発酵性大豆食品の納豆が
死亡リスクを下げる
日本人の朝食定番メニューの1つである「納豆」に関して、驚きの研究結果が発表されました。
納豆をよく食べている人はそうでない人と比べ、死亡リスクが下がるというのです。
しかもこの効果は、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患による死亡ケースに顕著に見られ、男女ともに納豆の摂取量が多い人ではそのリスクがおよそ10%低いことが確認されたそうです。
この興味深い研究成果は、国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかにされ、医学専門誌「ブリティッシュメディカルジャーナル(BMJ)」の2020年1月号に発表されています*¹。
植物性たんぱく質の代表格である大豆や大豆製品が健康にいいことはよく知られています。
なかでも納豆のような発酵性大豆食品は、発酵過程でプラスアルファの栄養成分が新たに作られることから、よりよい効果をもたらすことがわかっています。
では、納豆はどのくらい食べたらいいのか、また朝昼晩のどの時点で、どうやって食べると、よりよい効果が期待できるのでしょうか。
循環器疾患患者の食事指導のお役に立てばと思い、情報を整理してみました。
納豆の摂取量が多いほど
死亡リスクが低下する
「JPHC研究」とは、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延長に役立てようと、さまざまな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの関係を解明する目的で行われているコホート研究(一定の共通因子を持つ集団を対象にした研究)です。
研究チームは、全国10都府県に住む40~69歳の男女約9万人を対象に、まずは1995年に、食事内容を聞くアンケート調査を実施しています。
次いで、この調査結果を基に、豆腐などの大豆食品や納豆、味噌といった発酵性大豆食品の摂取量に応じて対象を5グループに分け、平均15年間、死亡との関連を追跡調査しています。
その結果、男女ともに発酵性大豆食品の摂取量が多いほど、死亡全体(総死亡)のリスクが低くなることが確認されています。
続いて研究チームは、死因別に大豆製品や発酵性大豆食品の摂取状況とのその関連をみています。
すると、がんによる死亡では関連は認められなかったものの、循環器疾患による死亡については、男女ともに納豆の摂取量が多いほどリスクが低下することが認められたというのです。
ほかの食品による影響や、降圧薬の使用状況などの影響を取り除いて分析した結果であることは、言うまでもありません。
毎日1パックの納豆で
死亡リスクは10%減少
この研究成果は、循環器疾患患者で納豆好きの方には間違いなく朗報でしょう。
そこで「では、納豆を食べるとして一体どのくらい食べたらいいのか」を知りたくなります。
この点については、
「発酵性大豆食品を最も多く食べているグループ(1日およそ50g)は、最も少ないグループと比べて、男女ともに約10%死亡率が低かった」
という結果が出ています。
発酵性大豆食品50グラムとは、納豆で言えば一般的な市販品の1パック程度です。
さらに、発酵性大豆食品の食品別で見ると、女性では納豆や味噌を多く摂取すると、死亡率が下がる傾向が顕著だった、とする結果も報告されています。
研究チームは、納豆のような発酵性大豆食品は「日本特有の食品であり、日本人の長寿の要因の一つかもしれない」と考察しています。
発酵段階で生成される
「ナットウキナーゼ」に注目
ご存知のように納豆は、大豆を納豆菌によって発酵させた食品です。
もともと大豆には、アミノ酸バランスのよい植物性たんぱく質に加え、各種ビタミンやカリウム、鉄、カルシウムなどのミネラル、さらに食物繊維も豊富に含まれています。
この大豆本来の豊富な栄養素に加え、納豆には、大豆が納豆菌により発酵されていく過程で生成されるあの”ネバネバ”に、「ナットウキナーゼ」という酵素が含まれています。
ナットウキナーゼには、血栓(血液のかたまり)のもととなるフィブリンと呼ばれるたんぱく質を溶かして、血液をサラサラにしてくれる働きがあります。
血栓は、出血を止める場面では重要な働きをしてくれます。
ところが、血管内で血栓が大きくなると、動脈硬化を進行させたり、血管を塞いで血流を止めてしまったり、血流に乗って体内の至るところに移動して、心筋梗塞や脳塞栓、脳梗塞などを引き起こすリスクがあります。
ナットウキナーゼにはこうした事態を防ぐ効果が期待できることから、納豆が改めて注目を集めていると言っていいでしょう。
ナットウキナーゼは熱に弱いため
納豆に加熱の手を加えない
ただしナットウキナーゼは熱に弱いため、「血液サラサラ効果」を狙うなら、70度以上の過熱は避けた方がいいことが研究でわかっています。
加熱により発酵が繰り返され、その繰り返しがナットウキナーゼの栄養効果を低減させるからだと説明されています。
ですから、納豆はあまり手を加えず、そのままを食べるのがいいわけです。
日本人の多くが好むのは、熱々のご飯に納豆をのせて食べるスタイルでしょうが、その際には、ご飯を少し冷ましてから納豆をのせること。
また、冷蔵庫から出した納豆を室温に長く放置しておくことも避けたいものです。
一方で、血栓についても、深夜から早朝にかけての睡眠中にできやすいことがわかっています。
そのため納豆は、朝食よりも夕食で食べるほうが、ナット―キナーゼの血液サラサラ効果をより生かすことができると考えられています。
ワルファリン服用中なら
納豆は禁止か代用薬検討を
納豆に期待できる栄養効果を紹介してきましたが、だからといって多く摂ればいいというものではありません。
納豆は高たんぱく食品ですから、食べ過ぎると腎臓に過分な負担を強いるリスクがあります。
患者に納豆の摂取をすすめる際には、尿素窒素やクレアチニンの検査値をチェックするなど、腎機能が正常に機能しているかどうかを確認しておく必要があります。
また、循環器疾患患者のなかには、血液を固まりにくくして血栓が作られるのを予防する、いわゆる抗凝固阻止薬の処方を受けて服用している方が少なからずいるはずです。
「ワルファリン」はその代表ですが、納豆に含まれるビタミンKはその薬効を弱めてしまいますから、患者がこの処方を受けているようなら、納豆は禁止です。
なお、ワルファリンを服用している患者が納豆を食べたいと希望することもあるでしょう。
そのときは、ワルファリンの代用薬で食事などの影響を受けにくい「ダビガトラン(商品名:プラザキサ)という薬が、2011年から使えるようになっていますから、薬を変えてみることを主治医に相談してみたらいいでしょう
参考資料*¹:国立がん研究センター 予防研究グループ「大豆食品、発酵性大豆食品の摂取量と死亡リスクの関連―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8438.html