コロナ対策の特例措置として
妻の年齢と所得要件を緩和
不妊治療のなかには、治療費が高額となるケースが少なくありません。
高額な治療費がかかる一部の不妊治療については、治療を受ける夫婦の経済的負担を軽減する目的で「特定不妊治療費助成制度」が設けられています。
この制度について厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う時限的な特例措置として、制度の対象者要件にある「妻の年齢要件」と「所得要件」を緩和することを決め、実施主体である都道府県等に通知しています。
今回の時限的特例措置については、差し当たり今年度いっぱい、つまり2021年3月31日までを期限とすると説明しています。
しかし、新型コロナウイルス感染症については今のところ収束の目途はたっていません。
そのため厚生労働省は、感染状況によっては、特例措置の実施期間を延長する可能性もあるとし、
「不妊治療の開始時期は、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、医療機関ともよく相談し判断してほしい」としています。
新型コロナウイルス感染症の患者急増を受け、日本生殖医学会(市川 智彦理事長)は4月1日、会員に向け、人工授精や体外受精、胚移植などの不妊治療の延期を受診者に提示することを医師らに推奨する声明を発出した。
その後、新型コロナウイルス感染に対する緊急事態宣言が解除されたのを受け、5月18日には、不妊治療の延期を選択した患者に対し、可能な限りの感染対策の施行と十分な説明と同意のもとに、不妊治療の再開を検討するよう提言している*¹。
医療保険の適用から外れる
体外受精と顕微授精が対象
不妊治療を受ける人の経済的な負担を軽減するための「特定不妊治療費助成制度」は、国が実施する「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の一環として、都道府県、指定都市、中核市が実施主体となって運営を行っています。
対象となる治療は、公的医療保険が適用されない「特定不妊治療」、つまり体外で受精させて妊娠を図る「体外受精」および、体外受精のうち人工的に受精させる「顕微授精」です。
支援の対象者は、以下の要件を満たす法律上の夫婦とされています。
なお、事実婚の夫婦のケースを一定の条件の下に対象としている実施主体もあります。
- 特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、その見込みが極めて少ないと医師が判断したこと
- 指定医療機関*²で特定不妊治療を受けたこと
- 治療期間初日の妻の年齢が43歳未満である夫婦
- 申請日の前年の夫婦の合算の所得額が730万円以下であること
年齢要件は「44歳未満」
所得要件には減収を考慮
今回の特例措置による年齢要件緩和は、新型コロナウイルスの感染防止のため、不妊治療の延期を余儀なくされている人が少なくないことを考慮したもので、妻の年齢要件を上記「3」にある「43歳未満」を「44歳未満」と、1年間延長する緩和措置をとっています。
具体的に言えば、2020年3月31日の時点で妻の年齢が42歳の夫婦であれば、治療期間初日の妻の年齢が44歳に到達する前日(43歳)まで、助成の対象になるということです。
一方の所得要件は、夫婦合体の所得ベースで「年収730万円以下」とされ、年間所得が730万円以上の夫婦は助成対象から外れることになっています。
これを特例措置では、新型コロナウイルス感染拡大の影響による収入の減少で不妊治療を諦める夫婦が出ないようにと、制限を緩和しています。
具体的には、前年の年間所得が730万円以上だった夫婦でも、新型コロナウイルス感染拡大の仕事への影響で、今年(2020年)2月以降の任意の1か月の収入などから推計した年間所得が730万円以下であれば、助成金を受けることができることになります。
特定不妊治療費の
助成給付額と助成回数
上記の所得要件や給付額など、本事業の内容は、各自治体により異なりますが、たとえば2016年4月1日から施行されている助成給付の目安は次のようになっています。
ただし、2013(平成25)年度以前から本事業による特定不妊治療に対する助成を受けている夫婦で、2015(平成27)年度までに通算して5年間助成を受けている場合には、助成の対象から外れることになります。
- 特定不妊治療に要した費用に対して、1回の治療につき15万円を上限に助成する
ただし、採卵を伴わない凍結胚移植等への助成上限は7.5万円 - 通算助成回数は、初めて助成を受けた際の初回治療時の妻の年齢が40歳未満であれば6回まで、40歳以上であれば3回まで
(今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例措置により、初回助成時の治療期間初日の妻の年齢が41歳未満であれば6回までとなる) - 1のうち初回治療に限り30万円を上限に助成する
ただし、採卵を伴わない凍結胚移植等は除く - 特定不妊治療に至る過程の一環として、男性不妊治療(精子を精巣または精巣上体から採取するための手術)を行った場合は、1および3のほか、1回の治療につき15万円を上限に助成する(採卵を伴わない凍結胚移植等は除く)
- 4のうち初回治療に限り30万円を上限に助成する
専門家による相談を受けられる
各地の「不妊専門相談センター」
事業内容には地域性が大きく反映されていますから、詳細や申請手続きの方法などは、各自治体の窓口(区役所、市役所、健康福祉センター、保健所など)に問い合わせるか、各自治体のホームページで確認していただくことになりまります。
また、各都道府県、指定都市、中核都市が設置している不妊専門相談センターでは、不妊に悩む夫婦を対象に、不妊に関する医学的・専門的な相談や不妊に関するこころの悩み、申請方法、費用などについて、専門医や助産師、不妊カウンセラー、心理カウンセラー等の専門家が相談に対応したり、診療機関ごとの不妊治療の実施状況などの情報提供を行っています。
医師らによる相談方式は、「電話」「面接」「電子メール」のいずれかで、多くのセンターが事前予約を必要としています。
→ 全国の不妊専門相談センター一覧(2019年7月1日現在)
なお、晩婚化に伴う晩産化により不妊治療と仕事の両立に悩む方が増えているようです。
厚生労働省は、この両立のためのノウハウなどさまざまな情報をハンドブック等にまとめ、WEBサイトで公開しています。
詳しくは、こちらの記事を読んでみてください。
→ 仕事を続けながら不妊治療を受けたい方に
参考資料*¹:日本生殖医学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの通知(2020年5月18日版)
参考資料*²:不妊治療に悩む方への特定治療支援事業 指定医療機関一覧