「不妊治療への保険適用」が少子化対策の目玉でいいのだろうか




赤ちゃん

不妊治療費負担軽減策は
対症療法でしかない

就任早々の菅 義偉(すが よしひで)内閣総理大臣は、少子化対策に立ち向かう新たな施策として、「不妊治療への保険適用」を打ち出しました。

しかし、これを聞いて、何か物足りなさや疑問を感じた人は少なくないようです。

確かに人工授精や体外受精、胚移植といった不妊治療のなかには、医療保険が適用されず、治療費が驚くほど高額となるケースが少なくないと聞きます。

その経済的負担を軽減しようと、すでに「特定不妊治療助成制度」が設けられています。
ただし、年齢制限や所得制限があり、必ずしも十分とは言えないのが現状です。

ですから、現時点で医療保険が適用されない顕微授精(体外受精の一つで、顕微鏡下で受精を助ける方法)などの「特定不妊治療」も含め、不妊治療全体に保険を適用して不妊治療を必要とするカップルにかかる多額の費用負担を減らすことは検討すべき課題の一つでしょう。

ただ、治療費の問題をクリアすることはあくまでも対症療法です。
少子化対策の新たな施策としては、問題のすり替えではないかと思うのは私だけでしょうか。

日本における少子化は
かつてない深刻な状況に

厚生労働省が9月17日に公表した人口動態統計(確定値)によれば、2019年の出生数は、1899年の調査開始以来過去最少を更新し、86万5239人と、初めて90万人を下回っています。

合計特殊出生率、つまり一人の女性が一生のうちに出産する子どもの平均数は1.36で、前年の1.42から0.06ポイント低下しています。

いずれの数値からも、わが国の少子化が加速化の一途をたどり、その影響を受けて社会の高齢化も急ピッチで進んでいることが一見してうかがえます。

実際、2019年人口動態統計の速報値(6月公表)を受け、前政権が7月31日に閣議決定した「2020年版少子化社会対策白書」では、「『86万ショック』とも呼ぶべき状況」と、少子化の進行に警鐘を鳴らしています。

加えて、今年(2020年)2月以降は、新型コロナの影響により、婚姻数が減少するのに伴い、出生数も減少傾向にあることが報告されており、深刻さはさらに増すことが容易に推測されます。

こうした事態にブレーキをかける施策として新たに打ち出されたのが、「不妊治療への保険適用」では、あまりに当座しのぎのように思えてなりません。

妊娠する・妊娠させる力は
男女とも加齢に伴い低下する

少子化が進む原因としては、結婚しない「未婚化の進展」に始まり、結婚年齢が上がる「晩婚化の進展」が指摘されています。

晩婚化、つまり結婚年齢が上がれば、子どもをもつことを考える年齢も上がります。
しかし、男女とも加齢に伴い、妊娠する・妊娠させる力、いわゆる「妊孕性(にんようせい)」が低下するという問題があります。

女性は30歳から、男性は35歳から

女性の側で言えば、加齢により子宮内膜症や子宮筋腫などの合併が起こりやすいことに加え、卵子そのものの数の減少や質の低下が起こることにより、
「30歳を過ぎると自然に妊娠する確率が減りはじめ、35歳を過ぎると著明な低下をきたす」
とされています。

男性側も、女性に比べると加齢の影響はゆっくりではあるものの、
「35歳ごろから徐々に精子の質の劣化が始まる」
ことがわかっています。

これらのことが影響して、不妊*に悩むカップルは約10組に1組は下らないのが現状で、男性側にその理由がある場合と女性側に理由がある場合は、ほぼ半々だと言われています。

結果として不妊治療が増えることになります。
現在わが国では、わかっているだけで年間40万件を超える不妊治療(生殖補助医療等)が行われているとのこと。出生数と対比してみると、その多さは驚きです。

*不妊の定義
「不妊」は、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないことを言う。
この「一定期間」については諸説あるが、日本産科婦人科学会は、
「1年とするのが一般的である」としている。

不妊治療が注目を集める
その背景を注視した施策を

こうした現状から考えると、少子化対策として表立って打ち出されている「不妊治療費への保険適用」や認可保育所や認定こども園などの「待機児童ゼロ」対策だけではなく、もっと構造的な問題に迫る施策が欠かせないのではないでしょうか。

その具体策としてはいろいろあげられています。

看護の予防的視点に期待したい

そのなかには、看護職の皆さん、とりわけ予防的な視点で日々活動する保健師さんに、期待される役割が数多くあるように思うのですがいかがでしょうか。

たとえば、女性の場合で言えば30代になると卵子の数の減少や質の低下により不妊症の割合が増加すること、男性側も同様に、35を過ぎた頃から精子の劣化が始まり、妊娠させる力が低下すること等を、早い段階から広く伝えておくことが不可欠でしょう。

あるいは、核家族化が進むなかにあって、引退した両親と暮らす若いカップルが、安心して自分の親に子どもを預け、従来どおり職場に戻ってキャリアを積んでいるケースも身近にたくさん目にします。
この話を、改めて若い仲間に話してみるのもいいでしょう。

ツイッター上では「不妊治療」がトレンド入り?

今や女性の7割が社会に出て働く時代です。
菅総理の「不妊治療への保険適用」宣言以降、ツイッター上には「不妊治療」がトレンド入りし、好意的なコメントがあふれているそうです。

しかし、こんな小手先めいた施策に満足することなく、菅総理には、不妊治療がこれだけ注目を集める背景にしかと目を向けていただきたいものです。

なお、不妊治療に関して先に厚生労働省は、「仕事と不妊治療の両立支援のために」と題するリーフレットを作成し、公表している。

詳しくはこちらの記事を参照されたい。
→ 仕事を続けながら不妊治療を受けたい方に