全国で年間約1万7000人が
入浴中のヒートショックトラブル
気象庁の見通しでは、今年の冬(2022年12月~2023年2月頃)はラニーニャ現象などの影響で寒さが厳しいとのこと。
加えて、節電・節ガス対策で居間以外の暖房を控える家庭も増えることが予想され、今からトイレ、今から浴室への移動に伴う寒暖差も懸念されます。
したがって、高血圧や動脈硬化で治療中の患者、あるいは血圧変化をきたしやすい高齢者の場合は「ヒートショック」のリスクを看過できません。
とかく私たちは、事故死と聞けば交通事故死を頭に浮かべます。
ところがここ数年は、入浴中に急死するという事故死の数が交通事故死の数を上回る状況が続いており、全国で年間約1万7000人が入浴中に亡くなっていると推計されています。
原因の多くはヒートショックとのこと。
入浴中にヒートショックによる脳出血や脳梗塞、あるいは心筋梗塞といった心臓血管系の健康トラブルを起こして倒れ、そのまま浴槽内で溺死しているところを様子を見にきた家族などによって発見される、といったケースが多いようです。
ヒートショックを起こすリスクは高血圧患者に多いのですが、とりわけ近年では、入浴中の溺死者の7割余りを65歳以上の高齢者が占めており、特に75歳以上の年齢層で目立って増加していることを示す統計データ*¹も報告されています。
ということで今日は、高血圧患者や高齢患者を中心に、看護師さんにこの時期是非注意喚起していただきたいヒートショック対策について書いてみたいと思います。
ヒートショックの原因は
急激な寒暖差による血圧の変動
ご承知のように、「ヒートショック」は医学用語ではありません。
一般に、冬場に暖房で暖めた居間から寒いトイレに入るとか、寒い脱衣場や浴室から熱い湯を張った浴槽にいきなり入ることによって生じる急激な温度変化により、血圧が上下に大きく変動して起こる健康トラブルを「ヒートショック」と呼んでいます。
ヒートショックを起こすリスクが高い患者としてまず挙げられるのは、血圧の激しい上下変動により低血圧性のショック状態に陥りやすい高血圧患者です。
加えて、糖尿病や肥満、高脂血症などに伴い動脈硬化が進行している患者の場合も、血圧の変動によりショック状態に陥るリスクが高いと考えるべきでしょう。
また、一般に高齢者の場合、とりたてて血圧に問題がなく、日頃比較的元気に生活していても、加齢変化により、血圧変動をきたしやすい状態にあるものです。
加えて高齢者は、体温を一定に維持する生理機能自体も低下していますから、ヒートショックのリスクはより高いものと考え、格別の注意喚起が必要です。
浴室暖房機の設置で
入浴時のヒートショックを防ぐ
ヒートショック対策のポイントは、寒暖の温度差をなくすことです。
一般に、浴室とトイレを中心に、5℃以内の温度差に収めるのが理想的と考えられています。
このうち浴室対策、つまりヒートショックによる入浴中の溺死や浴室での転倒などによる事故死を防ぐ対策としては、国民の安全な暮らしを守る役割を担う消費者庁が、ホームページ上に以下の6点を挙げ、入浴習慣を見直してみるよう、広く一般に呼びかけています。
- 入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう
- 湯温は 41 ℃以下、湯につかる時間は 10 分までを目安にしましょう
- 浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう
- 食後すぐの入浴やアルコールが抜けていない状態での入浴は控えましょう
- 精神安定剤、睡眠薬などの服用後の入浴は危険ですので注意しましょう
- 入浴する前に同居者に一声掛けて、見回ってもらいましょう。
(引用元:消費者庁News Release 2018/11/30*¹)
浴室は家の北側にあることが多く、上記「1」は特に重要でしょう。
脱衣所や浴室を温める方法としては、最近は浴室暖房機や浴室乾燥換気暖房機などが各種市販されています。
業者による工事が必要なものが多いのですが、現在セットされている浴室の換気扇を自分で取り替えるだけの作業でOKというものもありますから、業者に相談するようすすめてみてはいかがでしょうか。
また、より手軽にすぐできる方法としては、シャワーで浴槽にお湯をためるようにすると、浴室全体を暖めることができます。
このとき浴室のドアを開けたままにしておけば、脱衣所も同時に温めることができ、温度差による血圧への影響を最小限に抑えることができます。
すでに浴槽にお湯がたまっている場合は、入浴前から浴槽のふたを開けておくだけでも、浴室内の温度を多少でも上げることができ、温度差を少なくする効果があります。
浴槽に入る前に必ず「かけ湯」を5~6回行い、湯の温度に身体を慣らして温度刺激による血管への影響を極力抑えることも忘れずに伝えたいものです。
日本気象協会による
「ヒートショック予報」も活用を
もう1点、ヒートショック対策として患者に伝えておきたいのが、日本気象協会が2017年2月からホームページ上で発信している「ヒートショック予報」*²です。
ヒートショック予報とは、気温などの気象予測情報をもとに、その地区の、その日の20時(午後8時)時点での平均的な家の中におけるヒートショック・リスクを、日本気象協会と東京ガスが共同で開発したノウハウを用いて分析し、全国の市区町村別に配信しているものです。
この場合のリスクは、以下の5段階に分けられています。
- 油断は禁物 :体調に気をつけて入浴しましょう
- 注 意 :ヒートショックに注意してください
- 警 戒 :ヒートショックに警戒が必要です
- 気温差警戒 :1日の気温差が大きくなります。ヒートショックに警戒が必要です
- 冷え込み警戒:今夜は冷え込みます。ヒートショックに警戒が必要です
トイレ内と寝室からトイレまでの暖房も
なお、トイレにおけるヒートショック対策も忘れてはならないでしょう。
この点については、暖房便座を設置する、あるいは人の出入りを感知して作動するセンサーと消臭機能を搭載したヒーターを設置するなどの対策を提案されてはいかがでしょうか。
同時に、寝室からトイレまでの廊下を、人が動くと作動するタイプの暖房機などで多少でも温めることができればなお理想的でしょう。
夜間トイレに何度か起きるという方の場合は、寝室をトイレにできるだけ近くにする、あるいは夜間だけ、寝室にポータブルトイレを置くことを検討してみるのもいいでしょう。
今年の冬は国を挙げて節電・節ガス対策が求められていますが、命を守るために必要な最低限の暖房対策はしっかり行うよう促したいものです。
引用・参考資料*¹:消費者庁News Release 2018年11月30日
参考資料*²:日本気象協会「ヒートショック予報」