在宅緩和ケアの質を確保するためのケア基準

一息つく

在宅緩和ケアニーズが高まるなか
「ホスピス緩和ケア週間」を迎えて

ラグビーのワールドカップ日本大会における日本代表チームの予想をはるかに超えた、あまりに見事な戦いぶりにこころ奪われ、すっかり失念していましたが、この10月6日(日)~10月12日(土)の一週間は、「ホスピス緩和ケア週間」です。

日本ホスピス緩和ケア協会は2006年度より、「世界ホスピス緩和ケアデー(World Hospice & Palliative Care Day)」を最終日とする一週間を「ホスピス緩和ケア週間」とし、全国各地でさまざまなイベントを開催して、緩和ケアの普及啓発に取り組んでいます。

その第14回となる今年、2019年は、先の日程で「橋を架ける―ホスピス緩和ケアを必要とするすべての人へ―」をテーマに、ホスピスや緩和ケア病棟を中心に全国のさまざまな場所でポスター展示やセミナー、見学会などが開催されています。

緩和ケアを提供する場はかつてはもっぱら病院でした。
しかし高齢化が進み、在宅で療養生活を送る終末期のがん患者が増えるのに伴い、在宅緩和ケアのニーズが日を追って高まっています。

この在宅緩和ケアに関しては、提供するケアの質をきちんと確保しようと、大きく二つの取り組みが行われているのをご存知でしょうか。
今回はこの取り組みについて、少し書いてみたいと思います。

WHOの定義に基づく
「在宅緩和ケア充実診療所・病院」

緩和ケアについては、2002年にWHO(世界保健機関)が、次のような定義を発表しています。
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾病に関連する問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確にアセスメントを行い、対処することにより、苦痛を予防し和らげることを通して、QOLを改善するアプローチである」(厚生労働省訳)

これを確実に実践してこそ、緩和ケアと言うことができるのですが……。
緩和ケアチームが緩和ケア病棟で実践している緩和ケアはともかく、特に在宅における緩和ケアのすべてが、質、量ともにこの定義に見合うかたちで提供されているかどうかについては、関係者の間でも少なからず疑問視する声が少なからず上がっています。

こうした声を受け、2016年4月には「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」という診療報酬制度が誕生しています。
24時間対応の医療機関で、過去1年間の緊急往診数が15件以上、在宅看取り数が20例以上、がん性疼痛などに対し、適正な方法でオピオイド系鎮痛薬を投与した実績が10件以上あることなど、いくつかの施設基準を満たすことにより「在宅緩和ケア充実診療所・病院」を標榜する(名乗る)ことができるようになったのです。

日本ホスピス緩和ケア協会が
「在宅緩和ケア基準」を作成

ただし、この「在宅緩和ケア充実診療所・病院」には、大きな課題が残されています。
満たすべき施設基準のハードルは高いのですが、提供できる緩和ケアの質については、残念ながら基準が設けられていないのです。

このことを懸念した日本ホスピス緩和ケア協会は、早い時期から専門家による委員会を設置し、WHOの緩和ケアの定義に基づいた「在宅緩和ケアの基準」づくりに取り組んできました。
そして2017年9月23日、その基準が同協会のホームページ上で公表されています。
そこでは冒頭で、在宅緩和ケアの理念を次のように記しています。

在宅緩和ケアの理念
在宅緩和ケアは、生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族が在宅(介護施設を含む自宅あるいはそれに準じる場所)で過ごすために、QOL(人生と生活の質)の改善を目的とし、WHOの緩和ケアの定義に基づき、様々な専門職とボランティアがチームとして提供するケアである。

(引用元:日本ホスピス緩和ケア協会「在宅緩和ケアの基準」

こうした理念のもと、このケア基準では、どのようにしたらWHOが定義する緩和ケアを在宅で実践できるのかについて、具体的な目標項目がまとめられています。

■在宅緩和ケアチームの構成
たとえば在宅緩和ケアチームのあり方としては、医師、看護師、薬剤師、介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護士(介護福祉士等)、ソーシャルワーカーなどを基本に、患者・家族の必要に応じて柔軟に構成することとしています。

■在宅緩和ケアチームの要件
さらにそのチームの質を確保するために、チーム内での連絡が24時間可能であり、連絡を密にとることができる体制が整備されていること、加えて医療職に偏ることなく、ケアマネジャーやソーシャルワーカーなど、相談支援および地域のさまざまな資源と連携が図れる機能を持つスタッフをチームに配置することを促しています。

■在宅緩和ケアチームのコミュニティにおける役割
また、患者・家族との向き合い方としては、話し合いを重ねることや本人の意思決定を支援すること、看取り後の遺族へのグリーフケアの大切さなどにも言及しています。

さらに興味深いことに、同ケア基準は、在宅緩和ケアチームの地域社会とのかかわり方として、診療所や事業所の枠を超え、在宅ケアに携わる仲間に緩和ケアに関する教育の場を提供することを促しています。
詳しくは「日本ホスピス緩和ケア協会」のホームページをご覧ください(コチラ)。

なお、在宅緩和ケアの質の確保と向上を図るために取り組むべき課題については、山崎章郎医師(在宅緩和ケア充実診療所ケアタウン小平クリニック院長)による『「在宅ホスピス」という仕組み (新潮選書)』(新潮選書)が参考になります。