転倒・転落事故リスク因子に「喫煙」加わる




階段

入院患者の転倒・転落事故に
新たなリスク因子

あるニュース報道をきっかけに、日本転倒予防学会監修の『転倒予防白書 2016』(日本医事新報社)を読んでいて、ちょっと驚きました。
転倒・転落事故が、医療や介護の現場は言うまでもなく学校や家庭など、実にさまざまな場所において、またあらゆる年齢層で起きているのです。

転倒・転落事故はいずれの場合も、程度の差はあるものの、外傷や骨折などの健康トラブルをもたらします。場合によってはそのトラブルが、一生を通じてその人のQOLに多大なマイナスの影響を及ぼすことにもなりかねません。
特に、加齢による心身機能の低下がみられ、「サルコペニア」と呼ばれるような骨格筋の筋量や筋力が低下した状態にある高齢者が転倒・転落事故に遭遇すると、要介護や寝たきり状態につながりかねません。

そのため、患者の高齢化が進む医療現場にあっては、入院患者、および外来通院患者の転倒・転落事故対策がいっそう深刻な課題となっており、病院全体の転倒・転落リスクマネジメントを専任とする看護師さんが年々増えていると聞きます。
この場合の転倒・転落事故対策は、各病院が独自に作成したアセスメントスコアシートを用いて、リスクを把握することからスタートしていることと思います。

今回は、そのアセスメント項目に、新たなリスク因子を加える必要が出てきたのではないか、という話を書いてみたいと思います。

転倒・転落リスクが
1日20本以上の喫煙で上昇する

入院患者における転倒・転落事故の新たなリスク因子を提示しているのは、九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター助教の野原康伸氏です。
野原氏は、去る6月(2018年)に新潟市で開かれた第22回日本医療情報学会春季学術大会で行った講演のなかで、急性期病院の入院患者に関するデータ解析により、転倒・転落事故の新たなリスク因子として「1日の喫煙本数」を発見したことを報告しています。

研究は、2014年4月~2016年3月の2年間に、急性期病院に入院した患者2万2832例、延べ入院日数67万7028日という膨大な量のデータを解析して行われています。
データ解析の詳細は省きますが、解析の結果、医療現場で通常使われている「転倒・転落リスクスコア」にリストアップされている「麻痺がある」「筋力の低下がある」などのチェック項目には入っていない「1日の喫煙本数」という新たな危険因子が抽出されたというのです。

この喫煙本数について新たな解析を行ったところ、1日の喫煙本数が20本以上で転倒リスクが上昇することが判明した、とのこと。
この結果について野原氏は、「喫煙者は、喫煙所などに移動する際に転倒・転落事故を起こしやすいのではないかと考えられる」と考察しています。
そのうえで、今後については「解析結果に基づいて、転倒・転落リスクスコアの改定などにつなげていきたい」と語っています(m3.com 臨床ニュース2018/7/23による)。

日本転倒予防学会が
転倒予防に役立つ商品を推奨

このニュース報道を受け、わが国における転倒・転落防止対策を概観してみると、さまざまな取り組みが進められていることに改めて気づかされます。
なかでも、これは病院で退院支援・退院調整を担当している看護師さんや訪問看護師さんに有益な情報として活用していただけると思うのですが、日本転倒予防学会が推進している「推奨品認定事業」は、広く国民に周知したい活動だろうと思うのですが、いかがでしょうか。

この事業では、すでに、あるいは将来日本国内で市販される製品・サービスのうち転倒予防に役立つと考えられる、あるいはその期待される有効性に科学的根拠がすでに確認されている商品を「推奨品」としています(学会ホームページ「転倒予防おやくだちグッズ」)。

具体的には、必要条件として、有効性の科学的根拠を示す学会報告や論文があることなど5項目を定め、うち1つの条件を満たすものを「推奨品」として認定し、「日本転倒予防学会推奨品マーク」を使用して販売することを認めています。

たとえばその一つに、もしもの転倒時に衝撃をしっかり吸収して大腿骨近位部骨折のリスクを低減する効果が期待できるという、プロテクター付きインナーウエア「カネカ ヒッププロテクター 衝撃吸収パッド付きインナーウェア」があります。
これなどは、転倒リスクがあるものの自立度を少しでも高めようと、リハビリテーションに取り組んでいる高齢者には、是非紹介したい一品ではないでしょうか。

また、低栄養に陥りがちな高齢者の転倒予防には、栄養管理も大切です。
低栄養を防ぐ栄養補助食品は各種市販されていますが、日本転倒予防学会は、運動機能を維持するための筋力低下を予防する効果が期待できる栄養補助食品の一つとして、Nestle(ネスレ) リソース ペムパル を推奨しています。
このリソース1本は125㎖と少量ですが、この1本で筋肉量と筋力の維持に欠かせないたんぱく質を8gと、200Kcalのエネルギーを補うことができると説明されています。

高齢者の転倒・転落事故防止は
膝周りの筋力アップから

高齢者の転倒・転落事故の原因のおおもとは、加齢や病気などに伴う活動量の低下により、骨格筋の筋肉量が減少して筋力が低下する、いわゆるサルコペニアの状態に陥ることにあります。

高齢患者に多い骨格筋力の低下による身体機能の低下、いわゆる「サルコペニア」の危険因子に活動不足や栄養不良がある。入院中の患者のサルコペニアは、医師の「とりあえず安静・禁食」という指示に看護師がその妥当性を見直すことから始まるという……。

このサルコペニアを防ぐには、運動と栄養の両面からのアプローチが欠かせません。
特に転倒・転落事故の観点からいえば、膝周りの筋肉を中心に下肢全体の筋肉を鍛えて脚力をアップしていくことが、活動量を高めることにつながると考えられています。

そこで、ただ歩くだけのウォーキングが奨励されているわけですが、このウォーキングにより膝周りの筋肉、具体的には太もも前面の大腿四島筋と太もも後面のハムストリングを無理なく効率的に鍛える効果が期待できるトレーニング機器として、日本転倒予防学会が推奨しているのがパナソニック(Panasonic) ひざトレーナー です。

ひざトレーナーは、久留米大学とパナソニックの産学共同で開発された商品です。
電極付きのサポーターを膝周りに巻いて歩くだけ。筋肉の動きに合わせてかけられる電気刺激により、伸びる筋肉と収縮する筋肉に負荷がかかり、ただのウォーキングより効果的に筋力アップが期待できるとのこと。少々高価ですが、高齢者のみならずシニア世代にも人気の高いトレーナーです。

このトレーナーには、体力やその日の体調、脚の状態、その日の気分、天候に合わせてトレーニングを行えるように、さまざまなコースが搭載されています。「歩いて筋トレコース」もあれば、暑い夏や雨の日など外を歩けないときのための「家で筋トレコース」、また「座って刺激コース」などもありますから、患者にも気軽に進められるのではないでしょうか。