転倒リスクマネジメントに新ツール




転倒

高齢者のための
転倒予防セルフチェック

安全・安心を守る観点から、患者、とりわけ高齢患者の転倒・転落をいかにして防ぐかは、病院内は言うまでもなく、在宅ケアの現場にあっても、また高齢者施設においても、患者や利用者の安心・安全を守るうえで最重要課題の一つではないでしょうか。

この課題に関しては、すでにこれまでにも、患者個々の転倒・転落リスクを具体的にアセスメントするツールがいくつか公表されています。そのツールを活用して、患者一人ひとりのリスクに見合った安全対策を講ずるなど、実に緻密な対応がとられてきました。

しかし、転倒・転落要因には患者の病状や身体機能レベルもさることながら、病前の生活環境や生活習慣が大きく影響します。
その病前の状態を見極めることがなかなか容易ではないこともあり、多職種による転倒予防チームを組織するなどしてさまざまな予防対策が行われているものの、なかなか理想とする「転倒・転落ゼロ」には近づいていないのが現状ではないでしょうか。

一方で、内閣府が発表した2017(平成29)年の国民生活基礎調査によれば、「骨折・転倒」が65歳以上の要介護者で介護が必要となった原因の12.2%を占めています。
ランクで言えば「脳血管障害(脳卒中)」「認知症」「高齢による衰弱」に続いて第4位となっていて、介護予防の観点からも「転倒予防」は国レベルの重要課題ともなっています。

こうしたなか、国立長寿医療研究センターはウエブサイトに、高齢者自らが転倒するリスクを自己診断し、その具体的な予防策を学べる「高齢者のための転倒予防セルフチェック」コーナーを設置し、高齢者にセルフチェックを促しています。
このセルフチェックツールを、看護としての転倒リスクマネジメントに活用しない手はないでしょう。以下にその概要をまとめてみました。

22の転倒スコアをチェックして
転倒リスクを知る

「高齢者のための転倒予防セルフチェック」のコーナーには、「寝たきりにならないためにご自身の転倒リスクをチェックしましょう」の言葉に続き、チェックコーナーがあります。

そこでは、最初の質問「過去1年で転んだことがある」に続いて、概ね以下のようなチェック項目が21項目、トータル22項目が並び、それぞれに「はい」「いいえ」でチェックを入れ、転倒リスクをスコア化するようになっています。

  • つまづくことがある
  • 手すりにつかまらないと、階段の昇り降りが不可能
  • 片足で5秒くらい立っていることが不可能
  • 目が見えにくい
  • 耳が聞こえにくい
  • もの忘れが気になる
  • 家の中に段差がある
  • 家で階段を使う
  • 生活上家の近くの急な坂道を歩く

各項目は、起立や歩行に必要な筋力や視力、聴力、平衡感覚などの身体機能、および認知機能に加え、生活環境における危険因子の有無などを見極める内容になっています。
これらをチェックしていき、「はい」が多く転倒リスクのスコアが高いほど「転びやすい」と判定される仕組みで、「10点以上では転びやすい」となっています。

チェック結果に応じた
転倒予防のためのアドバイスを提示

すべての項目のチェックを終えたら、「はい」をチェックした項目に関する予防と解説のページに進みます。
たとえば「手すりにつかまらないと、階段の昇り降りが不可能」の項目に「はい」とチェックを入れた場合は、「足の筋力が低下している証拠です」などとあり、さらに以下の4項目をチェックするようになっています。

  1. 手、足、腰に力が入らない
  2. 膝が痛い
  3. 階段を降りるのが怖い
  4. 両足で立たないとよろける

これら4項目をチェックした結果、仮に1の「手、足、腰に力が入らない」に当てはまるとして「はい」にチェックを入れると、「栄養は大丈夫ですか? 多種目の食品をバランスよく食べましょう(特にたんぱく質)」「1日30分以上散歩してください」と、具体的なかたちで生活上のアドバイスを受けられるようになっています。

あるいは、3の「階段を降りるのが怖い」をチェックすると、「転落の危険があります。1階で生活する決断をしましょう」と具体的なアドバイスを提示しています。

なお、上記のセルフチェックコーナーの内容は、ウエブ上の操作に不慣れな高齢者のために、全チェック項目の解説も含めて「転倒予防手帳」にすべて網羅されています。
この手帳はこちらからダウンロードできるようになっています。

さらなる活躍が期待される
学会認定の「転倒予防指導士」

介護予防、寝たきり予防、さらには健康寿命を伸ばすという観点から、国レベルでの転倒予防の取り組みが進むなか、2014年4月に発足した「日本転倒予防学会」(理事長:武藤芳照東京大学大学院教授)は、「転倒予防指導士」の認定制度をスタートさせています。
認定に関する学会によるテキストはコチラ⇒『日本転倒予防学会認定 転倒予防指導士 公式テキストQ&A』(新興医学出版社)

2017年7月30日現在、564人いるという認定を受けた転倒予防指導士は、全国の病院や福祉関連施設などで転倒予防チームに所属するなどして、転倒予防に取り組んでいると聞きます。
また地域においても、介護予防活動にリーダーシップを発揮するとともに、私生活においても、生活環境の整備はもとより、バランス機能や脚力の強化運動を推進するなどして、家族や近隣住民らの転倒予防に大きく貢献していると報じられています。

転倒予防学会推奨の各種防護グッズも

最近はスポーツやフィットネスエクササイズの関連企業も、国をあげての転倒予防キャンペーンに積極的に参加しています。
その一例として、「最近階段の昇り降りがつらくなった」「つまづくことがよくある」など、転倒リスクを自覚している高齢者が自宅で無理なく安全に脚の筋力アップを図れるようにと、 ステップボード 踏み台運動 のようなエクササイズ器具も売り出されています。

退院支援の一環として、また地域においても、脚力やバランス感覚のアップにとこれらの器具の活用をすするたいところです。
ただ、数あるなかには身体能力が高い若者向けに用意された、比較的安価で手に入るものもあります。しかし、高齢者の身体能力、特にバランス感覚や俊敏さの低下などを考慮すると、少々コスト高になっても滑り止めストッパーを搭載した安定性のあるものを選択したほうがいいといった助言も、怠りなくしていただきたいところです。

また、転倒リスクが高いことがあらかじめわかっている高齢者に向けて、転倒による大腿骨頚部骨折などの寝たきりにつながるトラブルを防ぐために、転倒時の衝撃を和らげるパット付きパンツ、カネカ ヒッププロテクター など、日本転倒予防学会が各種防護グッズを推奨していることを付け加えておきます。

なお、2018年には「1日の喫煙本数が20本以上」が転倒・転落事故の新たな危険因子であるとの研究結果が報告されています。
詳しくはこちらの記事を参考にしてみてください。

転倒・転落事故はあらゆる年代で起きているが、多いのは高齢者。各病院は独自に作成したアセスメントシートを活用して予防に取り組んでいるが、最近そのリスク因子に「1日20本以上の喫煙」が加わることが公表された。サルコペニア対策にも貴重な情報では?