看護に生かしたい高齢者漢方薬治療指針




漢方治療と高齢者

ポピュラーな漢方薬にも
ドーピング禁止物質が

スポーツ人気が高まっています。ところがこのことろ、アスリートをめぐり「ドーピング違反」のトラブルが続出し、国際レベルの大会があるたびに「ドーピング違反で〇〇選手が追放」などというなんとも残念なニュースが流れています。

オリンピックで言えば、ドーピングに関するルールは、国際オリンピック委員会(IOC)の医事規定に載っています。それによると、日本のコンビニでも簡単に手に入るドリンク剤やかぜ薬、咳止めの飴など、きわめてポピュラーな薬にも、交感神経興奮作用をもつエフェドリンやカフェインなどのドーピング禁止物質が含まれていることがわかります。

加えて、ちょっと意外だったのは、禁止物質のリストに多くの漢方薬が収載されていることです。漢方薬には、「副作用が無くて安心」のイメージが強いだけに驚きます。
たとえば「ちょっと風邪気味だから飲んでおこう」と、普段気軽に服用している「葛根湯(かっこんとう)」もその1つ。
成分の1つである「麻黄(まおう)」という生薬(しょうやく)に、交感神経を興奮させるエフェドリン作用があり、これがドーピング違反につながるからだそうです。

かかりつけ医の94%が
漢方薬を日常的に処方している

ところで、一般に漢方薬には「西洋医学で使われる薬に比べ、副作用が無くて安全で安心して飲むことができる」というイメージが根強くあります。

実際のところ、西洋医学では診療科が疾患別に分かれていて、治療もそれぞれの診療科、あるいは病院で行われます。そのため、一人でいくつかの疾患をもっていると、複数の診療科、複数の病院から薬の処方を受けることになり、薬効が類似した薬を重複して服用した結果、思わぬトラブルを起こすという問題があります。これは高齢者に多い問題として、広く一般にも注意喚起されています。

その点漢方医学では、「こころとからだのつながり」を重視して、健康課題を総合的にとらえたうえで必要な薬を処方します
そのため漢方薬には、「薬の重複」や「大量投薬による薬漬け」といった問題は、まずないだろうと考えられています。その意味では安心ですし、医療経済的にも無駄がないと、評価されています。

そこで最近では、漢方医学の特徴を高齢者医療に生かそうと、高齢者にも漢方薬が積極的に処方されるようになっています。
かかりつけ医の94%以上が漢方薬を処方しているというデータもあるそうですから、看護師のあなたも漢方薬を取り扱うことが多くなっているのではないでしょうか。食事療法に漢方の食材を勧める医師や栄養士も出てきています。

しかし、先のドーピング禁止物質が漢方薬の成分になっているという話1つとってみても、「漢方薬だから」と一概には安心できないような気になってしまいます。

高齢者医療における
安全な漢方薬治療に初の指針

こうした現状を踏まえ、東北大学病院漢方内科の高山真(たかやま しん)准教授らの研究チームは、高齢者を対象とした安全な漢方薬治療のガイドライン(指針)を作成しました。
これは、世界中の論文から厳選した64編を詳細に分析し、漢方薬の有効性と使用上の注意点をまとめあげたものです。

漢方医学については、日本東洋医学会が「東洋医学について専門的見識のある医師」に「学会認定専門医」の呼称を与えています。ただし、この専門医、通称「漢方専門医」は、現時点で全国に2,178人と、決して十分とは言えないのが実情です。
そこで本ガイドラインは、漢方医学が専門ではない医師も、科学的エビデンスに基づいて漢方薬の適正治療ができるような内容に作り上げたのだそうです(参考資料:東北大学プレスリリース 2016/7/1)。

ちなみに、学会認定の漢方専門医(5年ごとに更新)の所在を知りたいときは、日本東洋医学会のホームページで検索できます。

看護師も活用したい
副作用への注意が必要な生薬リスト

指針を見ると、高齢者への有効性が示された漢方薬としては、認知症に伴う行動・心理症状のうち幻覚、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力、徘徊などに対する「抑肝散(よくかんさん)」、誤嚥性肺炎の既往をもつ患者にみられる嚥下反射や咳反射を改善させ、肺炎発症の抑制に「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」などがあげられています。

また、高齢者に漢方薬を使用する際に、有害事象、いわゆる副作用への注意が必要な生薬のリストもあります。そこには、「甘草(かんぞう)」「麻黄(まおう)」「附子(ぶし)」などをあげ、たとえば甘草については、「低カリウム血症とそれによるさまざまな病態を生じうる」として、注意を喚起しています。

本ガイドラインは、先に日本老年医学会がまとめた『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(メジカルビュー社)のなかに、「12 漢方薬・東アジア伝統医薬品」として掲載されています。高齢患者が増加している状況もあり、訪問看護師や病院看護師のあなたにはぜひ活用をおすすめしたいと思います。

なお、高齢者の薬物療法に関しては、下記の記事も参考にしていただけるのではないかと思います。関心のある方は読んでみていただけたら嬉しいです。
「飲んではいけない薬」報道による不安への看護
看護師も「薬の飲み合わせリスク」に注意を
薬と食事の食べ合わせにも注意が必要です

看護師自身のセルフケアにも
「漢方」を取り入れて

ところで、看護師さんのストレス対策として先に「落語」をお勧めする記事を書きましたが、その落語に「風邪には葛根湯」という話が出てくるほど漢方薬は、「病院に行くほどではないが、ちょっとつらい」というときによく使われています。

多くの看護師さんも、たとえば月経前症候群(PMS)対策として漢方薬を活用されることがよくあるのではないでしょうか。
また、漢方の知恵から生まれた薬膳料理も、特に女性の間で「冷えにいい」とか「疲れがとれやすい」、さらには「ダイエット効果が期待できる」として人気が高まっているようです。
最近は、用意されたスープの素と9種類の具材を鍋に入れるだけで簡単に薬膳料理が楽しめる薬膳火鍋キット などもあり、冷え性や低体温に悩む女性の間で静かなブームになっていると聞きます。

西洋薬同様に漢方薬や漢方具材にも使い方に慎重さが求められますが、基本を踏まえたうえでセルフケアに上手に活用されてはいかがでしょうか。

なお、最近の漢方ブームを受け漢方認定講師&薬膳セラピー通信講座★東洋医学に基づく漢方&薬膳のような通信講座なども用意されています。
ちなみにこの通信講座を受講された看護師さんによれば、仕事に支障なく学習でき、ワークとライフの両方に生かせる知識が満載で日々のセルフケアに生かしている、と聞きます。関心のある方は挑戦してみてはいかがでしょうか。