、正体不明の新型コロナウイルスを相手に、感染患者やその疑いのある患者への対応で神経をすり減らしておられる医療従事者の緊張を、完全とは言わないまでも少しは和らげてくれるのではないでしょうか。

同時に「笑い」が、難病患者やがん患者の免疫力向上に、あるいは糖尿病患者の血糖値の改善に効果があるなど、健康面での笑いの効用も数多く報告されています。

そこで、来る8日の「笑いの日」にちなみ、「笑いの効用」について、これまで紹介してきたことを交えながら書いてみたいと思います。

NK細胞血中濃度が
お笑い鑑賞後に上昇

「笑うこと」により免疫力を高める効果が期待できることは、これまで国の内外で行われてきた幾つもの研究で確認されています。

そもそものきっかけは、不治に近い難病にかかったアメリカのジャーナリストで作家のノーマン・カズンズ氏が、「笑い」を闘病の重要な柱にして難病を克服したことを一冊の本『笑いと治癒力 (岩波現代文庫―社会)』にまとめ、「笑いの効用」を広くアピールしたことでした。

以来、そして現在も、アメリカを中心に、カズンズ氏が指摘した治癒力としての「笑いの効用」について、引き続き研究が進められています。

日本では1997年に、大阪国際がんセンターの研究チームが、がん患者らに吉本興業の芸人らによる漫才や漫談、喜劇を鑑賞してもらい、その前後で血液を採取して、NK細胞*の血中濃度などについて変化を調べるという研究が行われています。

この研究では、参加者の7割以上において、大笑いした後にNK細胞の血中濃度が上昇したことが確認されています。なかには、実験前の1.3倍に増えた人もいたということです。
→ 看護師も注目を!「笑いの効用」実証実験へ

*NK細胞、つまりナチュラルキラー(Nutural Killer)細胞は、リンパ球の一種で、自然免疫において重要な役割をしている、文字どおりの「殺し屋」。
体内を循環していて、がん細胞やウイルスなどの異物を見つけると、直ちに無差別に攻撃し、それを排除する役割を担っている。

笑いのある環境が
自己効力感を高める?

この実験を行った大阪国際がんセンターの研究チームは、治療における笑いの効用を実証する研究の第2弾に取り組んでいます。

この2回目の研究では、笑う機会を1回限りではなく、定期的に繰り返し提供して得られる効果が、患者の「自己効力感」と「生活の質(QOL)」にどのような影響をもたらすのかについて検証を重ねています。

自己効力感、いわゆる「セルフエフィカシー」と言えば、慢性疾患患者がセルフケア行動を継続していく原動力になるものです*。

慢性期看護の領域を中心に、患者の自己効力感をいかにして高めるかは、セルフケア支援における重要課題の1つと言えるのではないでしょうか。

結果はまだ報告されていませんが、がんや生活習慣病などの慢性疾患を抱えながらの生活は、とかく制限されることが多く、笑いとは無縁になりがちです。

しかしそこに、「常に笑いのある環境」を提供することにより、自己効力感が高まるとしたら、セルフケア行動にプラスに働くのではないでしょうか。
検証結果が待たれるところです。

この研究の詳細についてはコチラを参照してください。
→ 「笑い」のチカラで自己効力感を高める看護

*自己効力感(セルフエフィカシー;self-efficacy)とは、カナダの心理学者アルバート・バンジューラ博士が1990年代に提唱した概念。「自分はできる」と自分自身を信じて、実際の行動に移すことができる力を「自己効力感」と呼ぶ。
詳しくはこちらの記事を一度読んでみてください。
→ 自己効力感を高めるかかわりを

なお、笑いの効用は、2型糖尿病患者の食後血糖値の上昇を抑える効果があることも、筑波大学の研究チームにより確認され、報告されています*¹。

本当のユーモアとは
にもかかわらず笑うこと

一方、思わず笑ってしまうようなユーモアによりリラックスして、過緊張やストレス状態から解放されるのは、交感神経と副交感神経のバランスが整えられるからだと説明されています。

このユーモアについては、精神看護専門看護師として臨床でリエゾン精神看護活動を長年続けている平井元子氏が、著書『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり 』(仲村書林)の「12 笑いを取り戻す」の章のなかで、患者や家族と「結果的に”笑い合える”ように」かかわることの大切さを説いておられます。

仮にその笑いが瞬間的なものであったとしても、笑い合ったそのときに、何かしら通じ合えるものが生まれ、患者との関係が深まっていく端緒になるようです。

平井氏がこう考えるようになったのは、死生学領域の哲学者として著名なアルフォンス・デーケン氏の『死への準備教育 第3巻 死を考える』(メヂカルフレンド社)を読んでいて、
「ユーモアとは、にもかかわらず笑うことである」
という言葉に出合ったのがきっかけだったそうです。

この言葉を平井氏は、「ユーモアというのは、悩みや苦しみのさなかから生まれてこそ、人を救うものなのだということ、だから、ユーモアや笑いは、終末期のケアにおいても意味があるということを伝えているのだと解釈した」と記しています。
→ 看護師もユーモアセンスを磨こう

笑い筋が動くだけでも「笑いの効用」が

なお、「笑う」と言っても、必ずしも大笑いする必要はありません。

さらに言えば、「笑い筋」と呼ばれる表情筋が動くだけでも笑いの効用は期待できるようですから、MTG(エムティージー) フェイシャルフィットネス PAO のようなグッズを使って、表情筋を鍛えるトレーニングを行い、「笑み」を絶やさないことに挑戦してみるのも、患者家族にとってはもちろん、ご自身にとっても有用なのではないでしょうか。

参考資料*¹:糖尿病患者における「笑い」の生理的および心理的効果に関する研究