「世界高血圧デー」から
「減塩の日」に至るまで
世界85の国と地域の高血圧に関連する学会や連盟で組織される世界高血圧リーグ(The World Hypertension League:WHL)は2006年、人々に高血圧への自覚を高めてもらおうと、毎年5月17日を「世界高血圧デー」と定めています。
この流れのなかで日本高血圧学会は、2008年からは5月17日を「高血圧の日」とし、市民講座などを通じて高血圧対策の啓発活動を続けていることはご承知のことと思います。
たとえば2013年からは、栄養バランスがよく、しかも美味しい減塩食の普及を目的に、「JSH*減塩食品リスト」を日本高血圧学会のホームページに掲載し、周知を図ってきました。
この減塩食品リストが100品目を超えた2015年からは、特に減塩に貢献していると思われる製品を対象に「JSH減塩食品アワード(賞)」を制定・授与を開始しています。
こうした活動を全国展開していっそうの充実を図り、実りあるものにしていこうと、日本高血圧学会は2017年6月6日、日本高血圧協会等関連団体の賛同を得て、毎月17日を「減塩の日」に制定することを決め、プレスリリースしています。
制定から5年目に入り、高血圧および高血圧に合併する心筋梗塞や脳卒中等の循環器疾患、および腎疾患等の予防・治療の要となる減塩食品はどう進化しているのか、まとめてみます。
減塩率20%以上の優良食品を
「JSH減塩食品リスト」に掲載
日本高血圧学会の減塩関連の取組みは、学会内に組織された「日本高血圧学会減塩委員会」が中心となって進められています。
2013年6月からスタートしている「JSH減塩食品リスト」の作成とホームページでの公開は、全国に4300万人はいると推定される高血圧および高血圧性疾患で実効性ある減塩をめざす患者等に正確な情報と確かな製品を届けようと始められたものです。
減塩食品は、ただ食塩含有量が少なければいいというものではありません。
減塩食品を選ぶ際の重要なポイントとして、当学会減塩委員会は以下の8点をあげ、広く一般に注意を喚起しています*¹。
減塩食品を選ぶポイント
- 食塩相当量とナトリウム(Na)量はイコールではないことを理解しておく
ナトリウム量(g)×2.54=食塩相当量(g) - 加工食品のパッケージに表示された数値には誤差があることを覚えておく
許容範囲は±20% - ナトリウム量(食塩相当量)が低いという表示の意味を理解しておく
①含まない旨の表示(「無塩」など)がある食品100gあたりのナトリウム量は50㎎未満
②低い旨の表示(「低塩」など)がある食品100gあたりのナトリウム量は120㎎以下
③低減された旨の表示(「減塩」など)はナトリウム低減量が100gあたり120㎎以上
④その他:しょうゆの「うすしお」「うすあじ」の表現は、ナトリウム含有量が低いことを意味しているわけではない。しょうゆについて減塩表示を行う場合は、上記③の条件を満たしたうえで、標準的な醤油に比べナトリウムの低減割合が20%以上であることが定められている - 減塩率はあくまでも目安に過ぎないことを理解する
- 食品を減塩にすると保存性は低下する。
また味にも影響するため、特にチルド食品等は賞味期限に十分注意する必要がある - 食品のパッケージにあるアレルギー表示もよくチェックする
- 減塩食品の品質は年々向上しており、不味いものばかりではない。おいしい減塩食品も数多くあることを知っておく
- 従来品を全面的に減塩化することにより減塩の対照(減塩でない食品)がなくなってしまったり、日本食品規準成分表にその分類がないために、減塩表示することができない減塩食品があることを理解する
日本高血圧学会減塩委員会は上記の点に配慮したうえで、幅広い領域の食品から減塩率が20%以上の優良食品、29社132製品(2020年4月現在)を選択し、「JSH減塩食品リスト」*²に掲載してホームページで紹介しています。
そこでは、減塩食品は高血圧に対して必ずしも万能ではないことを念頭に、特定の食品に偏よることなく、常に栄養バランスを考えて選択するよう促しています。
減塩化に貢献した食品に
「JSH減塩食品アワード」
減塩食品は、必要な栄養素が不足することなく、また味の面でも飽きられることなく長続きするものでないと意味がありません。
そのため減塩食品には、概ね以下の2点が求められます。
⑴ パッケージに食品の栄養素などの必要事項が正しく明記されていること
⑵ 長く食べ続けられるためのおいしさがあること
日本高血圧学会減塩委員会の「JSH減塩食品」には、これらの条件を満たす減塩食品がリストアップされているわけですが、なかでも企業努力により市場に多く出回り、消費者の支持が得られている食品が数多くあります。
そこで、2015年5月から、これら人気が高く良質な減塩食品のなかから減塩化に優れた成果を上げたものに対し、「JSH減塩食品アワード」を授与しています。
このアワードを受賞した減塩食品は、日本高血圧学会のホームページ*¹で見ることができます。患者指導の際などに是非チェックしてみてください。
「減塩の日」を機会に
食塩摂取量を6g/日未満に
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、1日当たりのナトリウム(食塩相当量)摂取量について、高血圧と慢性腎臓病(CKD)の重症化を予防するために、成人の男女ともに、食塩相当量で6g未満を目標にすべきとしています。
しかし、厚生労働省の2018年国民健康・栄養調査結果によると、成人1日当たりのナトリウム摂取量の平均値は、食塩相当量で10.1gと、目標値を大幅に上回っています。
WHO(世界保健機関)が1日5g未満を推奨していることを考えると、高血圧の有無に関係なく、「減塩の日」をいい機会に、ご自分が1日にどの程度の食塩を摂取しているか、食生活を見直してみるのもいいのではないでしょうか。
減塩指導では「ナトカリ比」の説明も
なお、減塩指導となると減塩、つまり塩分の摂りすぎに注意するようにといったことに話が集中しがちではないでしょうか。
しかし、塩分(ナトリウム)と野菜等(カリウム)の摂取バランス、いわゆる「ナトカリ比」についても伝えることをお忘れなく。
この、新しい健康指標である「ナトカリ比」についてはこちらを参照してください。
参考資料*¹:日本高血圧学会「さあ、減塩」
参考資料*²:日本高血圧学会「JSH減塩食品リスト」