巨泉さんの「鎮痛剤誤投与」報道に看護は?




薬の処方と看護師

巨泉さんの死が突きつけた
終末期ケアの課題

2016年712日、皆さんもご存知のあの大橋巨泉さんが亡くなられました。
それからほぼ1週間が過ぎた7月20日、巨泉さんの奥様のコメントが発表されています。全文がネット上でも紹介されており、読まれた看護師さんも多いと思います。

そのなかで、あくまでもご遺族としての見解なのですが、「鎮痛剤の誤投与」という表現が繰り返されていたことが、とても気になっています。

看護職、なかでもがん患者の緩和ケアや終末期ケアに取り組んでいる看護師さん、さらには、在宅での終末期ケアを担っている訪問看護師さんは、おそらく私以上に割り切れない気持ちになっておられるのではないでしょうか。

社会的影響力が大きい方の
終末期ケアをめぐる発言だけに

20代、30代の方はあまりご存じないかもしれませんが、大橋巨泉さんといえば、一時期、テレビ番組の司会者として、あらゆる世代に絶大な人気を博した方です。なにしろテレビで追悼映像が繰り返し流されるほどですから。

そのような、逝去後もなお社会的影響力のある方の終末期が、「在宅介護の鎮痛剤の誤投与」とか、死因は急性不全であるが、そこに至るには、「最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい」「最後の在宅介護の痛み止めの誤投与がなければと許せない気持ち」といった言葉とともに語られているのです。

コメントを出された奥様は、最愛の夫を亡くされた直後です。
悲嘆のさなかにあることは容易に想像できるものの、その点を重々考慮しても、これらの文言は、患者を看取る場にかかわるスタッフ側に立てば、いかにも残念でなりません。

モルヒネ系鎮痛剤が必要な人々への
マイナスの影響が懸念される

巨泉さんの終末期の緩和ケアを意図したかかわりのなかで、「鎮痛剤の誤投与」が本当にあったのかどうか、果たして「誤投与」といえるものだったのかどうか、今のところはっきりしたことは何もわかっていません。

おそらくあまり遠くない時期に、そのケアにかかわった方々から、「実はこうでした」という説明があるでしょう。

そのうえで、これからの緩和ケアに生きるかたちでの検証が行われる時がそう遠くないうちにやってくることを期待して、待っているしかないのかもしれません。

でも、その間にも、モルヒネ系鎮痛剤の使用をめぐり、本来それが必要ながん患者や家族の間で混乱が起きるのではないだろうか……。
そういった懸念を、未だぬぐえないままでいるのは私だけではないでしょう。

今やがんの痛みは
劇的にコントロール可能だが

釈迦に説法でしょうが、がんの終末期における最も深刻な問題は「がん性疼痛」です。

がんの診断・治療が著しく進歩した今、日本におけるがん全体の「5年生存率」は、最新の推計値では62.1%まで向上しています。
がんはもはや不治の病ではなくなっているわけです。
にもかかわらずがんが他の疾患以上に人々に恐れられるのは、末期に経験するさまざまな苦痛、とりわけ「がんによる激痛」だといわれています。

この激痛も、1984年に世界保健機関(WHO)が打ち出した、モルヒネ系製剤を中心に使用する治療方式により、劇的に和らげることができるようになっているはずです。詳細は⇒『ゼロからのがん性疼痛レクチャー―現場で使えるヒント集』(文光堂)

看護師がよく直面する
モルヒネ剤に対する人びとの誤解

ただ、この方式が緩和治療として有効に使用されるには、乗り越えなくてはならないいくつかの壁があると、治療方式が公表された当初から言われています。
その1つが、医療用モルヒネに対する人びとの誤解です。

医療用麻薬であるモルヒネを、犯罪とのからみで取り上げられことの多いヘロインや大麻などと混同している一般人は、残念ながら少なくありません。

その結果生じる「この薬を使うと麻薬中毒になるのではないか」「麻薬のような強い薬を使うと、命を縮めることになってしまうのでは……」といったあらぬ誤解から、医療用モルヒネを使うことをかたくなに拒み、がんの激しい痛みのためにむしろ体力を著しく落とし、死期を早めてしまっている患者も少なくないと聞きます。

わかりやすい説明により
医療用モルヒネ使用への誤解を解く

大橋巨泉さんの最期に関する報道に接して、すでにモルヒネ系鎮痛剤を使用しているがん患者や家族のなかに、「このまま使用し続けて大丈夫なのか」などと、不安を感じる方が出てくるかもしれません。場合によっては「中止したい」といいだすようなケースもあるでしょう。

さらには、続いている激しい痛みのコントロールに、医療者サイドからモルヒネ系鎮痛剤の使用を提案された患者家族が、「巨泉さんが使った薬ですよね」という言葉とともに、使用を躊躇するようなことも起きてくる可能性がないとは言えません。

そんなとき、その場に居合わせる看護師さんはどう対応するのか……。
今回の、巨泉さんのモルヒネ系鎮痛剤をめぐる報道内容を踏まえ、これまで以上に具体的でわかりやすい説明を繰り返すことにより、患者・家族の誤解や懸念を可能な限り取り除いてくださるよう、こころから期待したいと思います。

このところのメディアによる医療をめぐるマイナス報道については、別の記事も書いています。併せて読んでいただいて、日々の実践にお役立ていただけたら嬉しいです。
飲んではいけない薬」報道による不安への看護